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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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136.視線の先には

 セノに案内された場所は、とても広いパーティ会場で、天井の中心に輝く巨大なシャンデリアが目を引く。

 そしてその下には巨大な長方形のテーブルが幾つも並べられており、その上にはとりどりの料理が大量に用意され、食欲をそそる匂いを漂わせていた。

 テーブルの周囲には一段と綺麗で豪奢なドレスやタキシードを着た老若男女がグラスや皿を片手に談笑している。

 そしてそんな人々の中の一部が熱い視線を向けている先には、先程テラスに姿を現した国王、エクナドが椅子に腰掛けていた。その様子は子どもらしさを感じさせず端正であり、片手にはグラス……ではなく書類を持っていた。彼は書類に目を通し、忙しなく手を動かしている。座る姿は優美だが、手元と目だけは休む間もなく動いている。


「パーティなのに、お仕事……?」


 その様子に呆気に取られ、リエティールは思わずそう小さく呟いた。だがその呟きは周囲の談笑の声にかき消され、誰かに聞かれることは無かった。


「パーティは立食形式となっております。 料理はご自由にお召し上がりください。

 それでは、ごゆっくり」


「え、もう行ってしまうの?」


 一礼して立ち去ろうとするセノに対して、エゼールが驚いた様子でそう言う。その顔には「やっと会えたのに」という残念な気持ちが現れている。

 彼女の顔を見たセノは、一瞬悲しそうな表情を浮かべるが、すぐに畏まった顔になると、


「警備の仕事がありますので」


とだけ言ってゆっくりと立ち去っていってしまった。エゼールはその背を名残惜しそうに暫く見つめていたが、首を振って気持ちを切り替えると、


「さ、パーティを楽しみましょう!」


とリエティールに笑いかけた。向けられた笑顔にはまだ悲しみの色が残されてはいたが、リエティールは何も言わずに頷き、料理の並べられたテーブルへと向かった。


 テーブルには美しい料理が所狭しと並べられていた。リエティールには見たこともない料理が多く並んでいたため、エゼールに色々と尋ねながら、少量ずつ皿にとってゆっくりと味わって食べることにした。

 一通りの料理を皿に盛り、一度テーブルから離れると、他のパーティ客がエゼールに声をかけた。彼女は「少しお話をしてくるわね」と言って、リエティールに自由にしていて良いとだけ言い残して、声をかけてきた人物の方へ行って話しを始めた。


 エゼールは貴族なのだから、こういった場で他の貴族と話をするのも大切なお仕事なのかもしれない。などと考えて一人納得したリエティールは、料理を味わいながらその目を国王の方へ向ける。

 他に視線を向けているのはうっとりとした様子の女性ばかりであるためか、誰も何とも思っていないようだが、リエティールは彼の顔を見て僅かに顔をしかめた。


(顔色、悪いみたい)


 彼の顔色は決して良いとは言えない色をしていた。化粧をして多少は誤魔化しているようではあるが、目の下には隈もできているように見える。今のリエティールの視力であれば、僅かな違和感もしっかりと捉えることができた。

 その、疲労を隠して普通を装っている様が、どこか自分の育ての親である女性の姿を想起させ、リエティールは辛い気持ちになったのである。

 すると不意に、彼と目があった。急なことで動けずにいるリエティールのことを見た彼は、一瞬驚いたように僅かに目を見開くが、すぐに顔を逸らせた。だが、その後近くにいた執事らしき人物を呼び寄せて、何か話しかけている。するとその人物がリエティールに視線を向けた。

 一体何を話しているのか、自分は何か気に触るようなことをしてしまったのだろうか。とリエティールは少しばかり不安になるものの、執事らしき男性は話を聞いた後、彼女とは別の方向へ去っていったため、一先ず自分に対して何か言ってくる様子ではないと分かり、そっと胸をなでおろすのであった。



***



 エクナドはパーティの会場にいながら、仕事の手を休めることは無かった。流石に机を用意させて判を捺すといったことはしていないが、他国から送られてきた文書などに忙しなく目を通していた。そんな彼には、煌びやかなシャンデリアの輝きも、会場に漂う料理の匂いも、淑女達の熱い視線も、何も意味を成してはいなかった。


 そんな彼は、不意になにか違和感を覚えた。そしてその時になって彼の死んでいた感覚がようやく蘇り、他とは違う視線が自分に向けられていることを感じ取った。

 その視線の方へ顔を向けると、一人の少女と目があった。年は自分とそう変わらないであろう。他の女性達と同じように白いドレスに身を包んでいるが、その髪も肌も、目までもが真っ白であるというのは他に類を見ない珍しいものであった。

 それだけでも彼の目を引くにはある程度のものがあったのだが、それ以上に、彼はその少女と目が合った瞬間、感じていた違和感がより一層強くなったのを感じ、そしてその違和感の原因に気がついて、思わず目を見開いたのであった。

 あまり見つめては不審がられると思い、彼は咄嗟に目を逸らした。そして側にいた執事、ナイドローグに声をかける。


「ナイド、少し調べて欲しいことがあるのだが」


「はい、何でございましょう」


 ナイドローグが答えると、エクナドは顔を動かさず視線だけを少女に向けて、


「あの、白い人物について、何者なのか知りたい」


と言った。ナイドローグはエクナドの視線の先にいる少女を見る。彼もまたその珍しい容姿に僅かながら驚きを覚える。

 一体自分の主が彼女のどこに興味を持ったのかは気になるところではあるが、彼はそれに関しては何も尋ねることはなく一礼すると、


「畏まりました」


と返事をして、その命令の遂行のために会場を後にした。

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