表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷竜の娘  作者: 春風ハル
197/570

196.大陸への道筋

『それでリエティール。 君はこれからタミルクとナクロヴにも会いに行くんだろ?』


「うん。 北にある国の港にいって、そこから先に天竜イクス・ノガード禁足地オバトに向かうつもりだよ」


 海竜リム・ノガードの問いにリエティールが頷いて答えると、海竜は不思議そうに顔を捻る。


『それは……ここからどうやって大陸に行く予定なの? ここに来た時みたいに、氷に乗ってどこかの島に行って、船に乗るつもり?』


 リエティールは元よりそのつもりだったため、躊躇いなく頷こうとしたのだが、寸前で海竜の問いの意図に気がついて頷くのを止めた。

 ここに来る時には、周囲に人がいないことをよく確認してから見つからないように島を離れることができたが、ここから島を目指して向かうとなると、偶然人がいて見つかってしまう可能性は少なからず在った。


「どうしよう……」


 氷の船に乗って移動しているのを誰かに見つかれば、魔法が使えると感づかれてしまう可能性が高い。偶然人に見られたとして、その人が黙っていてくれるならば良いのだが、勿論何か対価を要求されたり、言いふらされる可能性は存在するため、可能な限りそのようなリスクは避けたい。

 リエティールが小さく唸ると、海竜はこう言った。


『ま、そこは心配しなくていいよ。 僕がさっきの霊獣種ロノを呼んであげるから、それに乗って海の中を泳いでいけばいい。 あの霊獣種は結構長生きしていて魔力の量も多いし、大陸につくまでの間くらいなら君を守るのも問題ないと思うよ。

 道中は、僕が特別に海流を作ってサポートしてあげるし、それでどう?』


「えっと、大丈夫……かな?」


 海竜の言う通り、海の中を泳いでいけるのであれば、船や陸地から誰かに見つかる危険性は低いだろう。海流に乗っていくのであれば、船に乗るよりも早いだろう。

 だが、リエティールは自分の都合で霊獣種を呼びつけることを少し後ろめたく感じ、躊躇っていた。そんな彼女を納得させるために、海竜はこう説明する。


『彼らは魔力本意の存在だってことはわかってるだろ? それで、僕らみたいに魔力が多い存在を敬ってることも。

 彼らにとって魔力の高い存在に会えることは嬉しいことなんだよ。 それに、力になれるとなれば尚更光栄なことなんだ。 船に乗っている君に姿を見せに言ったのも、海に落ちた君を助けたのも、彼が望んでやったことだ』


「……知ってたの?」


 海竜の言葉に後ろめたさは薄れながらも、海竜が出会う前のことまで知っていたことを疑問に思い、リエティールはやや訝しげな顔でそう質問する。


『仮にも僕は海を統べる存在として生きてるんだから、直接見えなくても海の周辺で起こることはわかるものさ。

 ドラジルブの言葉で君が来るってことをわかってたから、いつ来るかって気配を探っていたから、すぐに分かったよ。 海に入ってからはずっと君の気配を追っていたから、他の人間ナムフと船に乗って移動して、魔操種シガムと戦ったことも知ってるよ』


 そう語る海竜はどこか誇らしげな顔をしている。対してリエティールは納得しつつも複雑そうな表情をしていた。気配だけとは言え、自分の行動を見張られていたのだと思うと、どこか居心地が悪く感じてしまう。

 そんな彼女の表情を見て気持ちを悟ったのか、


『そんな嫌そうな顔しないでよ! 大陸に行ったらもう追ったりしないから……でも、多分タミルクは今も君の気配を探ってると思うよ。 なんたって彼女は好奇心が強いし、空を司ってるからね。 風が吹く場所なら気配を探るのは難しくないだろう。

 嫌だと思うなら、早く会いに行った方が良いと思うよ』


 それを聞いたリエティールはげんなりとした顔でため息をついた。知らなければ良かった、と後悔しても今更どうすることもできないので、もどかしく思いつつも諦めることに決めた。


『ところで、目的地は北の国の港でいいの? なんなら、禁足地に近い陸地まで直接泳いで行けば良いと思うけど』


 海竜の問いは尤もなものであったが、リエティールは特に悩んだ素振りも見せず、すぐに


「ううん、港でいいよ」


と答えた。それは、街に寄って休憩したかったり、服をなんとかしたいと思っていたのもあるが、なにより彼女が北の国に強い興味を持っていたことが一番の理由であった。商人の船に乗っている最中に、ロッソとエニランから大陸の国の話を聞いていたのである。

 ヘテ=ウィリアップ大陸の北一帯を治めている国、「オロンテト」は、通称「錬金術師ミクラルトの国」とも呼ばれるほど、錬金術師の数が多い。そのため新たな魔道具スルートが日夜研究開発されている技術大国でもある。穏やかな気候であることに加え、大きな港を構え周辺国とのやり取りも盛んなことで、素材が集まりやすいことが理由であった。

 リエティールはセノが使っていた「ガッセンの耳飾」を見てから、魔道具に興味を持っていた。それ以来是非もっと魔道具を見ていたいと思っており、オロンテトの話を聞いてから絶対にいきたいと思っていたのである。


『そっか。 なら、港に直接はいけないから……港近くにある少し険しくなってる岩場を目的地にしよう。 そこなら人に見つからずに陸地に上がれるだろうし』


 海竜も、特に理由を聞くことなく納得し、港付近へと目的地を決定した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