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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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159.また明日

 三人がウォラに乗って出てきた時は、まだ坑道からニログナが姿を現すのが完全に途切れたわけではなかったが、原因であると思われた巨大なニログナが倒れたためか、次第に落ち着きを取り戻し、一時間ほど経つと新たに姿を現すことは無くなった。

 やっと終わった、と鉱山兵レイドリン達は手を上げて喜び、エルトネ達も満足げに笑いあっていた。


「一先ず、これで解決でいいだろうか」


「はい! ありがとうございます!」


 リーフスの言葉に、鉱山兵の隊長である一人が嬉しさを隠さずにそう言って深々と礼をする。それから、リーフスは別の鉱山兵に向くと、


「ドロシム。 お前の素早い報告が無ければ事態は更に悪化していただろう。 よくやった」


と言った。ドロシムと呼ばれた兵士は、城へ報せに来た人物である。名を呼ばれたことに、彼は表情を明るくし、深くお辞儀をして感謝した。

 彼らに労いの言葉を掛け終わると、リーフスはエルトネ達を呼び寄せ、倒したニログナをまとめてから王都のドライグへと帰還の途についた。


 帰りの道中、兵士達はリーフスに淡々と説教をされ続けていた。語気を荒げこそしていないが、その言葉の端々から怒りとも落胆とも取れる刺々しい感情が滲み出ており、兵士たちの顔は蒼白であった。

 いかにも降格処分は免れなさそうな雰囲気であり、王都に着く頃には兵士達は青菜に塩をかけたようになっていた。

 彼らの軽はずみな行動で事態が悪化したのが明らかである以上、自業自得ではあるのだが、そんな様子を見て、周囲のエルトネ達の中には気の毒そうな視線を向ける者もいた。


 ドライグに帰ると、依頼の報酬の精算が行われた。とにかく大量のニログナを持ち帰ったため、その素材の買取額だけでもリエティールの想像を絶するような金額になっていた。そこへ国からの依頼に対する報奨金が加わると、それこそ夢でも見ているのではないかと言う金額になる。そこから参加者へと平等に配分されていったのだが、クシルブでの緊急依頼とはまさに別格の金額に、彼女はただ目を丸くして驚くことしかできなかった。


 貰った報酬は、それこそ王都で普通の宿に数日泊まっても余裕がありそうなほどであったが、リエティールには今更別の宿に泊まる気は微塵もなく、今日もまたナーツェンの宿で眠るつもりでいた。

 時刻はもう昼を悠に越えており、デッガーと共にドライグで遅い昼食を済ませた帰り道、彼女はこれからのことを考える。

 エゼールとのパーティは無事に終わり、特別これと言った用事も無い。狩場での訓練も行い、思わぬ収入も得た。できるのであればもう少し王都でゆっくり過ごしたい気持ちも無いわけではないのだが、のんびりとした旅をしているわけでもない。


(明日には、もう王都を出て港町に向かってもいいのかな)


 そう考え、ならば王都で世話になった人々に挨拶をしていかなければ、と彼女は思った。ナーツェンとデッガーは勿論のこと、エゼールにもしっかり挨拶をしなければ、と考え、彼女が止まっている宿泊場所へと向かうことにした。


「デッガーさん、少し寄りたいところがあるので、先に戻っていてください」


「……どこに行くんだ?」


 リエティールの言葉に、やや目を鋭くしてそう言う。どうやら先ほどの出来事をまだ引きずっているのか、心配性な部分が出ているようで、行き先によっては着いていくぞ、と目で語っていた。


「お友達の泊まっているところです。 大通りに面しているので、あんまり遠いところじゃありません。 すぐ戻るので、心配しないでください」


「そう、か。 ……早く戻れよ」


 自分がまた妹の姿をリエティールに重ねてしまっていることに気がついたのか、彼は少し気まずそうに目を逸らしながらそう言い、二人はそこで別れることになった。


 パーティの際、庭を歩いている時に場所は聞いていたので、リエティールは途中で教会に寄りながら、その場所へ歩いた。

 着いた建物はとても立派で、流石に城とは比べられないが、それでも屋敷のように美しい外観は、まさに貴族が泊まりそうな高級感を漂わせていた。

 一歩踏み入るのにも緊張しつつ、リエティールは息を整えてから中にはいり、正面のカウンターに向かう。


「あ、あの……すみません」


「はい、如何されましたか?」


 受付嬢に声を描け、エゼールが今部屋にいるかどうかを尋ねる。受付嬢は「少々お待ちください」と言った後、少しの間調べ、リエティールにこう答えた。


「ただいまはお出かけになられております。 伝言でしたら、私の方からお伝えすることも可能ですが、如何なされますか?」


 そう尋ねられ、少し悩んだ後、リエティールは首を横に振った。別れの言葉は、やはり自分の口で直接伝えたいと思ったので、日が暮れる頃にまた来ることに決めて、一度宿へ帰ることにした。


 宿に着くと、カウンターでナーツェンがデッガーから今日の出来事の話を聞いているところであった。デッガーが明らかに面倒そうな顔をしているので、恐らく何かに感づいたナーツェンが強引に聞き出したのだろう。

 そこにリエティールが加わると、ナーツェンはより面白そうな、デッガーは一層面倒くさそうな顔になり、話は弾むこととなった。勿論、魔法のことについてはそれとなく、若干無理がありつつもぼかして話したのだが、そこに関してナーツェンが何か気がついたのかは不明であった。


 話しているうちに話題は変わりつつ、気がつけばかなり話し込んでおり、夕暮れになっていた。それに気がついたリエティールは話をそこそこに切り上げ、席から離脱して再びエゼールの宿へと歩いた。

 しかし、


「まだ、戻っていないんですか?」


「はい」


 受付嬢から帰ってきた言葉に、リエティールは残念そうにそう言った。

 夕暮れになっても戻っていないとなると、少し心配な気持ちもあるが、まだ外出していてもおかしくは無い時間ではあるので、いなくても不思議ではないと自分を納得させる。


(明日の朝、また来よう)


 そう決めて、リエティールは受付嬢に向かって「ありがとうございました」と言うと、再び宿に戻って夕食をとりその日は眠った。

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