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18.悪役村娘 ヨランの日記 その1

本日二本目です。

水の新月 一日

 信じられない。

白羽の御子であるレオが役立たずのスキルを貰うなんて。

将来見込みがありそうだと思って付き合っていたのに、こんなのってないと思う。

とりあえず火炎魔法を授かったステルガをキープしておくことにした。

ダンジョンに入る能力があるなら、収入はそれなりに見込めそうだ。

ステルガは私に話しかけられてデレデレになっていた。

レオと同じで扱いやすそうなタイプだ。

私は生活魔法のスキルを授かった。

この力で都に出るのもいいけど、できるなら働かずに上級市民の奥様のような生活がしたい。

予定ではレオが稼いで、私は憧れの帝都生活ができたはずなのに。




水の新月 二日

 レオが家に来たらしい。

お父さんが追い払っていた。

何の用だったのかしら? 

洗濯バサミ以外のモノが召喚できたとか? 

それだったら喜んで私に報告してくるはずよね。

何の報告もないところを見るとレオは本当に洗濯バサミしか召喚できないのだろう。

ああ、鬱になる。

レオとは早く切れた方がよさそうだ。




水の新月 四日

 村の人が言うには、レオはやっぱり洗濯バサミしか召喚できないそうだ。

そんな男に興味はない。

今日ハッキリと別れを告げてこよう。

ステルガも自分と付き合えとうるさいし……。

でも、ステルガはレオよりもガサツだ。

字も読めないし……。

それにすぐに体を求めてくる。

キスだけはさせてやったけど、そう簡単にやらせてやるつもりはない。

ダンジョンで金貨の一枚でも稼いできたら考えてやることにしよう。


 さっきレオに別れを切り出してきた。

泣いて縋り付くと思ったのに、あっさりと別れを受け入れたレオに腹が立った。




水の新月 一六日

 ステルガと歩いていたらレオに会った。

ステルガがボコボコにするって言ったけど私は止めた。

つまらない問題は起きてほしくなかったからだ。

それに、レオに対しての情も少しは残っていた。

私は基本優しい女なのだと思う。

その代わりステルガはレオの目の前で強引に私にキスしてきた。

元カレの目の前でするキスは背徳的ですごく興奮したけど、レオはすました顔で行ってしまった。

ああいう飄々とした態度がすごくムカつく。

やっぱりステルガにボコボコにしてもらうべきだったと思った。




水の新月 二二日

 ステルガとデート中に、レオに会った。

最近アリスという女と暮らし始めたということを聞いていたけど、本人に会うのは初めてだった。

顔はまあまあだけど私ほどは可愛くはない。

胸だってずっと小さかったし、冷たい表情をしていた。

私にだけ聞こえるように「ビッチじゃ、ビッチがおる」と囁いていたが、ビッチってなんだろう? 

きっと悪口だ。

とにかく可愛げのない女だった。

聞けば二人はこれからダンジョンに行くらしい。

ステルガが激高してレオに魔法を放とうとしたけど、苦も無くねじ伏せられていた。

レオってあんなに強かったの!? 

よくわからないけど戦闘の達人みたいでかっこよかった。

思わず胸がキュンとなる。

でも、せっかく私から話しかけたというのに、レオは「迷惑だ」と言い残して去っていった。

拗ねているのかしら? 

もう少し優しくしてあげればレオの心は戻ってくるとは思う。


二人の姿が見えなくなってから、ステルガが「いつか絶対に燃やしてやる」と震えながら言っていた。

その姿はかなり情けなかった。

彼氏のランクが下がったみたいですごく悔しい。

ステルガとはそろそろ終わりにした方がよさそうだ。




水の中月 一二日

 十日の予定でダンジョンに行ったレオが帰ってこないそうだ。

ひょっとしたら死んでいるのかもしれない。

村長はレオの資産を村の共有財産にすると言い出した。

レオの友達のエバンス辺りが強く反対しているそうだ。

神官様も反対らしい。

レオの遺産は婚約者であった私の物になるのが当然のはずだ。

村の共有財産になるのはおかしいと私も思う。




水の中月 二十三日

 死んだと思われていたレオが村に帰ってきた。

雑貨屋のおばさんが言っていたが、レオがチェリービールを買いに来た時、財布にぎっしりとお金が詰まっていたのを見たそうだ。

ダンジョンでかなり大量の魔石を入手したのだろう。

我ながら本当に愚かだったと思う。

こんなに稼げる男なら洗濯バサミしか召喚できない無能だったとしても、捨てるべきではなかった。

一刻も早くよりを戻した方がいいだろう。




水の中月 二四日

 レオの家に行ったのだが、アリスとかいう冷酷娘に追い払われてしまった。

私が何を言っても「レオ様はお会いになりません」の一点張りだ。

だいたいあの女はレオとどういう関係なのだろう? 

