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16.村に帰って大宴会

本日二本目です。

 ダンジョンを出るとフィルの迎えがずらりと並んでいた。

侍従や騎士など合わせて一〇〇人以上はいるだろう。


「レオ、ありがとうございました」

「もったいないお言葉です。殿下もご健勝で」


俺たちは短い言葉で別れた。

事前に別れは済ませてあったし、二週間後にはフィルからの迎えがやってくる。

またすぐに会えるのだから寂しくはなかった。



□□□□


クロアト領主の館。

 ダンジョン攻略の疲れをいやすため、フィリシアはここに投宿した。

領主との接見を済ませ、今はゲストルームへと案内されている。

 先月からフィリシアのお付きメイドになったイルマは鎧を外すのを手伝っていた。


「この一月、さぞやご不自由なことだったでしょう。お風呂で疲れと汚れをお落としください」

「ええ……」


フィリシアは心ここにあらずといった表情で考え事をしているようだ。

無事に成人の試練をやり遂げて放心しているのだろうとイルマは考えた。


「お召し物をとりますよ」


皇女は服を着るときも脱ぐときもメイドがそれを助ける。

鎧を外して、いつものように服を脱がせていくイルマの手が止まった。


「姫様……これはいったいどういった……下着? なのですか?」


ぼんやりと物思いにふけっていたフィリシアが正気づく。

正面の姿見には、伝説のスクール水着だけをまとった自分の姿が映っていた。


「え? あ! こ、これは大切な方に……じゃなくて、これは大切な装備なのです」

「装備品?」

「ええ。私の能力値を大幅に上げてくれるマジックアイテムです」

「はあ……」


そうは言われても、イルマにしてみれば薄っぺらい布にしか見えない。

今年で二七歳になるが、こんなものは生まれて初めて見る。

ただ、どう見ても身体を守る装備には見えなかった。

しかも、そこはかとなく扇情的でもある。

濃紺の水着から延びるフィリシアのスラリとした手足が、色のコントラストのせいかいっそう白く輝いている。

伸縮性のある布地はフィリシアの大きな胸を無理やり包んでいるようで、はち切れんばかりだ。

布の面積は女性用の下着よりもずっと大きいのに、なぜか健康的な色気があった。

ところで、胸部のところの白い布には不思議な文字らしきものが書いてあるのがイルマには気になった。


「姫様、これは?」

「異世界の文字で『ふぃりしあ』と書いてあります。所有者が誰かを顕示しているとのことです」

「さようで……」


イルマは魔法的効果があるのだろうと推量したが、実際は単なるアリスの遊び心だ。

 とにかくこのままではお風呂に入れないのでイルマは水着を脱がせることにした。

しかし……。


「畏れながら殿下、私にはこの水着をどのようにお脱がししてよいかわかりません」


本当はイルマが脱がせなくてはならないのだが、どこから手を付けてよいかわからなかったのだ。

万が一にも壊してしまうわけにもいかない。


「よいです。これは私が自分で脱ぎます」


フィリシアはそう言って白く端正な指を肩ひもにかけた。

そこから少し前かがみで腕をぬき水着を下へと下げる。

その姿を見てイルマは赤面した。


(こんなのを見たら殿方は堪らないでしょうねぇ……)


同性のイルマが見てもわかるくらいに男心をくすぐる仕草だった。

しかも意図的にではなく天然……。


□□□□



 俺とアリスはクロアトの街に一泊してから、ラゴウ村までの家路を急いでいた。

エバンスたちに任せてあるが、ヤギや鶏たちは元気にしているだろうか? 

知らず知らずのうちに足が速くなってしまう。


「先ほどから速足になっていますね。早くラゴウ村に戻りたいですか?」

「うん。やっぱり家畜のことが気になるからね」


アリスはうんうんと頷いている。彼女もヤギたちの世話をしてきたので気持ちはわかるようだ。


「だったら、訓練のためにランニングで帰りましょう」

「ランニングってなに?」

「走ることですよ。全力疾走ではなく長時間走ることで持久力を鍛えます」


なんだか面白そうだ。

荷物を全て物置に入れて身軽な状態になり、俺たちは駆け出した。


 ゲーター・トルネードを飲みながら走り続けた結果、その日のうちにラゴウ村まで帰ってくることができた。

太陽は西の空に沈みかけていたが、何とか日のあるうちに戻ってこられたな。

村の入り口ではサウルさんが羊の散歩をさせていた。

サウルさんは俺と同じ農家だ。

今年で六四歳になるはずだが元気に畑仕事をしている。


「こんにちはサウルさん。お久しぶりです」

「レオじゃないか!!」


サウルさんは俺の顔を見てやたらとびっくりしている。


「どうしたんですか?」

「どうしたんですかじゃない。おめぇ生きとったんか!?」


ええっ? 

