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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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106.お高いお店

 翌朝、少し早く目が覚めたリエティールは朝食を取ってエゼールが起きてくるのを待った。ちなみに宿のメニューも雰囲気にあった可愛らしいものが多く、リエティールが頼んだトーストはチーズとジャムでチェック柄になっていた。

 ロビーに置かれた椅子に腰掛けて本を読みつつ待っていると、やがてエゼールが部屋から出てきて、リエティールの姿を見ると小さく謝り、手早く朝食を済ませていた。


「ごめんなさい。 待たせてしまったかしら?」


「いいえ、私が早く起きてしまっただけです」


 困り顔でそう尋ねてきたエゼールに、リエティールは首を横に振ってそう答える。そんな返答にエゼールは内心「大人びた子だなあ」と思いつつ、ありがとうと口にしてから町中へ連れ立っていった。


 エルトネに向けての商品を売る店が立ち並び、朝から活気がある通りを進んで、少し落ち着いた雰囲気の場所に目的の店はあった。

 リエティールが店に入る前に、ちらりと窓から中を覗くと、様々な大きさの鞄やポーチが並んでいるのが目に入った。どうやら専門店のようである。

 エゼールに続いて店の中に入る。チリンとベルの音が響き、入ると同時に中にいた店員が丁寧に頭を下げて「いらっしゃいませ」と挨拶をする。どことなく堅苦しい雰囲気に気圧され、リエティールがやや不安そうにたじろぐと、エゼールが小さく笑って、


「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」


と言い、リエティールの手を取った。

 すると、挨拶をしてきた店員が近寄ってきて、


「本日はどのような品をお探しでしょうか?」


と尋ねてきた。エゼールはリエティールを一瞥してから、


「この子のための鞄を見に来ました。 エルトネの子なので、動きやすいものが良いと思います」


と答える。店員はリエティールのほうへ一度視線を向けると、「かしこまりました」と言って二人を案内し始めた。

 案内されている途中でリエティールが辺りを見回すと、やはりどことなく上品で高級感のあるような商品がずらりと並んでいる。物の良し悪しは分からないながらも、やはり高いのではないかと思うと、自然とエゼールと繋いだ手に力が入った。


 案内先に着くと、店員は置かれている商品を手に取りながら簡単に説明を始める。


「こちらはプマウズドコークの革を使用したもので、高い強度があり見た目が美しいのが特徴です。 数十年以上使用を続けても磨耗せず、長く使えますが、水濡れには注意が必要です。

 続きましてこちらはエルタック革の製品です。 プマウズドコークには劣りますが、高い耐久性としなやかさがあり、利便性が高く手頃な値段で、人気も高い商品です。

 そしてこちらがリード革の製品で、軽さ、耐水性、柔軟性に優れており、エルトネの方に根強い人気を誇る製品です」


 リエティールは説明を聞きながらそれぞれをじっくりと眺める。プマウズドコーク革は、確かに見た目が綺麗で、耐久性が高いのも魅力的ではあるものの、水に弱いというのは少々不安に感じるものがあるため、そして何より段違いに高価であったため、すぐに候補から外れた。

 残るはエルタック革とリード革である。じっくり悩んだ結果、リエティールはリード革を選んだ。エルトネに人気があるという点が信頼感を与え、決め手となった。やはり実績のあるものの方が安定しているだろうと考えたのだ。

 素材を決めると、店員は次に同じ素材の違う商品をいくつか並べて見せた。大きさや形状、構造に違いがある。

 あまり大きいと、リエティールの体に合わず、邪魔になってしまう。かといって小さすぎれば入るものに限界がある。実際に入れておくものはそこまで多くはならないだろうが、入れるフリをするにしても違和感がないくらいの大きさを選ばなければならない。

 最終的に、丁度良い大きさをしたシンプルな物を選んだ。内側にも外側にもポケットはないが、実際使わないだろうと考え、無駄を省いた。そして口が大きく物の出し入れがしやすそうなことと、本を入れても余裕がありそうな大きさの空間が決定打となった。

 肩紐とベルトがついており、激しく動いてもずれず、動きを阻害しないようになっているのは、エルトネ向けの製品の特徴であるらしい。


 商品が決まりいよいよ会計になったが、リエティールはその値段が気になってそわそわしていた。そんな様子に気がついてか否か、エゼールはリエティールに優しく声をかける。


「大丈夫よ、私が誘ったのだから、私が払うわ」


 それに驚いてリエティールは目を丸くする。そしてすぐに、


「私が選んだものです。 だから私が自分で買います」


と反論した。するとエゼールは眉尻を下げて困った顔になる。元々彼女は自分が払うつもりでいてこの店に連れてきていたのだ。


「だって……高いと思います」


 リエティールが気弱そうにそう呟く。自分が使う、しかも高いものを、偶然出会っただけの人に全額支払わせるなど申し訳なくてできないのだ。かといってもう決めてしまったのでやっぱり買わないと言うのも言い出しづらい。

 エゼールはこのままでは自分のせいで高い買い物をさせてしまうと思い、この店に連れてきた真意を正直に話すことに決めた。


「ごめんなさい。 実は、この店を選んだのには訳があって……。 私のお父さんが、この店を運営している商会の方と懇意にしていてね、お父さんに旅先ではぜひその商会が運営しているお店で買い物をして欲しいって言われているの。 お店のリストとお金も渡されてて……。

 私の都合で、あなたを不安にさせてしまってごめんなさい。 だから、私に支払わせてもらえないかしら?」


 理由を話され、リエティールもエゼールの考えを理解した。彼女が責任を感じているということも伝わってきたため、その申し出を無碍にするわけにもいかない。

 しかし、最近何かと貰ってばかりのリエティールは、自分のものなのに全く払わないというのも何となくすっきりしないものがあった。


「……わかりました。 でも、私にも払わせてください」


 結局、リエティールも一部お金を出すことで片がつき、二人は漸く店から出ることができた。

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