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79.お兄様へ

本日四本目です。

 今日のお昼ご飯は俺の大好きなエビクリームコロッケだった。

シェフ・アントニオさんの料理は何を食べても美味しいんだけど、俺はこれが一番好きだったりする。


「レオ君、よかったら私のも一個食べる?」


 隣に座っていたイルマさんがそっとお皿を寄せてくれた。

イルマさんは俺とフィルの婚約が正式に決まってからは、頑なにカンパーニ様と呼ぶようになってしまったが、一生懸命お願いしてプライベートの時だけは以前のようにレオ君と呼んでもらうようにしている。

兄弟のいない俺にとって、イルマさんは初めてできたお姉さんみたいな人だから、これまでどおりの関係でいてほしかったのだ。


「いいんですか?」

「うふふ。そんなこと言って、本当は食べたくて仕方がないって顔ですよ」

「えへへ。それじゃあ遠慮なくいただきま~す」


 ああ、幸せだなぁ。


「ねえ、ちゃんとしてますか?」


 アリス……。

突然食堂にやってきて何を言い出すんだ?

「何をちゃんとしているかって?」

「お食事でございます」

言いたいことは山ほどあるけど、ここはスルーしよう。


「どうしたの?」

「お手紙をお持ちしました」

「手紙?」

「はい。レオ様の大切なお兄様からですよ」


 だから俺に兄弟はいなってば、って、これは!


「レイルランドのオーブリー卿からの手紙じゃないか!」


 オーブリー卿は俺の領地であるバルモス島で知り合ったレイルランド国の護衛騎士だ。

頼りになるイケメンだけど、とっても気さくな人だから俺も大好きなんだよね。


「大好きなお兄様はなんと言ってきましたか?」

「その言い方はやめてくれないか?」

「だって、オーブリー卿のことをお好きなのでしょう?」

「そうだけど……」


 オーブリー卿はクリスティアナ殿下と無事に帝都ブリューゼルに到着したそうだ。

今はレイルランドの大使館に住んでいると書いてきてある。


「近いうちにクリスティアナ殿下のお披露目パーティーをするから俺にもぜひ参加してほしいってさ。フィリシア殿下にもクリスティアナ殿下から招待状が届く手はずになっているようだよ」

「さようでございますか。これは出席しなければなりませんね」

「ああ。それから、オーブリー卿がぜひ一度俺に会いたいってさ。帝都を案内してほしいんだって」


 後でフィルに都合をきいてみようっと!


「さっそくデートの申し込みですか。さすがに美形騎士イケメンナイトは行動が素早い。いよいよ我らがハーレムにBL要素を取り入れる時がきましたか」

「なんでそうなるんだよ。デートは男女でするものだろう? そもそもBLってなんなんだよ?」

「BLはボーイズ・ラブの略。いわゆる衆道というものでございますよ」

「まあっ!」


 イルマさんが赤くなって口に手を当てているけど、俺にはさっぱりわからない。


「どういうこと?」

「その……衆道とは、騎士同士の……男色のことでして……」


 イルマさんが口ごもりながらも教えてくれた。


「アリス! 俺にそんな趣味はないからな。多分、オーブリー卿だって……」

「つまり、ノンケ受けでございますね」


 誰かアリスの言葉を翻訳してくれ。

いや、やっぱりいい。

知りたくもない。


「ノンケ受けとは、女性を愛するノーマルな男性が、他の男に言い寄られて次第に男色に目覚めていくお話ですよ」

「ふざけんな! 事実無根の虚言だぞ」

「クククッ、真実なんてどうでもいいのでございます。これは乙女にとってのファンタジーなのでございますから。大事なのはリアリティーより芸術性でございます」


 ファンタジーって、そういうものだっけ?


「BL妄想は淑女の嗜みと言い換えても差し支えないかと……」

「異世界の淑女はそういったものなのですか?」


 アリスの言うことは真に受けない方がいいですよ。


「はい。イルマさんも想像してみてください。レオ様が年上の美形騎士に言い寄られて、あどけない顔を赤らめる場面を。もっとも、年下少年に美形騎士が押し倒されるというシチュも人気ですが……」

「それは……」


 イルマさん、なんですか、その嬉しそうなお顔は?


