最終話
エピローグです(*´ω`)
八
2089年4月1日 9時58分 レプトン・クウォーク加速実験機構 実験室
あれから理事会役員たちの半数以上が逮捕され、現在国際裁判の真っ只中だ。実質、理事会決定権を持たなかった他役員たちは逮捕こそされなかったものの、理事会からは永久退会処分となった。オンブズマンもその内の一人だったが、くだらない政から解放され、自分の研究に専念できるよと咲季に吐露していた。そのいつもの優しい紳士の笑顔を見て、咲季は「これも貸しにしておく」といたずらっぽく返した。
諜報局員の秋野は事件後処理に追われて忙しい日々を送っているようだが、思わぬ巨悪の逮捕に貢献したことで昇進が決まったらしい。事件が解決した後もちょくちょく咲季の許に現れては酒を酌み交わす仲となった。
「咲季~、実験班、準備完了。加速器班も準備完了だよ~♪」
咲季は素粒子発射装置の三重扉を手際良く締めていき、オペレータパネル上に鎮座するかめきちに合図を出す。
『素粒子発射班、準備完了です~♪』
『管制官より各班へ、各準備工程完了。予定時刻まで、あと一分待機をお願いします』
未来とエイムは相変わらずで、周囲は彼らが事件に関わっていたことも知らない。
咲季はオペレータパネルに歩み寄り、かめきちを撫でた。手の中で嬉しそうににこにこしているかめきちに咲季の手に付いた煤がつく。
『リラ、たばこ吸ってきていい?』
『まーたオンラインになった途端そういうこと言うわけ?! 待機だっつってんでしょ! 黙って座ってなさいよ!』
各班からも笑い声が聞こえる。
『はいよ』
『やっぱり管制官はこうでなくちゃな』
『二人のこのやり取り聞かないと、実験してる感じでないんだよな』
皆好き勝手言っているようだが、咲季はふっと笑って、またログアウトした。
『ちょっと! みんな緊張感なさすぎじゃない?! 実験開始まであと三十秒。私語は慎みなさい!』
リラは仮想現実から目覚めた後すぐにLQPAへ戻ってきた。もともと管制官の仕事は顔を合わせる仕事が少ない為、波及する影響がなく混乱は最小限にとどまった。
『発射まで10・9・8・・・』
リラ自身、AI時代の記憶も過去の記憶もほとんど欠落していないと言っていたが、長い間幽体離脱でもしていたような感覚だと秋野に語ったらしい。唯一仮想現実で過ごした一年弱の記憶だけは夢を見ていたようにぼんやりとしか覚えていないようだった。
こちらに戻ってきてから、秋野はリラとも連絡を取り合っているようだった。大人の良さを彼女に知ってもらうと、咲季に宣戦布告してきたこともあったが、正直咲季には何の事だかよくわかっていなかった。
『3・2・1・発射開始』
実験室にはいつもの給排気ファンの高周波音と、実験設備の低周波音が共鳴し合い、咲季たちを見守っている。
咲季はブーツの紐を緩め、冷めたコーヒーを飲み干す。
管制官の擬似音声は続き、実験の経過を伝え続けている。やっぱりリラには現実で生きる方が性に合っているようだ。
『今度こそたばこ行ってくる』
咲季はと言えば、やっぱりあれ以降特に変わったことはなかったが、
『わかったわよ。あ、咲季。・・・行ってらっしゃい』
ほんの少しリラが優しくなったような気がしていた。
咲季はいたずらっぽく笑い、返事をする。
『行ってきます』
実験室を後にする。肩上のかめきちと他愛のない会話をする。
「今日は一緒に風呂入るか」
「やった~♪」
何もかも以前と変わらない生活の中で、彼らは新鮮な気持ちを胸に今日という本物の現実を生きている。
最後まで読んでいただきどうもありがとうございました(*'▽')
読みにくい部分も多々あったと思いますが、読んでもらえてとても嬉しいです。
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