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90.商品ラインナップ

 俺もフィルもうっすらと汗をかいた状態で、肩を寄せ合った状態で座っていた。

身体を重ねるのはカルバンシアにいた時以来だから、久しぶりのことだ。

本当のことを言ってしまうと、まだまだ全然足りなかったんだけど時間は無情にも過ぎていく。

この遊覧飛行もそろそろ終わりの時間を迎える。


ピピピピピッ! ピピピピピッ! ピピピピピッ!


 突然異音が響いて、びっくりした俺たちは慌てて体を離した。


「何だろうこの音?」

「そこのモニターが光っています」


 モニターには通信を知らせるガイダンスが出ている。

受信と描かれた部分をタッチすると、スピーカーからアリスの声が聞こえてきた。


「レオ様、そろそろお時間です。延長されますか?」


 延長?


「いや……適当な場所に下ろして」

「承知いたしました。素敵な時間をお過ごしになれましたか?」


 横でフィルが真っ赤になって、はだけた胸元を掻き合わせていた。


「ありがとう。ロマンチックな夜を堪能できたよ」

「それはようございました」


 アリスの声は淡々としていたけどこちらが何をしていたのかは見透かされているようだった。


 来た時と同じようにフィルには亜空間に入ってもらいホバーボードに乗った。

アリスは駆け足でついてくるそうだ。


「それにしましても改めて豊橋自工の技術力の高さに感服いたしましたよ」

「そうだよね。あんなに大きなものが空に浮いちゃうんだから」

「いえ、そうではなくて、レオ様たちはあんなに激しく動いていたのに車体はまったく揺れなかったことに感心したのでございます」

「センサーは遮断されるんじゃなかったの!?」


 確かアリスはそう言ったはずだ。

もしかして騙された!?


「かまをかけただけです。やっぱりやっていたのですね」

「……」

「これが若さか……でございます」


 だって気分が盛り上がっちゃったんだもん……。


   ♢


 翌朝、居間で待っているとフィルはいつも通りの時間に姿を現した。


「おはようございます殿下」

「おはよう、レオ。爽やかな朝ね」


 いつもよりも冷え込んでいるが、その分空気は澄んでいて空が青い。


「お二人とも今朝はスッキリした顔をされていますね。ここのところストレスが溜まっていらっしゃったようなのに」


 イルマさんの悪意のない一言で俺もフィルも赤面しそうになってしまった。

ただアリスだけがニヤニヤと口元を上げていてうざい。

普段は無表情のくせに!


「夢見が良かったんですよ」

「わ、私もです。とても素敵な夢を見まして」


 イルマさんがどんな夢かと聞いてこなかったのがありがたかった。

そんなことを聞かれたら苦しい言い訳がますます見苦しくなったことだろう。


  ♢


 いつも通りの日課をこなしていたのだが、午後になってアリスに相談を受けた。


「レオ様、そろそろ魔石の在庫が乏しくなってまいりました」

「やっぱりそうか。あとどれくらい残っている?」

「40㎏といったところです。当面は問題ございませんが、ストックがないのは不安です」


 ここのところアリスには22時間以上のフル稼働をお願いしている。

俺たちが寝ている間にもアリスは衛星からのデータを解析して国境線の北側を調べてもらっているのだ。

夕方の2時間だけ亜空間に入ってもらって、部品の自動メンテナンスを行ってもらっている。

その間に記憶の整理やシステムのバックアップなどもしているそうだ。

といったわけで魔石の消費量は以前とは比べ物にならないくらい上がっている。


「よろしければ私がどこぞのダンジョンにでも遠征して魔物を狩ってまいります。少しは足しになるでしょう」

「ごめん。俺が頼りないばっかりに……」


 もう少し早く商売を始めていればと反省してしまう。


「ダメ男を甘やかすのもS型AIの本懐でございますから……」


 ダメ男はないだろうに。


「俺も亜空間の中の要らないものを売りさばいてみるよ。もしかしたら高値で買ってくれる人がいるかもしれないから」


 毎日召喚しているから使わない物も増えてきている。


「承知しましたが無理はなさらないでください」

「うん。本当は俺も一緒にいければいいんだけど」


 プリンセスガードの仕事に加えて、人工魔石やらなんやらで帝都を離れることはできなかった。


「大丈夫でございますよ。その代り……」


 アリスの身体が揺らめき俺の胸に飛び込んでくる。


「いい子のアリスをナデナデしてください」


 こんなアリスは滅多に見ない。


「どうしたの?」

「モード・甘えっ子……でございます」


 躊躇いながら触れたアリスの髪は何の引っ掛かりもなくスベスベで触り心地がよい。

前も一回だけ撫でたことがあるんだけど癖になる手触りなのだ。


「レオ様の心臓の音……」


 いつも以上に早く鼓動しているのはとっくにバレているのだろう。

まあいいさ、と思ってしまう。

いまさら取り繕ったところで、どうせアリスに隠し事などできないのだ。


「そりゃあ、アリスが悪いよ……急に抱きついてくるから」

「はい……」


 今日はやけに素直に返事をするんだな。

こっちの調子まで狂ってしまうじゃないか。


「アリスのことだから大丈夫だとは思うけど、決して無理はしないように。これは最優先命令だからな」

「はい……」


 アリスはもう一度だけ俺の胸に顔をくっつけてから、ようやく身を離した。


 アリスはその日のうちに出かけていった。

帝都から120キロほどの場所にある巨大ダンジョンに潜入するそうだ。

武器が石ころだけでは何なので俺のライトブレードも持たせておいた。


「ライトブレードよりもレオ様の脱ぎたてシャツが欲しいです」


 俺は拒否したけど、気がつくと洗濯籠から一枚シャツが消えていた。

きっとあいつが持っていったのだろう。

今回は咎めないでおくか……。


 亜空間の中の要らないものを売却すると決めたのはいいのだが、いったい誰にいくらで売りつけたらいいのだろう?  

とりあえず売れそうなものをピックアップしてみようか。


ティーカップ 

ラゴウ村にいた時に召喚したものだ。

カルロさんも素晴らしいと褒めてくれたから、それなりに価値があると思う。

宮廷でもこれほど白く滑らかなカップは使っていない。

ボーンチャイナというらしい。


輪ゴム 

紙を束ねるのに便利だ。

全部で500本ある。

だけど高価な感じはしないな。


カード電卓×4

計算をしてくれる機械。

10個入りの内の残り。

6個はカルバンシアの文官さんたちに賞与として渡した。

光が動力となっていつまでも動くそうだ。

とても便利なんだけど数字が異世界の文字であるところが不便だ。

経理の文官さんとかが買ってくれるといいんだけど。


宮園姫香写真集 

かなりきわどいヒメカちゃんの写真集だ。

DVDはかなりのテクノロジーを秘めているから売る気にはなれないけど、これは売却してもいいかな? 

ポンセやオマリーに怒られそうだけど背に腹は代えられない。

問題は誰に売りつけるかだよな。

金持ちスケベオヤジならばけっこういい値段で買ってくれそうだけどそんな知り合いは……。

ダメだ! 

皇帝陛下の顔しか思い浮かばない!


 他にもクリスタルグラスとかマッサージチェアとかラジコンカーなどなど、端から売ってしまうつもりだった。


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