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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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153.猛攻

 リエティールが鱗を打ち落とし、リーフスが剣で接近戦をすることで、ギリギリ戦況は拮抗した状態で保たれていた。

 ニログナは一度、鱗での攻撃は防がれて意味が無いと思ったのか、飛ばすのを止めた時があった。しかしそれを好機と見たリエティールが攻撃の手を止めずに逆に攻めたため、迎撃するために結局打ち出すこととなっていた。

 一見すると五分五分のように見て取れるが、実際にはリエティールの方が幾らか有利な状態であった。リエティールはまだまだ魔力に余裕があり、残弾を気にする必要も無い。

 一方のニログナは、同時に二発をコントロールするので限界のようで、一度に三発以上打ち出すようなことは無い。上位種として進化しているならば魔力量も多いはずだが、ニログナの場合はその体を強化する方に多くをまわしているようであり、一度の攻撃に使える魔力は少ないようであった。

 そして何より、自らの鱗を弾として使っているため、無闇に打ち続ければ弱点をさらけ出してしまうことになる。本来であれば落ちた鱗を再び使うこともできたのであろうが、リエティールによって完璧に凍りつけられているため動かすこともできずにいた。


「ガアァ……!」


 自分の魔法が思うように通用しないことに苛立ったように呻くと、鱗を飛ばすのをやめて岩の破片を飛ばし始めた。

 その行動に意表を突かれ、一瞬動きを止めたものの、リエティールはすぐに迎撃をした。

 自分の魔力が通っている鱗の方が、使い勝手がよく威力も高いはずではあるが、使いすぎて自分の弱点を見せるよりは、数段落として妨害を続けた方がいいと判断したのであろう。



「ふっ!」


 一方のリーフスは、襲い来る爪や尾の猛攻を何とか翻しながら、数度の攻撃を食らわせていた。しかし傷は与えられているはずだというのに、ニログナの動きは全く衰えているようには見えなかった。その巨体にとって、剣の刺し傷数箇所程度では致命傷には至らないのだろう。

 攻撃の隙を見て息を整えながら、リーフスは苦しげに睨みつけながら思考する。


(傷はつけられているはずだ。 だが、この巨体では失血を狙うのは厳しいだろう。

 しかし、俺では鱗を破壊して大きなダメージを与えるようなことはできない……。

 せめて、首か頭部、あるいは心臓のある場所に一撃でも差し込めれば良いのだが……)


 鱗を飛ばしていた箇所には多少の隙間ができていて、そこであれば今よりもマシなダメージを与えることができるかもしれないが、ニログナが鱗を使っていたのは背中の方であり、とてもではないが届かない。仮によじ登れたとして、その巨大な背から鱗のない僅かな隙間を探し出すのはとてもではないが困難すぎるだろう。

 腹部の方にも大きな鱗があるため、心臓を狙って体の下に潜り込めたとしても、その場所を狙い通りに攻撃するのは難しいだろう。そして探しているうちにその岩の巨体で押し潰される可能性がある。

 残るは首と頭部であり、首であれば、少しの傷でも他の箇所より出血量が多く致命傷となり得る可能性が十分にある。頭部も、上手くいけば一撃で仕留められる可能性がある。

 しかしそのどちらも背以上の高さにあるため、そう簡単に攻撃を当てることはできない。噛み付きや頭突きでも仕掛けてくるのであれば多少勝機はあったかもしれないが、ニログナも自身の弱点は把握しているのか、そのような攻撃をしてくる様子は無い。先ほどまでの錯乱状態であればしてきたかもしれなかったが、今となっては見込めないだろう。


「……ゴガァッ!!」


 一瞬の間の後、そう鋭く鳴き、ニログナは横薙ぎに尾を振るう。今まで何度もその攻撃はしてきていたため、リーフスは難なくそれを回避する。


「……なっ!?」


 だが避け終わったリーフスは、その尾が自分ではなくリエティールを狙ったものだと気がつく。戦闘の最中、リーフスが気がつかないように少しずつ、その距離をつめていたのだ。

 ニログナはリーフスが避けた後もその尾を振るのを止めず、そのままの勢いでリエティール目掛けて振り切った。


「きゃああぁっ!!!」


 物理攻撃はリーフスが引き受けていると、そう考えて油断していたリエティールはその攻撃をまともにくらい、悲鳴を上げながら壁まで吹き飛ばされる。

 尾の風圧で舞い上がった土埃で姿が隠され見えないものの、その威力の凄まじさは想像に難くない。


「リエティールッ!!」


 それを見たリーフスも悲痛な叫びを上げてその場に向かって走り出す。が、ニログナがそれを黙って許すはずも無く、その間に立ち塞がって爪を振り下ろす。

 それを寸でのところで躱しながら、リーフスは焦りの浮かんだ顔で忌ま忌ましげにニログナを睨みつける。そんなことはお構い無しに、ニログナは今が好機とばかりに、腕を振り上げながら二枚の鱗を構える。今であればリエティールによる妨害も無く、確実にリーフスに当てられると判断したのだろう。

 それを見たリーフスは一層焦りを強くしながらも、何とか凌げるように防御の構えをする。三方向からの攻撃を完全に回避するのは困難だと考え、せめてこの場を耐えて隙を見つけてリエティールの安否を確認しなければならないと思ったのである。


 そうこうしている内に、ニログナはその腕を振り下ろし始める。同時に鱗はそれぞれ左右に分かれて弧を描き、回り込みながらリーフス目掛けて飛び出す。

 後ろに避ければ鱗が飛んでくる。かといって前に回避しても逃げ場は無く、爪をそのまま丸め込まれれば捕らえられてしまうだろう。

 それ以上考える猶予もなく、リーフスは後ろに飛び退いて爪を回避し、すぐさま振り返って鱗を剣で防ごうとした。


 だが、鱗が彼に到達することは無かった。

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