プロローグ
最上藤麻が目覚めたのは、森の臭いの中だった。土の臭いと草の青臭さ。家族で草原に遊びに行った時に、芝生に寝転んだ時のような臭いだ。
手をかざして光を遮りながらゆっくり目を開けば、そこは森の中。明るくはないが木漏れ日が差し込んでいる。おそらく日の動きで差し込んだ木漏れ日が目にかかり、その眩しさで意識が上昇したのだろう。
藤麻はあたりを呆然と見渡す。木漏れ日がキラキラと差し込む美しい森は、映画に出てきそうな幻想的な風景だ。
その獣道もないような木々の間の湿った土の上で、どうやら自分は目覚めたらしい。
「な、に?」
どうして自分が森の中に居るのか、どうしても思い出せない。
辺りに人の気配はなく、一人きりのようだ。
ゆっくり身を起こし、服についた汚れを落とす。
傍らに見覚えのある学生鞄とスポーツバック。
「ああ、そうか。僕は部活の合宿の、帰りに」
連休中の合宿の最終日。中学時代の友人に久々に遊ぼうと誘われた。
合宿の後は疲れてるからと断ったが、その友人は言い出したら聞かないタイプで、結局押しきられる形で会うことになったのだ。
別に会いたくなかった訳ではない。高校に入ってからは部活も忙しいので、滅多に会えない友人達に会えるのは純粋に楽しみだった。
待ち合わせは最寄りの駅。駅なら荷物をロッカーに預ければ良い。
そう思って重い荷物を持ったまま待ち合わせの駅に向かって…。
待ち合わせ場所に、道路越し友人達を見付けて、手を上げた所で酷い目眩に襲われたのだ。
その後の記憶はない。おそらく、意識を失ったのだろう。
そして目覚めたら、何故か森の中。病院でも家でもなく、森の中。
「意味がわからない」
呟いて、大きく息を吐いた。慌てても仕方ない。鞄を引き寄せスマホを取り出す。
「だよね」
想像通り、圏外だ。
もう一度息を吐いてから立ち上がる。
鞄にスマホをしまい、荷物を持った。
ひとまずは、大きな道に出て、車が来たら電波の有るところまで送ってもらおう。
そう考えて歩き出した藤麻は、己が置かれた状況を欠片も理解していなかった。




