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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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125.得意げな笑み

 デッガーは三体のホララブを、尻尾を掴んでまとめて運び、リエティールを呼びつつ周囲の安全を確認してから、魔操種避けを焚いた。どうやらこの場で解体作業をするつもりのようだ。


「まずは少し血を抜くぞ」


 首を切ったこともあり、ホララブの体からは今も大量の血が流れ続けている。デッガーは彼の大剣をまるでシャベルか何かのように使い、地面に大きな穴を掘る。そしてその穴の中に血が流れるようにホララブの亡骸を置いた。

 血を抜いている間に、切った頭部から命玉サールを採り、角と尾を切り落とした。角はそのまま装飾にしたり、削り出してナイフ等に加工されたりし、丈夫な尾はエスロを駆る時の鞭としてそのまま利用されたり、ロープとして使うこともできるという。

 肉は言わずもがな、分厚く頑丈な皮もまた防具や日用品の材料として需要が高く、ほぼ全てを余すことなく売ることができる、非常に効率のいい獲物なのだとデッガーはリエティールに簡単に説明した。


 ホララブは体が大きいため、完全な血抜きにはかなりの時間が掛かるのだが、それでは日が暮れてしまうため、ある程度抜けただろうと判断したところでさっさと皮を剥いでしまうとデッガーは言った。

 それでも時間が掛かることには変わらないので、デッガーとリエティールは地面に座って時間が経つのを待つことにした。その間、リエティールは少し退屈だったので、気がつかれないようにこっそりと、少しだけ時空エマイト魔法を使って血が抜けるのを早めていた。


「ああ、そうだ。 まあ、あるかは分からんが、お前がもしこの先やばいくらい強い魔操種シガムを解体するような場面に出くわしたら、血を垂れ流しにしないでせめて1瓶くらいはとっとけよ」


 血が流れるのを見ながら、デッガーは不意に思い出したようにそう言った。


「どうしてですか?」


 リエティールが首を傾げると、デッガーは、


「強いやつは右目とか心臓にも魔力が宿るかも知れねぇっていう話はきいたことあるか? 血も同じだ。 こいつはもう調べられてて無いってのが分かってるからいらねぇが、今までに一部の魔操種の血から魔力の反応があったって話も聞く。 ま、そういうことだ」


と言って、ポーチから掌に収まるくらいの大きさの小瓶を出してリエティールに投げ渡した。リエティールは取り落とさないように慌ててそれを受け止める。


「右目と心臓の話は知ってましたけど、血は知りませんでした……」


「ふん、お前、クシルブからきた口か?」


 リエティールが呟いた言葉に対して、デッガーはそう訊いてきた。リエティールが頷いて肯定すると、やっぱりな、と彼は言った。


「クシルブ辺りじゃ、強くてもたかが知れてるな。 それに初心者が多いあの町じゃそうそう簡単に強い魔操種を仕留められる事は無いだろ。

 血が注目されるほど強いやつが出ない町なら、伝えられるまでも無く消えちまってるんだろう」


 デッガーは肩をすくめ、小馬鹿にしたような調子でそう言った。その態度に、クシルブのエルトネを馬鹿にされたような気がして、リエティールは表情に僅かな怒りを露にして言い返した。


「でも、上位種ロイレプスも出ました!」


「ああ、そういや最近噂で聞いたな。 新種の……たしか灰巨人ヤーニッグだったか?

 だが、そいつはルボッグの新種だろ? ルボッグレベルの魔操種の新種はもう血に魔力は宿ってねぇって知れてんだ」


 そう言うデッガーの口元には、僅かだが笑みが浮かんでいる。それを嘲笑と捕らえたリエティールはますますムッとして、


「ルボッグより強い魔操種もいます! それの上位種が出たら、血だって注目されるかもしれません!」


と言い返す。そんな彼女に対し、デッガーは参ったといったように眉尻を若干下げ、落ち着かせるように両手を前に出す。


「まあ、そんなにムキになるな。 悪かったよ。

 でもよ、強い魔操種が少ないってことは安全ってことだ。 いいことだろ?」


 デッガーにそう言われたリエティールは、それは違いが無いので「むぅ……」と小さく唸って押し黙った。


 それから暫くし、デッガーはそろそろ解体すると言ってホララブの死体に手を掛けた。それからナイフを取り出してその刃をつきたて切り始める。


「駄目です! そんな切り方じゃ傷めちゃいます!」


 デッガーが切り始めたと同時に、リエティールはそう言って静止する。あまりにも急にそう言われた為、デッガーは驚いて素直に手を止めた。驚いている間にリエティールがデッガーの前に割って入り、自分のナイフを取り出して丁寧に皮を切り始めた。デッガーの力任せな切り方に対し、リエティールの切り方は数段綺麗なものであった。

 その様子を見ながら、デッガーは暫く呆気に取られたように固まっており、少しすると平常心を取り戻し、彼女の手捌きを感心したように見つめていた。


「……いや、見事なもんだな」


「クシルブの先輩に教わりました。 私よりずっと上手です。 教えかたも上手なので、始めたばかりの私でもこれくらいできるんですよ」


 作業に集中しながらリエティールは答え、それに対してデッガーは少し黙ってから、


「……クシルブのエルトネも捨てたモンじゃねぇな」


と言った。それに対してリエティールは、


「デッガーさんと同じくらい解体が苦手な先輩もいましたよ」


と言う。その口元には若干の笑みが浮かんでいた。それを見たデッガーは、複雑そうな表情で頭を掻くことしかできなかった。

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