……そういえば一〇日くらいの予定でダンジョンに行ったのに、あれからもう一か月経っている。


「もしかして俺、死んだと思われてた?」


サウルさんはコクコクと頷いている。


「早いところ村長さんと神官さんのところへ行ってこい。大変なことになっているぞ」


村についたらエバンスたちのところに寄ってお土産を渡そうと思っていたのだが、それどころではないようだ。



 その晩は俺の家に集まって、いつものメンバーで宴会になった。

 やっぱり俺はダンジョンで死んだらしいということになっていたそうだ。

予定の帰還日より二十日も過ぎているのだから仕方がないか。

問題は俺が死んだということで俺の持ち物を村の共有財産にしようと村長が動いたことだった。

エバンスたちが反対してくれたおかげで家財を持ち出されずに済んだそうだ。

神官さんももう少し待ってみようと言ってくれたのが良かったらしい。

しかもヨランまで反対派にまわってくれたと聞いた。


「たぶん、レオとやり直したくてそう言ったんだろうな」


おそらくエバンスの言う通りだろう。

さっきもヨランが家まで押しかけてきたがアリスが対応してくれたので帰っていったみたいだ。


「ヨランの奴、ステルガとは別れたみたいだぞ」


ポンセが教えてくれたがどうでもいいと思った。


「そんなことよりも皆にお土産があるんだ」


俺は三人に魔石を十粒ずつプレゼントした。

皆はすごく喜んでくれたけど、こんなものはまだまだ序の口だ。

ここから俺たちの饗宴は始まるのだ。


 まずはエバンス。

エバンスには先日召喚したマスクメロンの種をあげた。


「寿命が延びて万能薬になるメロンなんて……」

「その代わり、作るのがものすごく大変らしいんだ。農業の加護があるエバンスにはうってつけだろう?」


 お次はポンセ。

ポンセにはヤマト国の名工、瀬川正孝作の釣竿をプレゼントだ。

「説明によると“調子”が良くて、ふうわりとストレスなく釣り上げることができるんだって。素材である竹選びから始まって、二〇〇もの工程を経て作られるそうだよ」


ポンセはジッと釣竿を見つめている。


「うん……。釣りスキルのおかげで、これがどれだけすごい竿かがよくわかるよ。むしろレオがわかっていないみたいで困る。こんなすごい物を貰ってもいいのかな」


ポンセは少し震えているようだ。


「むしろ価値のわかるポンセが持っていた方がいいと思うよ」

「そうか……ありがとう」


 最後にオマリーだが、彼には滑車カムとケーブルのついたコンパウンドボウという弓をプレゼントした。

これもダンジョンに潜っている間に召喚したモノだ。

魔物相手に数回使ったが素晴らしい威力だった。

だけど俺には拳銃があるし、これから猟師になるオマリーには必需品になるだろう。


「ありがとう。何とお礼を言っていいかわからないよ……」


オマリーも感無量といった感じだ。

だけど俺はここでニヤリと笑う。


「みんな、お礼を言うのは早すぎるぜ!」


三人とも何を言っているのかわからないといった雰囲気で俺を見つめる。

俺は三人の前に最後のプレゼントを出した。



####


名称: 宮園姫香 「ハニーコネクション」

種類: イメージDVD

説明: トップグラビアクイーン姫香ちゃんが、南の島で、路地裏のホテルで、廃倉庫で、ダイナマイトボディーをたっぷりお見せしちゃいます! (収録時間110分)


####


「うおおおおお!!」


喜んでくれると思ったよ。

九日前に召喚したんだけど、フィルに見つからないように慌てて隠したのは、今となっては笑える思い出だ。


「DVD! DVD! DVD!」


湧き上がる大歓声の中、俺はDVDプレーヤーをセットした。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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