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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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105.エゼールの薦め

 その後も特に問題が起きることなく順調にフコアックは進んだ。エルトネが拠点を作って活動しているだけあり、魔操種シガムと遭遇することは無かった。

 リエティールは休憩時間にふと気になり、エゼールに何故この道にはエルトネの拠点があるのか聞いた。彼女曰く、この道以外にも王都へ続く道にはエルトネがよく拠点を作っているらしい。

 その成り立ちは、王都へ通じる道は安全の確保が優先され、町から大勢のエルトネに見回りの依頼が出されたことが始まりらしい。やがて、活動を継続していると町へ戻って作業するのが手間になり、外で魔操種の素材を剥ぎ取ったり休憩したりできるように、街道の側にテントを張ったり道具をそろえるエルトネが現れ始めた。そして王都へ向かうフコアックが通るようになると、その乗客が拠点で休憩したいと要望を出し、利益も出始めた。またそれ以外にも商人が立ち寄って直接素材を買うこともあり、ドライグで売るより単価は劣るものの、運ぶ手間が省けるという利点もあり、徐々に町の外へ留まるエルトネが増えた。それが結果として今のような拠点になったという。


「私は生まれも育ちもクシルブで、あの町の近くにはそういうものはなかったから、私も初めて見た時は驚いたわ」


 クシルブも主要都市ではあるが、この道以外フコアックが通らないため拠点が根付かなかったようだ。

 結果として街道の安全性は非常に高くなり、町間の人の行き来も増え、エルトネの拠点は周辺地域に良い効果を齎すようになった。反面人が集まるためトラブルが起きやすいという問題もあるようだが、安全に勝る恩恵はないと、人々からは好意的に捉えられているそうだ。


 そうこうしている内に三つ目の休憩ポイントを出て、日が暮れる頃には次の町へと到着していた。

 フコアックは町の入り口の横にある停留所に止まり、順に乗客が降りていく。門の前には複数に分けられた人の列がずらりと伸びていた。王都に通じる途中にある町だけあり、クシルブよりも人の出入りが激しいらしく、門番の数も多く、忙しなくチェックが行われていた。人数は多いがスピードも速く、完全に真っ暗になる前には町へ入れそうな具合であった。

 リエティールは他の人々と同様に列の後ろへ並ぶ。隣にはエゼールが並んでいる。


「そういえば、リーちゃんは宿はどうしようか考えている? この町は宿が多いから、泊まれないということはないと思うけれど……」


 そう尋ねられて、リエティールは宿を取らなければならないということを失念していたことに気がつき、少し慌てた。エゼールの言うことには、宿は十分な数があるらしいが、そうなると選ぶのも大変そうである。

 リエティールが悩んでいると、エゼールが、


「私はここには何度か来たことがあるのだけれど、あなたがよければ私がいつも泊まっている宿に泊まらない?

 門から少しはなれたところにあるから移動に時間が掛かるけれど、落ち着いた良い所よ」


と提案する。その内容に特に不満もなかったため、リエティールはありがたくその申し出に了承することにした。

 並んでいる間に、昼に食べ切れなかったヒドゥナスを二人で分け合って食べて、簡単な夕食を済ませた。


 暫くして問題なく入街審査を通り抜けると、エゼールの案内で彼女の薦める宿まで歩いた。その道中には、旅行者やエルトネに声をかける宿や食堂の客寄せが大勢おり、いかにこの町が来訪者によって栄えているかが窺えた。

 門から離れるに連れて活気は収まり、少し落ち着いたところに目的の宿はあった。

 クリーム色のレンガ造りで、看板は小花柄で飾られている、可愛らしく少しメルヘンチックな雰囲気の漂う外観であった。

 二人が扉を開けて入ると、内部もまたレースのカーテンや白を基調とした家具など、柔らかな印象であった。

 可愛らしく女性的な印象を与えるそれであったが、受付にいたのは男性であった。しかし水色の長めの髪をひとまとめにし、ココア色の制服を着て柔和な笑みを浮かべる彼もまた、店の雰囲気に馴染んでいた。

 一泊分の銀貨一枚と銅貨五枚を支払い、部屋の鍵を受け取って二人は其々の部屋に向かう。その途中で、


「受付の人が男の人で、少し驚いた?」


と尋ねた。リエティールに性別差の知識はあまりないが、今まで受付には女性がいることが殆どであったため意外に思ったのは事実であり、その問いに頷いて返した。するとエゼールは「でしょう?」と小さく笑うと、宿のことを話し始めた。


「前に泊まった時に聞いたのだけれど、宿のデザインをしたのは、あの人じゃなくて奥さんらしいの。

 でも、その奥さんは凄く人見知りらしくてね、結局受け付けはあの人がやることになったんだって。 毎日身だしなみは奥さんが整えているらしいわ」


 話を聞いて、リエティールは相槌を打ちつつ周囲を見回す。どこかふわふわした印象の内装はエゼールの雰囲気にも似合っていて、彼女が気に入っているというのも頷けるように思えた。

 そんな話を聞きつつ歩いているとそれぞれの部屋の前に着いた。二人の部屋は隣り同士であり、リエティールが扉に手を掛けたところで、


「あ、そういえば、リーちゃんは明日は予定があるの? すぐに町を出るのかしら」


とエゼールが尋ねたため、


「少しお買い物をする予定です。 鞄か何かを探したくて」


とリエティールは答えた。それを聞いたエゼールは、


「そうなの! それなら、もし良かったら、私が知っているお店に案内したいのだけれど、いいかしら? その後、午後出発のフコアックに乗らない?」


と小さく首をかしげて尋ねる。店を案内してもらえるのはリエティールにとってありがたいことなので、すぐに頷いて答えると、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべて、


「よかったわ! じゃあ、おやすみなさい。 また明日」


と言って小さく手を振り、部屋へと入っていった。リエティールもまた同じように挨拶をして部屋に入り、そのままその日は眠った。

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