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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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109.王都へ向かう人波

 暫くして落ち着いたエゼールと共に、リエティールは王都へ向かう道を進んでいた。このまま副王都内に滞在していて、運悪くまたプレホンに遭遇してしまっては言い訳ができないためである。


「取り乱してしまってごめんなさい。 本当だったら、副王都にも色々と見所があるし、ゆっくり見て回ってもらいたかったのだけれど、私のせいで……」


 歩きながら、エゼールは恥ずかしさと申し訳なさの混じった顔でそう言った。リエティールはそれに対して首を横に振りつつ否定する。確かに副王都を見て回れないのは残念ではあるが、王都に行けるというのもまた楽しみであった。


「それより、エゼールさんは貴族の方だったんですか?」


 リエティールは先ほどの会話の中で気になっていたことをエゼールに尋ねた。するとエゼールは苦笑を浮かべて頷き、肯定する。


「ええ……私はラツィルク家の当主の長女なの。 私より上の兄がいて、その兄が次の当主となる予定になっているから、私は比較的自由を許されてはいるのだけれど……こうしてたまにお父様にお金を持たされて、プレホンさんのお店が多い王都に買い物に行くように言われるの」


 それを聞いて、リエティールはエゼールが何故あの店を選んで連れて行ったのか理解した。


「でも、どうしてあの時先にそう言ってくれなかったんですか?」


 しかし同時に予め教えてくれなかったことに対する疑問が浮かんだ。そういう事情があると知っていればあの時変に遠慮することもなかったのに、と若干の不満を含んだ顔でリエティールがそう問いかけると、エゼールは顔を俯けて面目ないと言った様子で答えた。


「ごめんなさい、安易に貴族だと告げてしまったら、あなたに気を使わせてしまうのではないかと思って……でも、これは私が悪いわ。 隠すのなら、無理にあなたをあのお店に連れて行くべきではなかったのに。

 ただ、仲良くなれたのが嬉しくて、良い物をプレゼントしてあげたいという気持ちが出てきてしまって、冷静さを欠いてしまったの」


 ごめんなさい、とエゼールは改めて謝罪を口にする。彼女に悪気があったわけではなく、心から反省していることもリエティールはわかっていたので、それ以上責めるようなことは口にせず、小さく微笑んで「もう大丈夫です」と言った。それを見て、エゼールも安心したのか口元を緩ませた。


 そのまま二人は王都方面の門に向かって休憩を挟みつつ歩を進めた。副王都の町並みは、レンガ造りが中心のクシルブとは違い、煌びやかで洗練された、白い石造りの建物が多く、印象が全く違っていた。街灯や看板などのデザインも凝られており、高級感があるのは、王都と並ぶ都市として雰囲気を統一したいという領主の考えらしい。

 立ち並ぶ店も、見るからに高級そうな雰囲気を醸し出しているレストランや、入り難そうな店構えの服屋や宝飾店など、入るのに躊躇しそうな店もあれば、子どもが喜びそうな食べ物を売っている移動販売らしき構えの店もある。

 リエティールは、その後者の店に立ち寄って、トゥールナスという食べ歩きに向いた食べ物を買って食べた。果物を挟んだヒドゥナスのようなものだが、パンではなく柔らかく甘みのあるスポンジのようなもので挟まれている。中にはふわふわのメールに数種の果物が挟まれており、酸味と甘みのバランスがよく、小さいながらボリュームがあり、リエティールは大満足であった。あまりにも美味しそうに食べるので、エゼールも途中で自分の分を買いに行っていた。


 なんだかんだで副王都を堪能しつつ、二人は王都方面の門へたどり着く。その門の様子を見て、リエティールは首をかしげて疑問を口にした。


「この門は、検問はしていないんですか?」


 門の両端には兵士が立っており、その詰め所も確かにあるのだが、人々は特に何も言われずに自由に出入りしているように見える。


「王都と短い距離で繋がっているから、交通量が他のところに比べて段違いに多いのよ。 ここで検問していたら、頑張ってもあっという間に日が暮れちゃうわ。 だから、特に怪しいと感じたり、手配中の人とかではない限り、この門は自由に出入りできるようになっているの。

 この道以外はしっかり検問されているし、外からはこの道に合流できない決まりになっているわ」


 勿論、二つの町を繋ぐ街道には外と隔てる柵があり、それに加えて等間隔で見張りの兵士が並んで、外から人が入ってこないか、怪しい人が道を外れていかないか監視しており、安全には気を使っているらしい。また、行き交う人も多いため、人目を憚って何かを起こすというのはかなり難しいだろう。


 そんな説明を聞きながら、リエティールは人の波に乗る形で門を潜った。門を出てからも、出たことが分からないほど波は続き、二人は流されるままに王都方面へと歩き続けた。


 それから小一時間、疲れてきた頃に、王都の門が姿を現した。門の巨大さもさながら、外壁も今までのどの町よりも高く、立派であった。

 リエティールは緊張のあまり声も出ず、高まる鼓動を感じながら、ついに王都へと足を踏み入れることとなった。

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