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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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140.綺麗な人

 レパルゴはカーテンで塞がれた入り口を開いて中に入った。二人も続いてその部屋に入ると、そこは彼の作業部屋なのだろう、見たこともない器具で一杯になっている部屋であった。


「わあ、すごい……これは……?」


 リエティールは部屋を見回しながら、部屋の一角にまた別の部屋に続く扉を見つける。それはこの部屋のようにカーテンで区切られた部屋ではなく、しっかりとした扉がついている。

 リエティールの何気ない疑問にレパルゴは答える。


「そこは暗室だ。 写し絵を作るためには暗い部屋が必要でね。

 特殊な液体に浸すことで反応が起きて……おっと、難しい話は無しにしよう」


 ついつい難しい話を始めてしまいそうになったところで、レパルゴは自分で静止する。それから部屋に吊るされている写し絵を指差す。


「その部屋で作業した後、こうして乾かすことで写し絵が出来上がるんだ。 ……うん、これはもう大丈夫そうだな」


 そう言って彼は吊るされていた写し絵を取り外し、リエティール達に見せる。それは王都の町並みをいろいろな角度で写したものであった。白黒だが、構図がよく考えられているのか、とても綺麗な仕上がりである。


「アーマックができたばかりの頃は、一枚の写し絵を取るために朝から晩までかかるのが普通だったんだ。

 でも今はほんの僅かな時間で撮る事ができる。 その内一瞬で写せるようになるんじゃないかな」


 そんな風に話しつつ、リエティール達が写し絵を見ている間に、彼は本棚から分厚い本を取り出して持ってきた。


「レパルゴさん、それは?」


 エゼールが彼の行動に気がつき声をかける。レパルゴがその本を近場の机に開いてみせると、中には色々な写真が並べられていた。


「今までとった写し絵を保存した、アルバムのようなものだ。 これは今から7年前のものだね。

 ……で、見せたいものって言うのが、ええと……ああ、あった。 これだよ」


 パラパラとページを捲り、彼はあるページを開いたところで手を止めた。彼が手招きしたのでリエティール達はそこへ近づいて彼が指差すところを覗き込む。

 そこにあったのは一枚の色つきの写し絵で、映っているのは一人の少年だ。そしてそれが一体誰なのか、リエティールもエゼールもすぐに分かった。


「これは……王様?」


 リエティールがそう尋ねる。レパルゴは頷いて「そうだ」と答えた。


「即位式直後の記念写し絵だよ。 この頃の王様の姿をちゃんと見たことがある人はそういないんじゃないだろうか。 顔見せのパーティを開くようになったのは2年位前からだったからね」


 リエティールがそうなの?と尋ねるような顔でエゼールを見ると、彼女は頷く。


「ええ、今の人々が知っているのは最近の姿だけで、即位間もない頃は人前に姿を現すことは無かったって聞いているわ。

 こんな写し絵が世間に出回ったら、大騒ぎになりそう……」


 驚いたというような表情で写し絵を見つめるエゼール。もしも彼女が国王のファンであったならば、それこそ今すぐに騒ぎ出していたであろう。


 リエティールは改めてその写し絵を見る。写っているのは確かに国王エクナドであるが、今よりも幼く、それこそリエティールよりも幼い姿である。緊張しているのか、表情は硬く強張り、姿勢はビシッと余裕が無いようにも見える。

 しかしその目には強い信念が宿っているような、そんなまっすぐな目であるように見えた。

 それを見ると、彼の後ろにある国王と言う立場による重圧のようなものが見えてくるようにさえ思えた。


(この人も、きっと大変だったんだ……)


 リエティールは心の内でそう、自分の過去を思い出し、彼もまた苦しく生きてきたのだろうかと思った。


「リーちゃん?」


 エゼールはリエティールが写真をじっと見入っているのを不思議に思ったのか、そう声をかけてきた。彼女の声でリエティールははっと気がつき、


「あ、えっと、珍しいものだから、よく見ておこうと思って……」


と適当な理由を言って誤魔化す。エゼールはその言葉を特に疑うことも無く、「そうね」と言った。


「ちょっといいかな」


 そんな二人にレパルゴが声をかけた。いつの間にか彼はアーマックを手に持っている。


「なんでしょう?」


「もしよければ、君たちの写し絵を撮らせてはもらえないだろうか」


 レパルゴはそう二人に聞いた。するとエゼールは驚いて、


「え? 私達の写し絵を、ですか……?」


と聞き返す。写し絵一枚取るのにそこそこの値段と手間がかかり、尚且つ彼が国一番と言っても差し支えのない撮影家だからこそ、そんな風に言ったのである。

 だが彼は「ああ」と頷く。


「綺麗な人の写し絵を店先に飾っておくと、興味を持ってくれる人もいてね。 店先に飾ってもよければ、是非撮らせて欲しい。 お礼に、君たちにも同じ写し絵をあげる、というのでどうだろう」


 綺麗な人、という彼の言葉に、二人は顔を見合わせて、それから恥ずかしそうにはにかんだ。


「え、ええと、私は大丈夫です」


「私も……いいです」


 二人がそう答えると、レパルゴは嬉しそうに笑い、


「おお、それは良かった。 じゃあ、そうだな……教会の近くにある公園で撮らせてもらっても?」


と尋ねる。二人が頷くと、彼はじゃあ早速、と軽い足取りで歩き出し、二人もその後に続いて公園へと向かった。

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