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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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150.現れたもの

 道が寸断された後、リエティールとリーフスの二人は幾つかの間道を通って、なんとかして出口に近い方向で本道に合流できるルートを探した。

 しかし近いほうに進むと、その道の果てには激しい戦いの跡があり、崩落して道が塞がれているばかりであった。それでも幸いなのは、そこに取り残された負傷兵やエルトネがいなかったことであろう。一先ずその箇所で戦っていた者達は無事に逃げ果せたということが分かっただけでも、少し余裕ができた。

 しかし出口が見つからないという状況は変わらなかった。近場の間道は全て潰れており、必然的に坑道の奥へと導かれる形となってしまった。



「待っていれば、誰かが助けに来てくれるかもしれません。 さっきの場所で少し待ってみませんか?」


 状況を悪く見たリエティールがそうリーフスに提案する。彼も同じことを考えていたのだろうか、振り向くとすぐに頷いて、「そうしよう」と言い、本道の崩落した箇所の近くの岩陰に腰を下ろした。

 壁向こうの戦いの音は止んでおり、兵士達は無事に離脱できたのであろうと、一先ず胸をなでおろした。全滅して静かになった可能性がないわけでもないが、そこは城に仕える優秀な兵士である彼らの実力を思えば、ほぼ無いと考えても良いだろう。

 暫く静かにじっとしていると、遠くから微かに足音が聞こえてきた。どうやら先ほどの兵士達が助けに来てくれたらしく、今度は先ほどのように走ったり大声を上げたりはせず、聞こえるのはその小さい足音と鎧の擦れる微かな音だけであった。

 そしてその音が近くで止まり、壁の向こう側からギリギリ聞こえる程度の声で呼びかけられる。


「隊長、そこにいらっしゃいますか」


「ああ、無事だ」


 リーフスがすぐにそう答えると、向こう側からは安堵のため息が聞こえてきた。そして、


「今からこの岩をどける作業をします。 途中で崩れる可能性があるので壁からは離れていてください。

 それから、どける音で先ほどのようにニログナが現れる可能性もあります」


「ああ、分かっている。 こっちは問題ない。 時間が掛かるだろう、早く始めてくれ」


「はい、承知いたしました」


 リーフスの返事に兵士が答えると、兵士達が動き出す音が聞こえてからすぐに、壁の上の方の岩が動き出した。

 リエティールとリーフスは離れたところでその様子を見守りつつ、ニログナの気配を警戒していた。


 崩落した岩の壁を、なるべく音を立てずに、余計に崩れないようにどけていくというのはかなりの時間を要し、上の方に小さく隙間ができるだけでもかなりの時間が掛かっていた。それでも、兵士達だけではなくエルトネ達も一緒に来て作業をしているようで、多少は速いペースで作業が進んでいた。

 そんな折、


「あ、やべっ!」


 ゴトッ、カキィンッ。


 と、そんな音と同時に誰かの声が漏れた。岩をどかしていた誰かがそれを取り落としたのだろう。固い部分が衝突して響いた高く大きな音は、かなり際立って聞こえ、その場にいた全員が動きを止めて、その場は静寂に包まれた。

 少しの間の後、ニログナが襲ってこないことに安心して、また作業が再開された。リーフスも警戒していたが、近くに気配を感じなかったのか、すぐに警戒を解いた。

 何事も無く、全員が落ち着いて作業が進んでいた。


 ただ一人、リエティールだけを除いては。


 リエティールの顔が強張っていることに気がついたのは、言うまでも無く隣にいるリーフスであった。リエティールは険しく、不安そうな表情で辺りをキョロキョロと見回していた。


「どうした? ……まさか、ニログナの気配を感じたのか?」


 リーフスは、その問いは正直当たらないだろうと思って尋ねていた。先ほど彼女より自分の方が早くニログナの気配に気がついたのだから、今回自分が気がつかなかった気配に、まさか彼女だけが気がつくなどとは思っていなかったのであろう。

 しかし、それは間違いであった。


「音が立った時、何かが、どこかで動いたような……遠いですが、確かに感じました」


 リエティールの持つ感覚は曲がりなりにも氷竜エキ・ノガードのものである。先ほどは気を抜いていたためその能力が発揮できなかったためであり、こうして本気で集中していれば、この場にいる誰よりも鋭い感覚を持っているのは彼女であった。

 リーフスは、リエティールの様子から、それが演戯や勘違いによるものではないと感じ取った。


「それは、どこからだ?」


「よくわかりません……でも、少しずつ、近付いているような……」


 首を横に振ってリエティールがそう口にしたとき、リーフスも漸くその気配に気がついた。激しい怒りと恐怖が混ざった、混乱した恐ろしい気配が、確かに近付いている。僅かながら振動も感じられ始めた。

 それからすぐに、壁向こうの兵士たちも何かに気がついたのか、作業を中止するように声をかけていた。


「これは……」


 一体どこからくるのか。それがすぐに判断できなかったのは、今までニログナが姿を現してきた場所が、前後左右のいずれかだったからだろう。


「──下だっ!」


「グガアアアァァァァッッ!!!!」


 リーフスがそう叫ぶと共に、二人の足元が破裂するように勢いよく盛り上がり、巨大なニログナが飛び出してきた。その大きさは今まで現れたどのニログナよりも遥かに大きく、まるで地底から丘が生えて来たようであった。

 巨大な穴が開いたことにより、崩落でできた壁もその中に吸い込まれるように崩れ落ちていく。作業していた者達は寸でのところで全員が離れていたため、巻き込まれることは無かった。

 しかし、丁度真上に位置する場所にいた二人は、為す術無く穴の中に飲み込まれていった。

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