レオ様と呼ぶくらいだから使用人? 

だったらレオは使用人が雇えるくらい金持ちってことじゃない! 

何とかあの女を排除しなければ……。




水の中月 二六日

 怖い。

あのアリスという女の声が耳に張り付いて消えない。


 ステルガたちをそそのかしてあの女を襲わせた。

一人で買い物に出たところを待ち伏せしたのだ。

ちょっとした茂みの中だから誰にも見られることはないはずだった。

私も少し離れた木の陰から事の成り行きを見守った。


計画ではちょっと絡んで脅かすだけのつもりだった。

服をびりびりに破いてやれば、恥ずかしくてこの村を出ていくだろうと思ったのだ。

私も女なので最後までやらせるほど残酷にはなれない。

ちょっぴり脅かすだけの予定だったのだ。

だけど結果は全く逆になった。

服をびりびりにされたのはステルガの方だった。

しかもロープを使って全裸の状態で木に吊るされていた。


「強姦・準強姦罪の刑罰は去勢が相応しいと考えます」


そんなことを言いながらアリスが手刀をふるうと、近くに生えていた枝がスパッと切れていた。

表情に乏しいアリスが微かに笑みを浮かべる。

氷のように冷たい微笑だった。

恐怖のためだろう、ステルガたちは吊るされながら漏らしていた。


「女を襲おうなんて了見は二度と起こさないことです。しばらくそのままで反省していやがれっ! でございます」


そう言ってアリスは去っていった。

しかも、去り際に隠れて見ていた私に笑いかけて。

私はあんなに恐ろしい笑顔を他に知らない。




水の後月 七日

 帝都から宮廷の偉い人が来た。

しかもレオを迎えに来たという。

レオは騎士の身分を与えられて帝都に住むらしい。

美しい騎士の制服に身を包んだレオを見ながら、足元の大地がグラグラと崩れ落ちていくような気分だ。

どうして? 

なんで私を連れていってくれないの? 

ステルガなんて知らない!

私が愛していたのはレオだけなの!

でも、何を言っても私の言葉はレオに届いていなかった。

これというのもあの日レオを追い払ったお父さんが悪いんだ。

無理やり私にキスを求めてきたステルガだって悪い。

それにそれに、私とレオを引き離したアリスという女も悪いのだ。

みんな大嫌い!

みんな死んじゃえばいいんだ!


 わかってる。

すべてが後の祭りだ。

もうレオを取り戻す方法もない。

レオは遠い地へいってしまった。

今更だけど、もっとレオに優しくしてあげればよかったと思う。

せめて体を許していれば、レオだって責任を感じてくれたはずだ。

こちらからもっと積極的に誘えばよかった。


 考えてみれば小さいころからラゴウ村が嫌いだった。

びっくりするくらい時間がゆっくり流れていて、窮屈で息が詰まりそうになる。

だから都に出ようとしていたレオは私の唯一の希望だった。

いつか私をこの村から連れ出してくれる白い羽、それがレオだったのに……。

こうなったら自力でこの村を出るしかない。

私もお金を何とかして帝都へ出よう。

家のヘソクリをこっそり持ち出して、あとは……。

私の美貌と体と若ささえあればもっと裕福な暮らしができるはずだ。

私は私の全能力をかけて上流階級になってやる。



――ヨランの野望は続く。



感想、ブックマーク、評価をありがとうございました。

次回から帝都編がはじまります。

楽しんでいただければ幸いです。


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― 新着の感想 ―
[一言] ざ・ま・ぁ…(AMSR)
[一言] ヨランがクソやろうと言うことがよく分かりました。 自分を中心に世界が回ってると思ってそう
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