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73.クリエイター アリス

 飛竜の飛行速度は速く、その日のうちに帝都ブリューゼルへ帰りつくことができてしまった。

アニタのおかげでドラゴンを操るのもかなり上達したと思う。

手綱を持っている間、後ろから体をまさぐられていたのには閉口したけど……。


「レオ、これは貸しにしておく。約束通り私をデートに連れていくのだぞ」

「いいけどさ。その時はフィリシア殿下とレベッカも一緒だよ」


 そう言うとアニタは少しだけ口を尖らせた。


「殿下は正妻だから仕方がないとして、どうしてこのチビまで一緒なのだ」

「誰がチビよ!」

「レベッカにはずっと世話になりっぱなしなんだ。たまにはお礼をしたいよ」


 レベッカはむきになってアニタに反論していたが、俺がそう言うと顔を赤くしてボソボソ言うだけになってしまった。


「そんな……お礼だなんて……私はレオが喜んでくれたなら……」


 フィルはフィルで顔を輝かせている。


「四人だけで宮殿の外へ行くのですか!? なんて楽しみなんでしょう‼」


 普通ならあり得ないことだもんね。

皇女が宮廷の外へ出るとなると護衛は最低でも100人はついてくる。

例外は成人の試練の時だけだ。


「まあ、俺とアリス、アニタもいるので問題はないでしょう。殿下にも伝説のスクール水着は着ていただきますが」


 うまくやれば一個大隊でも相手ができそうな気がするぞ。


「もちろんですわ。ああ楽しみ……長らく帝都に住んできたのですが、一般の商家など見たこともありませんもの」


 そうだよね。

買い物は御用商人が商品を持って宮廷に来るし、外部の料理を食べる場合だって料理人が宮廷まで来て調理するのが当たり前だもんね。


「ふん、今回は殿下の顔を立ててそれで許してやる。その代わり私の行きたい場所にも連れていってもらうからな」


 それくらいは仕方がないか。

俺が譲歩するとアニタは上機嫌でロイヤルガードの任務に戻っていった。


 それにしてもデートなんてどこに行けばいいんだろう? 

宮廷からはあまり出る機会がないので帝都のこともまだよく知らないんだよね。

相談できる知人はエバンスかカルロさんだけど、忙しそうにしているカルロさんにデートの相談をするのも躊躇われるし、エバンスだと俺よりもデートスポットには不慣れだと思う。

ずっと庭園内の菜園で働いているみたいなんだもん。

やっぱりあの人に相談してみようかなぁ……。

俺の頭に一人の人物の顔が思い浮かぶ。

悩んでいても仕方がないから手紙を書くことにしよう。


親愛なる サウル・レレベル様

 一別以来ご無沙汰をしておりますが、ご健勝でお過ごしでしょうか。

 突然ではございますが相談したいことがございましてペンを取りました。人生経験の浅い私と違いレレベル準爵ならばきっと良い知恵を授けてくださるだろうと、おすがりしている次第です。準爵のご都合のよい日にお目にかかってご相談申し上げたいのですがよろしいでしょうか。ご高配のほどお願い申し上げます。

レオ・カンパーニ


 これでいいだろう。

レレベル準爵は今でこそちょっぴりお腹が出てきて、髪も薄くなってきているけど、若い頃はそれなりにモテたらしい。

きっとお薦めのデートコースなんかも教えてくれると思う。

アニタだけではなくフィルも連れていくし、日頃世話になっているレベッカにも楽しんでもらいたい。

アリスは当然ついてくると思う。


 手紙と言えば、カルバンシア城のバルカシオン将軍からも手紙が来ていた。

北の大地は一足先に本格的な厳冬期がきているそうだ。

冬になれば虫系、爬虫類系、両生類系、一部の動物型モンスターは冬眠に入るので大規模な襲撃はなくなり一息つけると喜んでいた。

寒さは厳しいみたいだけど今のうちに英気を養っておいてほしい。

フィルと相談して召喚したばかりのお酒を送ることにした。


####


名称 オールドバー(12年)

説明 ウイスキー。150歳まで生きたトメお婆ちゃんにちなんで名付けられたヤマト国のウイスキー。ラベルにはトメお婆ちゃんの浮世絵と生没年がデザインされている。飲めば元気な老後を過ごせる。別名ピンコロウイスキーとも呼ばれている。


####


 バルカシオン将軍はお酒が好きだからきっと喜んでくれるはずだ。

寒い日はお湯で割って飲んでも美味しいのだとアリスが教えてくれたから季節的にも丁度いいはずだ。

味も良くてヤマト国ではとても人気のあるお酒なのだそうだ。

バルカシオン将軍が雪のように白い眉毛を下げて喜ぶ様を想像して俺も嬉しくなった。


 レレベル準爵への手紙はメッセンジャーに託したのだが、その日の夜に返信を持ち帰ってくれた。


我が心の友 レオ・カンパーニ君

 君からの便りをいただき喜びに打ち震える我が心の内をお見せしたいほどだ。何やら悩みを抱えているようだが、それは恥じるようなことじゃない。私にだって青春の苦悩は未だに付きまとっているし、この後には老境の悩みが待っているのだろう。だが、苦しみを共有できる仲間がいるというのは心強いものさ。いつでも私の所へいらっしゃい。今夜は店にいるし、明日の午前中は自宅に、午後だったらメダリアのところにいる。遠慮せずに訪ねてきてくれたまえ。

親友にして人生の先達 サウル・レレベル


 ありがたいことにレレベル準爵は相談に乗ってくれるそうだ。

明日はフィルの護衛で離れるわけにはいかないからご厚意に甘えて今から訪ねてみようかな。


「フィル、これからちょっとレレベル準爵の所へ行ってくるけど、いいかな?」

「ええ。今夜はもう用事はありませんから構いませんよ。だけどどうして?」

「ほら、俺は帝都について詳しくないだろう。だからどこに連れていったらフィルたちが喜んでくれるかレレベル準爵に教えてもらおうと思ってさ」


 そういうとフィルはまたまた目を輝かせた。


「まあ! 私ならどんなお店でも楽しいと思いますわ。レストランというところも行ってみたいし、洋服や雑貨を売る店などというものも見てみたいです」

「いい店がどこにあるか聞いておくよ。ところでアリスはどうする?」


 さっきからこちらには興味を示さず、一生懸命紙に何かを書き付けている。


「私はまとめたいものがあるのでレオ様お一人で行ってくださいませんか?」

「別にいいけど、何を書いているの?」


 いつもなら当然のようについてくるのに。


「レオ様とオーブリー卿についての本ですよ……」


 何かのレポート?


「俺とオーブリー卿ってどういうこと?」

「たいしたものではございません。ちょっとした薄い本でございます。クリスティア姫様へプレゼントする予定なのです。あの方は素質がございますから、きっと喜んでくださるでしょう……」

「素質?」

「ふっふっ腐っ、私のゴーストがそう囁くのでございます……」


 なにその笑い方? 

よくわからないけど忙しいようだ。

俺はフィルとアリスを残してレレベル準爵の元へと向かった。


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