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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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187.海竜の禁足地へ

 海に投げられ一巻の終わりかと思いきや、エボルエラの姿をした霊獣種ロノという思わぬ存在により助けられ、リエティールは一安心したが、周囲を見渡して再び不安げな顔をする。


「ここ、どこだろう……」


 周囲を見回しても何も見当たらない。海図と羅針盤サモックは無事だが、現在地がわからなければ進むべき方向も見当がつけられない。


「オオォ……」


 リエティールが不安がっていることが伝わったのか、霊獣種が何かを尋ねるように短く鳴いた。

 自らを乗せた巨大な存在を見下ろして、リエティールはもしかしたら、と僅かな希望を見出してこう尋ねた。


「えっと、海竜リム・ノガードのいるところに行きたいの。 あなたは、わかる?」


「オオォォ……!」


 すると、霊獣種は頷く代わりに力強く鳴くと、ゆっくりと泳ぎ出した。そして徐々に速度を上げ、何も目印がないはずの海原を迷い無く進んで行く。


「……ねえ、もしかして、ずっと私のことを見ていてくれたの?」


 ふと、そんなことをリエティールは尋ねた。

 恐らくこの霊獣種は、ロッソやエニラン達と見たエボルエラと同じ個体だろうと思ったのである。そしてその時にこの霊獣種はリエティールがどういった存在であるか、ということにも気がついており、海の深いところからずっと見守っていたのかもしれない、と考えたのである。

 そうであれば、海に落ちたリエティールをすぐに助けられたことにも納得がいく。


「オオオォ……」


 言葉はないが、その鳴き声はどこと無く嬉しそうであり、恐らくその通りなのであろう。

 と、やり取りをしていてふとリエティールはあることを思い出した。それは念話であった。

 念話も魔法の一種であり、どの属性の魔力でも扱うことが出来る無属性ラムロンという分類をされている魔法であった。

 念話を使うには、伝えたいことを明確にする強い意志と、膨大な魔力が必要であった。便利な魔法でありながら、人間ナムフの間で殆ど知られていないのは、その消費量の多さゆえに扱えないためであった。

 今のところ、この霊獣種はリエティールの言葉を理解しているため、話すことはできそうである。霊獣種であれば、念話をする魔力も十分にあるだろう。


「あなたは念話を使える? 使えるなら、あなたの声が聞きたいの」


 リエティールがそういうと、僅かな間の後、


『……ええ、勿論可能です』


という声が頭の中に響いてきた。その声は、鳴き声と同じ、神秘的な雰囲気を持った声であった。


「どうして今までこうやって答えてくれなかったの……?」


 問題なく使えるのであれば、こうして最初から念話を使って答えてくれればよかったのに、とリエティールは不思議に思いそう尋ねた。

 すると、霊獣種は困った声色でこう返した。


『我々霊獣種は、魔力の多き存在を尊ぶもの。 こうして念話で言葉を交わす際は、まず上の者から促すことが道理なのです』


「え? あ、そうなんだ……。 ごめんなさい、知らなくて……」


 霊獣種の間にそのようなルールがあるなどと言うことは知らなかったため、リエティールは驚いた。本の中にも霊獣種のことが詳しく書かれている箇所はあったが、そういったことは書かれていなかった。恐らく霊獣種と念話で会話する人間の記録が殆ど存在しなかったためであろう。


『貴方様が謝られる必要はございません。 ご存知でなかったのであれば仕方の無いことです』


 霊獣種は穏やかな口調でそう答えると、続いてこう尋ねてきた。


『私は長い間、この無垢種ラミナの姿を借りて海の中を漂ってきました。 その間に、多くの人間や魔操種シガム、別の霊獣種とも出会いましたが、貴方様のような魔力の持主は、私は他に海竜様しか存じ上げません。

 貴方様はきっと、古種トネイクナに連なるお方なのでしょう?』


 その問いかけに、リエティールは頷いた。


「……うん。 私は、母様の……氷竜の後継ぎなの。 でも、今はまだ全然力が使えない。 海竜に会いに行きたいのは、その力を使えるようにするためなんだ」


『……なるほど、そうでございましたか。 貴方様が……』


 霊獣種は、リエティールの話を聞いて驚きと納得を表し、そう言った。


『では、急ぎ海竜様のいらっしゃる場所まで案内いたしましょう。 道筋は承知しております。 どうぞ、しっかりおつかまりになられてください』


 そう言い、霊獣種は今まで以上に速度を上げる。吹きぬける風と激しく上がる白波が、その速さを物語っている。

 やがて、禁足地の範囲内へと到達したようで、海流が目に見えて激しくなった。流石の霊獣種もそれを突っ切っていくことはできないようで、迂回をし始める。

 到底乗り越えられそうも無い海流であったが、霊獣種はその海流の合間にある僅かな隙を見つけ出し、確実に内側へと進んで行く。


(伝承の船も、この道を見つけたのかな)


 嘗て本で読んだ内容を思い出し、リエティールがそう考えているうちにも、霊獣種はどんどん泳ぎを進め、ついに激しい海流を切り抜けた。

 そこは周囲を激しい海流に囲まれているにも拘らず、不自然なほどに静かな水面が広がっていた。


『では、私めはここでお暇させていただきます』


「うん、ありがとう。 助かったよ」


 リエティールはそう言って、側に氷の足場を作り出すと、霊獣種の頭を優しく撫でてから飛び移った。

 霊獣種は嬉しそうに目を細めると、大きく歌うように鳴いて後ろへ振り返り、その場から姿を消した。

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