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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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191.波を乗り越えて

 海竜リム・ノガードは再び水球を作り出し、リエティールはそれを迎え撃つ。砕け飛び散るそれぞれの破片は、日の光を反射して光り輝き、戦いの最中で無ければ見惚れてしまいそうなほど美しい光景を作り出していた。


『こういうのもできるよ、それっ!』


 海竜がそういうと同時に、リエティールの周囲の水が盛り上がり、鞭のように長く伸びると、大きくしなってリエティールに襲い掛かった。

 リエティールは氷の壁を作ってそれを受け止めるが、見た目以上の威力を持ったそれは易々と壁を壊して見せた。


「くぅっ……!」


 壁が破られると同時に大きく飛び退いて回避し、直撃を免れる。そうしている間にも水の鞭はもう一度振りかぶり、次の攻撃態勢に入っている。


「防げないなら……壊すっ!」


 今度は壁を作らずに大きく飛び退きながら、先程までいた場所に氷の刃を作る。氷の刃を通過した鞭はすっぱりと切れ、そこに追撃とばかりに更なる氷の刃を飛ばして細切れにする。鞭の形を失った水は動きを失い、そのまま水面へと落ちていった。


『やるね』


「今度はこっちの番!」


 そう言葉を返して、リエティールは攻勢に入る。先程の攻撃より数は少ないが、大きく強度も高い氷の鏃が浮かぶ。

 そしてその鏃を曲線を描くように飛ばしながら、海竜を取り囲む形で配置する。


「えい……っ!」


 リエティールが上に翳した手を振り下ろすと、鏃は海竜目掛けて一斉に飛び出す。取り囲む形の攻撃をすれば、まともに当たらずとも一つくらいは掠るかもしれないと踏んだのだ。


『これくらい、どうってことないよ!』


 だがそんな思惑とは裏腹に、海竜は余裕の笑みを浮かべると、激しい渦とは反対周りに体をくねらせる。

 すると巨大な波が海竜を囲むように発生し、外側へと向かって鏃を飲み込んでしまった。大量の水に覆いかぶさられては、幾ら水を貫く鏃だったとしても一たまりも無く、勢いを失って海に沈んでしまった。

 激しい波はリエティール自身にも襲い掛かり、リエティールはただ転ばないように身を低くして耐えていた。


『これで終わりじゃないよ?』


 波の壁の向こうから海竜のそんな声が聞こえ、リエティールは警戒して顔を上げる。それと同時に波が割れ、その向こうから水球が勢いよく飛んできた。


「きゃあっ!」


 見えていなかった攻撃を防ぐことができず、リエティールはその水球をまともに喰らい弾き飛ばされる。

 そのまま水面に叩きつけられ、リエティールは急いで足場を作りよじ登った。コートや靴、手袋は魔法を施していたためか、表面が濡れただけで中までしみこむことは無かったのだが、まだ魔法を施していなかったワンピースと髪はぐっしょりと塗れ、全身に錘がついたような状態になる。


『どうだい、降参する?』


 足場の上で立ち上がるリエティールに向けて、海竜はそう尋ねる。その問いに、リエティールは鋭い視線を向けて答えた。


「そんなことしないっ!」


 その宣言と同時に、彼女の周囲に氷の魔力が勢いよく溢れ、ワンピースの表面や髪が凍りつき、次の瞬間には細かく砕けて粉雪の如く風に舞った。それはまるで彼女を覆っていた殻を破ったようにも見えた。


『いいね、そうこなくちゃね……!』


 そんなリエティールを見て、海竜は再び驚きつつも心底嬉しそうにそう言った。



 リエティールの宣言をきっかけにして、戦いは再開された。

 しかし、良い攻撃方法が見つからないリエティールは、水球と鞭と波を辛うじて翻す防戦一方であった。

 氷の形、数、動かし方、様々に試行錯誤するものの、どれも巨大な波に飲まれて届かない。辛うじて抜けたとしても、勢いが殺されてしまっているためあっさりと砕かれてしまう。


 いくら氷を飛ばしたところでその攻撃は無効化され、その度に反撃をされる。余裕を持って防いでいる海竜とは違い、リエティールはそれら一つ一つを躱すだけでも精一杯であった。なにより海竜はその場から全く動いていないのに対し、リエティールは不安定な渦巻く海面の上に立ち、走り回らなければならないのである。いくら氷竜エキ・ノガードの身体能力を引き継いでいるとは言え、このままでは海竜よりも先に体力が尽きるであろうことは考えずとも明白であった。

 だが、リエティールは若干の疲労を見せつつも、その顔にまだ絶望の色は無かった。

 今、彼女の中には一つの攻撃の案があった。その攻撃の軸となるのは、海竜の頭上に上ることであった。頭上であれば、波で防がれることは無いと気がついたのである。

 勿論これまでも頭上からの攻撃を何度か試してはいたが、それらは水球や鞭で壊されたり薙ぎ払われたりしてしまっていた。

 だが、まだ試していないことがある。

 リエティールはもう一度、海竜を取り囲む攻撃を準備する。


『何度やったって同じだよ!』


 それを見た海流は、再び身をくねらせて波の壁を作り出す。例の如く、氷はあっさりと飲み込まれた。

 その後は波が割れ、水球が飛んでくることはリエティールもわかっているため、冷静に迎撃をして打ち落とす。

 彼女の狙いはその後であった。


「──今っ!」


 割れた波が覆いかぶさる形で海面に落ちるタイミング。その瞬間に、リエティールは全霊を注いで魔法を発動した。

 ありったけの魔力は巨大な波を一瞬で凍りつかせた。凍りついた波は海竜の丁度顔の下辺りまでの高さがある山となり、リエティールはそこを全力で駆け上がった。

 山の頂上でリエティールは渾身の力で跳び上がり、海竜の頭上まで上がる。そして槍を構えて急降下を開始した。

 まさか彼女自身が飛び込んでくるとは思っていなかった海竜は、一瞬呆気にとられるが、すぐに我に返って水球を生み出して妨害を試みる。

 だが、同時にリエティールは再び魔法を発動し、槍の切っ先を中心に、円錐状の氷を作り出す。彼女を包む形で生み出されたそれは、水球にぶつかり削れながらも、中にいるリエティール自身への衝撃は無いため、彼女の落下を妨げさせはしなかった。

 リエティールから絶えず溢れ出す魔力の影響で、この氷は今までのどの攻撃よりも頑丈であった。多少軌道を逸らされたところで、遠隔操作ではなく彼女自身の意思で素早く動くことができるため、当てる事に支障はない。

 リエティールは真っ直ぐ、海竜目掛けて突き進んだ。

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