「ふふふ、思った通り貴方も素質がありそうですね。よろしい、サークルへの加入を認めましょう。後ほど私の描いた傑作を見せて差し上げます」


 アリスは俺の召喚したノートとペンで一生懸命絵物語を描いていたよな。

あれは漫画というものらしい。


「傑作ってどんなものなんだよ?」

「女の子の秘密でございます。レオ様、そんなことよりもタッチペン付きのタブレットを早く召喚してくださいね」


 まったくもって訳がわからない。

貰ったエビクリームコロッケを口に放り込んで、不可解な会話をするアリスとイルマさんを残して席を立った。


「前提用語として『攻め』と『受け』の二つを覚えてくださいね。古文書では『タチ』と『ネコ』という表記もみられます」

「タチとネコ?」

「どちらも『ひろし』がつきます」

「???」

「異世界ジョークでございますのでお気になさらずに」


 だったら言わなきゃいいと思う。


「有体に言ってしまえば、やる側とやられる側ですね」


 何をやるんだか……。


「そのような妄想の場合、レオ様とオーブリー様のどちらが攻めで、どちらが受けの役割をこなすかが重要なのですね」

「イルマさんは筋がいい! ですが攻めや受けにもバリエーションは豊富にございます。姫受け、誘い受け、総受け。俺様攻め、鬼畜攻め、尽くし攻めなどなど……。ここから自分の好きなシチュエーションを模索していくのでございますよ」

「なるほどぉ~……」


 ……この人たちのことは放っておこう。

さっさとフィルのところへ行って休暇の相談をしなければ。

二人の邪魔をしないように、俺に注意が向かないように控えめな挨拶でその場を後にした。


 フィルはメイドに紅茶を淹れてもらって食後のひと時を過ごしていた。


「見て、クリスティアナさんから手紙が届いたわ」

「私のところにもオーブリー卿からの手紙が参っております。お披露目パーティーのことは聞いておりますよ。ご出席されるのでしょう?」

「ええ。行きたいと思います。初めての帝国ですから、クリスティアナさんも知っている人がいる方が心強いでしょう」


 新しい土地の社交界にデビューするというのは緊張するだろうから、フィルが顔を見せればきっとクリスティアナ殿下も喜ぶだろう。

俺も初めてのパーティーの時はガチガチになっていたもんな。

今でもダンスパーティーはあんまり慣れない。

護衛に徹している分には問題ないんだけど、貴婦人たちからダンスに誘われると困惑してしまうのだ。

イルマさんに教えてもらったから恥ずかしくない程度に踊れるようにはなっているけど、たまに猛烈にアタックしてくる女の子がいて困ってしまう。

俺が王家に婿入りをすると知っていて、あえて側室狙いでモーションをかけてきているらしい。

断るのも悪い気がするけど、あんまりしつこいと閉口してしまう。

照れ隠しに既婚者と思われる40代以上の人とばかり踊っていたらマダムキラーと呼ばれるようになって、実は熟女好きなのではないかという噂がたつ始末だ。

社交界はゴシップに飢えているようだ。


「殿下、オーブリー卿とお会いしたいのですが、お休みをいただいてもよろしいですか?」

「構いません。ですが、オーブリー卿とお会いして……どうするつもりですか?」


 なぜかフィルが心配そうな顔をしていた。


「街をご案内するだけですよ。卿も帝国は初めてだそうですから」

「そうですか……」


 フィルはなんでそんなに不安そうなの?


「なにかございましたか?」

「先ほどアリスがこのような物をくれまして……」


 フィルは周囲のメイドたちの目に留まらないように一枚の紙を手渡してきた。

 絵には二人の人物が描かれていた。

一人はオーブリー卿の特徴をよくとらえたイケメン青年。

そしてもう一人は……俺か? 

背の高いオーブリー卿が俺を慈しむように後ろから抱きしめ、俺は身を固くしながら顔を赤らめている図だ。 

なぜか二人ともシャツの上のボタンを外していて胸のところが大きく開いていた。


「こ、これは……」

「よくわからないのですが、サークルの見本と言っておりました。その、レオはオーブリー卿と……」

「俺にそんな趣味はないよ!」


 部屋にはメイドが二人もいるのに、思わず素に戻ってしまった。


「カンパーニ卿」

「し、失礼いたしました」


 アリスめ、あとでお仕置きだ!


「とりあえずそれをこちらに……」


 フィルが手を伸ばして絵を渡せと言ってきた。


「これは私が捨てておきますので」

「いえ、私の物ですから……」


 はっ?


「殿下もこういうのがお好きなのですか?」

「そうではありませんが、レオの姿が可愛く描けていますので……」


 喜ぶべきなのだろうか? 

いや、悲しんでいいのだろう。


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