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氷竜の娘  作者: 春風ハル
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104.なごやかな休憩時間

 リエティールが本を読むのに夢中になっていると、御者台の方からフコアックの内部の客に声が掛かった。


「そろそろ休憩ポイントに着きますので、一度停車します」


 どうやら本を読んでいる間に時間が経っていたらしく、一つ目の休憩ポイントがもうすぐに迫っていたようであった。

 このフコアックはあわせて三回程休憩のために停車をする。主要街道であるこの道の側には、エルトネ達が集まって自然と形成され定着したキャンプ地のようなものがあり、このフコアックはその中でも比較的大きい規模がある地点で休憩時間を確保している。

 おおよそ三時間程の間隔で止まり、一番目と三番目は小休憩、二番目が昼休憩として少し時間が長い。


 それから少ししてフコアックは一番目の休憩ポイントに到着した。フコアックの中に留まる者もいたが、大半の乗客は降りて体を解していた。

 リエティールもフコアックから出て、辺りの様子をキョロキョロと物珍しそうに眺めた。拠点には大勢のエルトネが居り、それぞれ軽食を取って雑談していたり、仮眠などで休憩をしていたりといった様子が窺えた。町と言えるほどではないが、ちょっとした集落のように思えるくらいには活気があった。

 その場所には多くのテントが立ち並んでいたが、中にはちゃんとした小屋が建てられている場所もあり、フコアックから降りた乗客が、この拠点で活動しているのであろうエルトネに案内されて向かっていっている小屋は、恐らく手洗い所なのだろうことが分かる。他にも魔操種シガムが運び込まれている解体小屋だと思われる建物などもあった。主要な公共の施設がこうした小屋になっているのだろう。


 そうして休憩を終えた乗客全員がフコアックに戻ると、御者が人数を確認してからフコアックは進み出した。

 リエティールは再び本を開きつつ、まだ殆どページが進んでいないことがわかると、この調子であれば次の町に着くまでは退屈せずに済むだろうと思った。


 再びあっという間に時は経ち、二番目の休憩ポイントが近付いているという御者からの声でリエティールは顔を上げた。ずっと本を見ていたため首が凝っていたので、僅かに顔をしかめた。

 窓から先を窺うと、先程の拠点よりも規模が大きいように思えた。テントは多く立ち並び、小屋一軒一軒の大きさもより大きく見える。そこにエルトネ達はフコアックに手を振って合図をし、停車場所へと案内しているのが見えた。

 今回の休憩は昼休憩と言うことで時間が長めに取られている。時刻も昼を回り、空腹を感じる頃合であり昼食をとるには丁度良いタイミングである。他の乗客も持ってきた食事の包みを開いたり、中にはフコアックを降りてエルトネ達から魔操種をつかった料理を買いに行っている者もいた。こうした大きい拠点で活動するエルトネ達にとっては、このような買い物による収入も嬉しいものなのだろう。

 現地で食事を買うということに少し興味をそそられつつ、リエティールは折角ソレアがくれたのだからとその考えを振り払って、持っていた籠の蓋を開いた。中にぎっしりと詰められたヒドゥナスは、色々な具材が詰められていて飽きそうには無いが、今お腹一杯になるまで食べてもまだ余りそうなくらいの量であった。


「まあ、おいしそうなヒドゥナスね!」


 ふと、隣に座っていたエゼールからそう声がかけられた。彼女も持ってきていた食事を開いていたようで、膝の上の箱にはグーゲ焼き──ネクチョクのグーゲに味付けをして成型しながら焼いたもの──と野菜を炒めたものが入っており、それと一口サイズくらいの、小さな木の実が入ったパンが二つほど並んでいた。


「よければ一つ、食べますか? ちょっと多いので……」


 リエティールがそう言って一つ手に取り差し出すと、エゼールは遠慮気味にしつつも、


「……そう? じゃあ、折角だからいただこうかしら……でも、いただくだけじゃ申し訳ないから、お返しにグーゲ焼きをあげるわね」


と言い、ヒドゥナスを受け取り、箱の蓋にグーゲ焼きを一切れ乗せてリエティールに手渡した。

 ほんのり焦げ目がついたそれは、焼き立てではないものの良い香りが漂い、リエティールはすぐにそれを口に入れる。ふんわりと柔らかな食感に仄かな甘味があり、その美味しさにリエティールは思わず顔を綻ばせた。


「おいしいです」


「よかった、嬉しいわ。 それは私が作ったの」


 エゼールはそう言って心底嬉しそうに笑い、リエティールがすごいと褒める。照れた様子でありがとうと言ってから、エゼールは貰ったヒドゥナスを一口食べた。朝に出来立てのために、新鮮な野菜がシャキシャキと良い音を立てる。


「これもおいしいわ」


「それは、泊まっていた宿で作ってもらったのを、買ってもらったんです」


「あ、もしかしてその買ってくれた人って、本をくれたっていう先輩のエルトネさんかしら?」


 リエティールが頷くと、エゼールはにこにこと「良い先輩ね」と笑う。

 そうして和気藹々とした雰囲気の中、二人は何気ない談笑をしながら昼食を取った。そんな穏やかで平和な時間が過ぎ、休憩時間も終わると、フコアックは再び次の町へ向かって進み始めた。

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