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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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147.混乱

「なっ……なんでまたお前が出てくるんだよ!?」


 負傷兵を三人抱えてやってきたエルトネ、もといデッガーは、駆け寄ってきたリエティールを目にして困惑と驚愕の混ざった表情でそう言った。


「偶然見かけて……えっと、そうじゃなくて、大丈夫ですか?」


「俺は平気だ。 とりあえずこいつらを安全圏まで運ばねぇと……それより、お前こそこんなところにいたら危険だろ? お前じゃ運ぶの手伝えねぇだろうし、他のやつが来たらさっさと戻るぞ」


 デッガーは両脇に二人を抱え、肩と頭に被せる形で一人を背負っていた。幾ら力のあるデッガーといえども、体勢に無理があるせいで思うように動けない様子であった。

 リエティールにも力はあるにはあるが、鎧を着た大人の男を抱えるのは苦しいものがあり、なにより持てた所で運ぶのは難しいだろう。今この状況で彼女が役に立てることは無かった。

 リエティールが自分の無力さに肩を落としつつも、頷いて引き返そうとしたところに、リーフスが追いつく。


「戦闘している者に近付くなと言っただろう!」


「ご、ごめんなさい……」


 着くなりすぐにそう言って叱ったため、リエティールはますます落ち込んでしまった。


「隊長」


「ん、そうだな。 俺でも一人くらいは運べる」


 デッガーに声をかけられ振り返ったリーフスは、背負われている負傷兵を受け取ろうと近付く。彼の身長は他の男のエルトネ達と比べるとかなり低い方だが、リエティールよりは高い。足先を引きずるかもしれないが、リエティールよりは運べるだろう。

 彼の言葉に頷いてデッガーが一人を降ろそうとした、その瞬間。


「ゴオォォッッ!!」


 洞窟の奥から低い唸り声を上げつつ、ニログナが猛スピードで突進をしてきた。入り口にいる三人目掛けて走り、止まる気配は無い。

 そしてそれは全く勢いを殺さぬまま、一番近いデッガーに衝突した。


「ッぐう……!」


 避けようと思えば避けることはできた。しかし避けてしまえばその先にいるリエティールと衝突してしまうと気がつき、デッガーはその場に踏ん張り受ける方を選んだのだ。

 鎧を着てはいたものの、全身に鉱石を纏っている重いニログナの、全力の突進を正面から受ければ、かなりのダメージを受けたことは容易に想像できる。衝突した腹部の鎧は大きく歪んでいた。力を入れていた脚も後退し、ふら付いて膝をつく。


「デッガーさん!」

「ばっ、近付くな!」


 悲痛な叫び声を上げて手を伸ばすリエティールに、デッガーは焦った様子でそう言った。


「グオオォォォッ!!!」


 衝突したことで止まる事は無く、ニログナは雄叫びを上げて暴れ出す。尖った鱗の生えた尾を振り回し、自身の周囲にいるものに手当たり次第攻撃を仕掛ける。

 デッガーは一人の負傷者を後方の地面に寝かせ、空いた腕でその尾を受けて防いでいたが、近くにいたリエティールも当然その攻撃の標的となり、一撃が襲い掛かる。


「あっ……!」


 咄嗟に身を引いたものの完全には避けきれず、右脚に攻撃が掠った。掠った程度であったため大したダメージは受けなかったものの、中に着ていたワンピースの裾のファーの部分に、鱗の微妙な凹凸が絡みついてしまう。

 ワンピースにはまだ魔法が施されていない。このまま引っ張られてしまえば服が切れてしまう。そう思ったリエティールは慌ててその引っかかった部分を掴む。それは当然引っかかっている尾の持主であるニログナにも分かり、掴まれたことで混乱状態にあったその意識がリエティールに向く。


「ガアァッ!」


 リエティールに振り返ったニログナは、その口を開いて噛み付こうとする。


「危ない!」


 それに気がついたリーフスが咄嗟に剣を抜き、ニログナの顔の前に割り込ませる。リエティールも続いて迫る口に気がつき、そちらに顔を向ける。

 瞬間、リエティールとニログナの目があった。


「ガッ……グギャアアッ!!?」


 すると、今にも噛み付こうとしていたにニログナの動きがピタリと止まり、悲鳴にも似た鳴き声をあげて一目散に洞窟の奥へと逃げ帰りだした。

 しかし、まだ尾が絡みついたままなので、当然リエティールは引きずられる形になる。


「うぁっ……やめて……!」


 その言葉が通じるわけも無く、ニログナは振り返りもせずにどんどんと走っていく。


「リエティールっ!!」


 デッガーは手を伸ばし名を叫ぶ。立ち上がって後を追おうとするデッガーを、リーフスが静止する。


「駄目だ、貴方は先ほどの攻撃で負傷しただろう。 それにまだ負傷兵を運べていない。

 他のエルトネと安全地帯まで引き、回復に努めて欲しい。 彼女は俺が追う」


 そう言うなり、彼はリエティールを追いかけて洞窟の奥へと駆け出す。


「……くっ!」


 デッガーは悔しそうに、本当に心の底から悔しげに歯を食いしばった。守るべき者を守るために強くなったというのに、その守るべき対象をまた危険な場所に置き去りにしてしまうのかと思うと、心についた深い傷が再び抉られるような思いであった。

 しかし今の自分がダメージを負っているのは事実で、まだ抱えている負傷兵が三人いる状況で追う事はできないというのは分かっていた。

 そんな彼の元に、リーフスについていた兵士達が遅れて到着する。その内数人はデッガーと負傷兵を安全地帯まで運ぶのを手伝い、残った兵士はリーフスを追いかけて洞窟内部へと走っていった。

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