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ドワーフへのご褒美

 バルモス島で困ったことと言えば、自分の領地なのに住む家がないということだった。

そろそろ領主館の建築に手をつけようと今回はいろいろ用意してきている。

国境を越えて砦を作ったときのノウハウをいかして、予め建築資材の加工をしてきたのだ。

これなら専門的な大工じゃなくても家が建てられる

建てるというよりは組み立てるって感じかな。


「ヤマト国ではこの方法で家を建てるのが一般的なのです。フルオーダーの家は一部の富裕層しか持てません」


 アリスの作られた世界ではこちらがデフォルトなのか。


「工場で大量生産すれば、設計料、デザイン料、材料調達費、加工費など、すべてが安くつきますからね」


 効率や値段の安さを追求していけばそうなるのかもしれない。

まあ、今回の領主館は組み立てるのが俺たちってだけで、大量生産をするつもりはないけどね。


 領主館を作るにあたって、設計はフィル、レベッカ、ララミーの意見をふんだんに取り入れてある。

アニタにも連絡したんだけど、「広い訓練場所とベッドがあればそれでいい」とのことだった。

アイツは自分の興味の対象外には本当に無頓着なのだ。

間取りとインテリアはフィルとレベッカが、地下室と実験棟は俺とララミーが中心になって考えている。

今日はスルスミで整地をして、基礎工事をマシュンゴの奥さんに頼むつもりだ。

マシュンゴの奥さんは土魔法が使えるのだ。

ちなみにラーサと言うのが奥さんの名前だった。


 選定してあった水はけのいい高台を整地してから、ラーサに基礎作りをお願いした。


「あいあい、まかせておいてちょうだいよ。こう見えても結婚前はこれで稼いでいましたからね」


 ラーサは主に建築現場で基礎屋さんをしていたそうだ。

建物の土台を作る専門職みたいなものだね。

スルスミとラーサの魔法のおかげで基礎工事はお昼過ぎには終わってしまった。


「これでいよいよ家を組み立てていくのよね。レオ、資材を出して」


 フィルが嬉しそうに腕まくりをしている。


「まさか、フィルも建築をやるつもり?」

「当然でしょう。私たちの家を建てるんですから。大丈夫、服の下には伝説のスクール水着を着ていますから、足を引っ張るようなことはありませんよ」


 それはいいけど、皇女殿下が大工仕事だなんて前代未聞だぞ。


「いけません殿下」


 珍しくアリスがフィルを止めた!? 

普段ならけしかけることはあっても、こういうことを諫めるキャラクターではないはずなのに……。


「そのようなお召し物で大工仕事などもってのほか、こちらを着てくださいませ」


 服のことかよ! 

アリスは用意していたであろう派手な服を取り出した。


「随分とまぶしいピンク色だなぁ。そのダボダボのズボンはなんなの? 足首のところはキュッと締まっているみたいだけど」

「これはニッカポッカという作業着でございます。脚を上げやすく、強い風を読み取るのにも適しています。出っ張りなどの危険個所にも敏感になるのですよ」


 言われてみれば納得の機能性だ。


「それはわかったけど、なんでそんな色なの?」

「私の趣味でございます。とびの心意気に乙女の恥じらいをミックスさせた結果こうなりました。黄色いヘルメットを合わせるとファンシーなコーディネイトになります。白の手甲シャツによろしければ赤い腹巻もどうぞ」


 今日は温かいから腹巻は要らないと思うけど。


「なるほど。大工仕事にはそれに適した衣装があるのですね。勉強になりました。さっそく着替えてきましょう。レオ、亜空間を開いて」

「う、うん……」


 フィルは素直にアリスの言うことを聞いて亜空間に入ってしまった。

アリスも着替えを手伝うために一緒に入っていく。

しばらく待っていると着替えを終えたフィルが出てきた。


「どうかしら。熟練の職人に見えますか?」


 悪いけどそれだけはない! 


「本来は紺色くらいが私の好みなのですが、それはマルタ隊長に着てほしいのです。少し冒険になりましたが殿下にはかわいいピンクを用意して正解でございました」


 アリス独特のよくわからないこだわりだな。


「こうして準備もできましたから、さっそく始めてしまいましょう」


 やっぱりフィルも大工仕事をするのか。

でも、ここはバルモス島だもんな。

ここにいるときくらいはそれくらいの自由があってもいいような気がする。


「よし、三人で俺たちの家をつくるとしよう!」


 亜空間から資材を出して、組み立てやすそうな場所に置いていった。



 三人ともパワーだけは人並み以上にある。

しかもアリスは完璧に設計図を記憶し、理解している。

水平だって一目見ただけでセンサーが感じ取る。

今日はモード・棟梁になってどんどんと指示を出してくれた。


「おうおう、上端うわば下端したばを間違えんなよ! でございます」


 マシュンゴ一家も手伝ってくれたので作業は驚くほど捗った。



「今日はこれくらいにいたしましょう」


 アリスに声をかけられて気がつくと、太陽はだいぶ西の空に傾いていた。

随分と集中していたんだな。

俺もフィルも夢中になって家づくりを楽しんでいた。

すでに家の骨組みや外壁、屋根などはすべて組み上げてある。

見た目だけなら立派な領主の館だ。

内装は専門の職人を後日連れてくることにしよう。


「みんな、ありがとう。今からご褒美をあげるよ」


 手伝ってくれたマシュンゴの子どもたちに声をかけた。


「うわぁ!」

「なんだろう?」

「酒か? 酒なの?」


 五歳児に「酒か?」と聞かれるのはなかなかシュールだ。


「ちがうよ。これは一つしかないから皆へのプレゼントになる。でも、とってもいいものだから気に入ると思うんだ」


 最近召喚したばかりの宝石鉱物標本を亜空間から取り出した。

50の区画に分けられた美しい寄木細工で、木箱は二段になっている。

中には、ダイヤモンドをはじめとした、宝石や美しい鉱石が100種類もつまっているのだ。

ドワーフにとっては垂涎すいぜんのアイテムじゃないかな?


「…………」


 あれ? 

反応が薄いな……。


「うおおおおお! こ、子どもにこんなものはまだ早い! これは父ちゃんが預かっておこう‼」

「ずるいよ父ちゃん。それはご領主様がアタシにってくれたもんだよ!」

「ふざけんな姉ちゃん! 一番働いたのは俺だぞ!」

「アンタたち喧嘩はおやめ! これはアタシが預かります‼」

「ついでに酒もください」


 やばい……。

ドワーフの鉱物好きを見誤ってしまったか!? 

だけど、人数分召喚してやるわけにはさすがにいかない。


「ちょっと待った! 喧嘩をするならあげないよ」


 シーン…………。


「喧嘩なんてとんでもない。儂ら仲良し家族でさぁ」

「アタシ、父ちゃんだ~い好き」

「俺、素直」

「うちはオシドリ夫婦なんて呼ばれているんですよ」

「酒も飲みたい」


 一家そろって変わり身が早い!

末っ子だけ変わらないけど。


「提案だけど、棚とか作って飾っておいたらどう? そうすればみんなで楽しめるんじゃない」

「それだ!」


 全員が同じ動きで膝を打つ。

シンクロ率100%かよ!?


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