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とある異世界旅行記  作者: 字
9/9

彼と夕立ち

お久しぶりです。

ようやくリアルの仕事が落ち着きそうです。

 ルケの今日のお土産は、石だった。ただの石ではない。表面に何か焼き込まれた、綺麗な深紅の石だ。焼き込まれた模様は地面に描かれた物とよく似ていたから、おそらく身を守る何かなのだろう。

 ポケットに入れて落とすのは嫌だし、鞄に仕舞おうとしたら、身に付けろ(多分)と怒られたので、もらった石は四つ折りにしたハンカチに入れて縛り、汚れたタオルを解いて撚って紐にした物を縛った所に通して首に掛けた。ルケがそれを見て満足そうに頷いたので、正解だったのだろう。

 しかし、こんな繊細な模様を石に焼き込めるとは、ルケの種族の技術は凄い。

 そこで、藤麻はある可能性に気付いた。


 今まで、魔物に襲われた時、ルケは居なかった。居なくて良かったと藤麻は考えていた。彼の命が危険に曝されるのは、嫌だったからだ。

 だが、むしろ逆だったのではないのだろうか。


 ルケが、居る時は、魔物に教われない、のではないだろうか。



 彼が凄い魔除けを持っているのか、あるいは…彼が、あの藤麻を襲った魔物たちすら恐れて近付かないレベルに、強い種族であるか。



 視線をルケに向ければ、ルケはどうしたと言うように、首を傾げる。

 肉食獣の幼少期の姿は大変可愛らしい。大きな足と頭、モコモコの身体とのバランスが絶妙だ。とても強くは見えないけれど…この場所において、藤麻の先入観は意味をなさないのではないのだろうか。

 守りの模様の外側は焼けただれていたが、その上を走って来たルケの足は、確認させてもらったが傷一つなかった。

「君の…言葉がわかれば、きっともっと知る事が出来るんだろうな」

 こちらの言葉はわからないだろうに、ルケは同意するようにぐぎゃと鳴いた。




 しばらくすると、雨が降り始めた。藤麻にとって、ここに来てから初めての雨だ。熱されていた地面が勢いよく煙を上げるが、あの守り模様のおかげか、藤麻は熱を感じはしなかった。

 熱は来ないのに、雨はしとしとと藤麻達を濡らして行く。そうすると、守りの模様はバリアのような物ではないらしい。

 ぐいっとルケが藤麻の袖を咥えて引いた。森の方へ入れと言っているらしい。だが、流石に身の守りも靴も一般的な藤麻は焼けただれている所に出たくはなかった。

 躊躇する藤麻に、ルケは呆れたように藤麻のぶら下げたハンカチを指し示す。

 この石があれば大丈夫と言うことだろう。藤麻はそっとハンカチ越しに石に触れて、それから迷うように焼けた地面を見た。

 確かに、これだけの威力を無効果する能力を持つルケが言うのだから大丈夫なのだろう。

 藤麻は恐る恐る焼けた大地へ足を踏み出す。

 ルケを信じていても、恐怖は無くならない。足が震えるのがわかった。

 だが、ルケの示した通り、藤麻も藤麻が持つ荷物も藤麻が身につけた物も、熱に損なわれる事なく焼けただれた箇所を抜けることが出来る。

「本当に、凄いな」

 感心する間もなくルケに袖を引かれ、藤麻は森へと急いだ。


 ルケに連れられ森まで行くと、少しして雨足が激しくなる。森の中、木々はあっても防ぎきれない勢いに困惑していると、ルケに更に奥へと促された。

 森を進むとやがて、崖が見えて来る。そう大きくはない崖には洞窟があり、雨宿りには最適そうだ。

 促されるまま駆け込むと、奥は真っ暗だった。外も雨雲に加え夕闇が空を覆い始め、どんどん足下も見えなくなっていく。

 藤麻は鞄からあまり濡れていないタオルを出すとルケを拭き、それから自分も拭う。

 今夜は真っ暗な中での野宿になりそうだが、傍らにルケが居れば初日の夜のようになることはないだろう。もう一枚のタオルを出して肩に羽織ると、ルケが藤麻の胸元に入り込んでくる。

 雨に濡れた後でも、不思議と暖かかった。

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