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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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176.テレバーとルアフ島

 依頼主が泊まっているという宿へ着き、リエティールは受付へと向かい、証明書を取り出しながらこう言った。


「ええと、テレバーさんに会いたいのですが……その、依頼を受けたので」


「はい、エルトネの方ですね。 依頼を受注した方はお部屋までお通しするようにと言われておりますので、ご案内いたします」


 そうして依頼主、テレバーの滞在している部屋の前まで案内され、リエティールは一人扉の前に立つ。

 今まで少ないながらも依頼は受けたが、こうして依頼主に直接会って話を聞くという経験は初めてのため、若干の緊張がある。

 ゆっくりと深呼吸をした後、意を決して扉をノックする。すると、中から男性の「はい」という返事が聞こえた。


「あ、あの、依頼を受けたエルトネのリエティールです」


 そう名乗ると、程なくして扉が開かれた。そこにいた男は、筋骨隆々とは言えないものの、細身でありながらしっかりと筋肉がついている、日焼けた肌の人物であった。

 彼はリエティールを見て一瞬驚いた表情をしていたが、すぐに優しい笑みを浮かべて、


「ようこそ。 依頼を受けてくださりありがとうございます。 詳しい話をしますのでどうぞお入りください」


と言った。

 言われるがままにリエティールは中に入り、用意されていた椅子に腰掛けて向かい合う。


「名前は既にご存知かと思われますが、私が依頼主である貿易商のテレバーです。 今回はどうぞよろしくお願いします」


 そう言ってテレバーは軽く頭を下げる。リエティールも改めて名乗りお辞儀をする。


「依頼の内容については、納得いただけておりますか?」


 そう問われ、リエティールは特に考えることもなく頷いた。それを見てテレバーはほっと安心した顔になる。


「それはよかった。 他の依頼に比べると、報酬が少なめなので受けてくださる方がいなかったんです」


「どうしてですか?」


 リエティールにとっては銀貨六枚というのは、安めの宿であれば数日泊まれる金額なので、特に少ないと思ってはいなかった。そもそも他の依頼と報酬額を比較していなかったというのもある。


「元々三人の中堅のエルトネの方と契約していて、定期的に護衛の依頼をしているのです。 しかし今回は一人、大切な用事が入ってしまったと言って欠員が出てしまって、急遽エルトネの方を募集していたのです。

 そのため、予定になかったので、あまり高くできず……受けていただけて本当に助かりました」


 テレバーはそう言って深々と頭を下げた。募集条件の評価が低かったのも、少しでも広い範囲に募集をかけるためであった。

 リエティールは慌てて首を横に振ると、


「私こそ、ルアフ島に丁度行きたいと思っていたところなので、助かりました」


と言った。すると、それを聞いたテレバーは不思議そうな顔をして、


「あの島になにかご用事が?」


と尋ねた。彼としては純粋な質問だったのだが、リエティールは内心どきりとしていた。まさか禁足地に行きたいからだとは言えない。


「それは……あ、あの張り紙を見て、興味を持って……」


「ああ、そうでしたか」


 テレバーはリエティールの言葉を不信がること無くあっさりと納得した。それどころかどこか嬉しそうにも見える。

 リエティールが若干拍子抜けしていると、それを不思議がっていると勘違いしたのか、テレバーはこう話した。


「実はあの張り紙、私が貼って欲しいとお願いしたものなんですよ」


「え、そうなんですか?」


 思っても見なかった言葉にリエティールが驚いてそう問い返すと、テレバーは頷いてこう続けた。


「ルアフ島は私の生まれ故郷なんです。 昔から漁業が盛んで、取れたてのフシフを毎日食べていたんです。

 ですが、海の上にポツンと浮かんでいる上に、禁足地オバトに近いということで、余所からの人はあまり近寄らなくて……魚目当てに貿易に来る人はそこそこいたのですが、知る人ぞ知る名所、のような感じになってしまいまして……。 名前が広まらなくて寂れていく一途を辿るばかりでした。

 このままじゃ島から人がいなくなってしまうんじゃないかと思って、何とか人を呼び込もうと思って、あの張り紙を作ったんです。

 今では名前も知らない人が多いので、あえて禁足地と出すことで興味を引こうと……」


 どうやらルアフ島は、似たような状況でも栄えていたドロクとは全く逆の道を歩んでいたようであった。

 とにかく、上手く誤魔化せたことにほっとしつつ、リエティールは相槌を打った。


「いや、しかし、貴方のように若い女性が来るとは思っていませんでした。 荷物の積み下ろしは力仕事になりますが、本当に大丈夫ですか?」


 一度依頼内容については理解していることを確認したとは言え、やはりリエティールは見た目は普通の幼い少女である故、心配になるのであろう。


「大丈夫です」


 そんな心配を拭い去るように、リエティールは引き締まった笑顔でそう言った。自信満々なその様子は、傍から見れば子供が強がっているようにも見える。


「わかりました。 よろしくお願いしますが、無理はしないでくださいね。 なるべく小さい荷物を優先して運んでください」


 テレバーもやはりそう感じたのか、完全に納得した様子ではなかった。しかし子ども扱いはしないところに、彼の人のよさが出ているようだ。

 リエティールも、自身が見た目通りの存在で無いことは自覚しているため、素直に「わかりました」と言って了承した。

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