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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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161.エゼールの居場所

 セノにつれられ、リエティールは庭の一角にあるガゼボに着いた。

 途中庭の警備をしている兵士と数回会ったが、セノが事情を説明することで特にトラブルも無く到着し、二人は向かい合う形で腰を下ろした。どうやら彼は他の兵士達にとても慕われているようで、彼らが疑念を抱くような様子は微塵も感じられなかった。

 周囲は花の生垣で囲まれており外からは見えづらく、噴水が近くにあるため話し声をかき消してくれると、セノは説明した。屋外なので一見すると無防備にも思えるが、そう言った点では相談事などには向いているようである。


「さて、では詳しい話をお願いします。 エゼール嬢の行方が分からない、ということでしたが」


 そう話が切り出され、リエティールは頷いてから説明をし始めた。


「私は、そろそろ王都から出ようと思っていて、それでエゼールさんに挨拶しようと、昨日の午後に宿泊先に訪ねていきました。 でも、その時はいなくって、もう一度日が暮れる頃に行ってみたのですが、戻っていないと言われて……。

 今朝も戻っていないらしくて、ついさっきまで入り口が見えるところで待っていたのですが、やっぱり帰ってこなくって……。

 考えすぎかもしれないですけど、なんだかとても心配で、セノさんなら心当たりがあるんじゃないかと……」


 その話を聞いたセノは、難しそうに顔をしかめ、顎に手を当てて考えるような仕草をする。


「昔こそ、彼女はよく道に迷っていましたが、今はそう迷うことは無いでしょう。 道に迷ったとは考えにくいですね。

 知り合いの屋敷に泊まった可能性もありますが、宿に何の連絡もいれず、それ以降一度も戻ってきていないというのも怪しい……。

 ……ふむ。 やはり、これを使うのが良さそうですね。 持ってきて正解でした」


 そう言って彼がポケットから取り出したのは、緑色の宝石のようなものがついた一つの耳飾であった。

 綺麗ではあるが、普通のアクセサリーのようにしか見えないそれに、一体何ができるのだろうとリエティールは首をかしげた。


「これは魔道具スルートというものです」


「するーと?」


 聞きなれない言葉にリエティールは首を更に捻る。それを見て、少し口元に笑みを浮かべつつ、セノは簡単に説明する。


「魔道具というのは、錬成術師ミクラルトという職業についている人々が作る、命玉を材料とした道具です。

 集中し効果を思い浮かべることで、誰でも特定の魔法現象を扱うことが出来るようになっています。

 この耳飾もその一種で、『ガッセンの耳飾』というイクスの魔道具です」


 リエティールは、目の前にある耳飾が魔法を扱える道具だと知ると、驚いてそれを凝視した。知らなければただのアクセサリーにしか見えないのに、特殊な能力を持っているということが信じられなかった。

 彼女が夢中で見つめていると、ふとそれをセノがじっと見ていることに気がつく。その目は微笑ましいものを見るような、そして少し困ったような目をしており、リエティールははっとして姿勢を正し、「すみません」と小さく謝った。それに対してセノは首を横に振って気にしていないと意思表示した。


「ええっと……その、それで何をするんですか?」


 魔道具と言うことは分かったが、この耳飾がどんな魔法を使えるものなのかは分からないため、果たしてエゼールの発見にどう役立つのか、彼女には全く想像できなかった。


「この耳飾は二つで一つのもので、極限られた時間ではありますが、どれ程離れていてももう片方に言葉を伝えることができます。

 そしてその片方はエゼール嬢が持っており、恐らく今も身につけているはずです」


 それを聞いて、リエティールはエゼールの姿を思い返してみる。言われて見ればつけていたような気がしなくもないが、そこまでよく見ていなかったため確信は持てない。

 どうして今も身につけていると思うのか、セノに尋ねてみると、彼はどこか嬉しそうにこう答えた。


「これを渡したのは彼女がまだ幼い頃のことです。 あまりにも彼女が道に迷うので、もし近くに兵士がいないような場所で道に迷ってしまっても連絡が取れるように、と渡したのがきっかけです。

 貴重で高価な物なので、そう簡単に渡せるような物ではないのですが……それを伝えたら使うのが怖くなったのか、次にあった時には頭に地図を叩き込んでいて、思惑通り、抑止力になりました。

 その日から、彼女はいつもそれを身につけていて、先日のパーティでも身につけていたので」


 それを聞いて、そこまでつけているかどうかを気にするということは、彼自身もまたそれを身につけていてくれることが嬉しいのだろうか、とたわいも無いことをリエティールは考えていた。

 だがすぐに、今はそんなことを考えている場合ではない、と頭から振り払う。


「じゃあ、それを使えば、エゼールさんとお話できるんですか?」


「ええ。 とても短い時間ですが、居場所を聞くくらいは可能なはずです」


 リエティールの問いにセノは頷き、その耳飾を自らの耳につける。それからそこに手を添えたまま、彼は耳飾に意識を集中させる。その様子をリエティールは邪魔をしないように、息を呑んでじっと見つめていた。

 少しの間を置いて、セノは囁くように話し始めた。


「……エゼール嬢、聞こえますか。 聞こえているなら返事をしてください」


 その問いかけから間もなく、セノにだけ聞こえるような小さな声で向こうからの応答が返ってきた。


『セノさん……? セノさんですか?』


「はい、そうです。 無事ですか?」


 リエティールにはエゼールの声が聞こえていないため、ちゃんと通じているのか不安な気持ちがあったのだが、会話が続いているということはエゼールから返事があったのだろうと理解し、一先ず安心した。


『はい、一応は……』


 そう答える彼女の声は、不安に震えているようで、何かに怯えている様子であった。その声の小ささからも、近くに誰かがいて、会話がばれないか気にしているのだろうか。


「長くは持ちませんので、単刀直入に聞きます。 今貴女はどこにいらっしゃるのですか?」


 問いに対してエゼールが答えている途中で、ふっと声が途絶える。耳飾の緑色は薄く退色しており、込められていた魔力が消費されていることを示していた。

 耳飾から手を離し不意に動いた彼に、リエティールは「どうしたのですか?」と心配そうに声をかける。


「場所は分かりました」


 それを聞いて彼女は安堵に表情を緩める。そして場所を聞いた時、その顔には困惑が満ちるのであった。

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