明晰夢
私には他の人にはなかなかできないような特技がある。それは「明晰夢」である。
明晰夢とは、夢の中でそれが夢と気づき、夢を意図的にコントロールできるようになる夢のことである。
普段私たちが見ている夢では、なんとなく風景がぼやけていたり色んな部分が曖昧だったりするが、明晰夢になった途端に夢が現実と全く同じレベルのリアルさになり、視覚、感覚、聴覚、味覚、臭覚を体感できるようになる。
これは、夢の中で「これは夢だ」と気づいたときに人間の脳は覚醒モードに切り替わるからだ。それまでは脳の自己意識が停止しているので夢がぼやけているが、明晰夢では脳がしっかり目覚めてくれている。
そのため、私はこれを使って夢の中で勉強したり食べたりなんてこともできる。
そう、例えばSFの世界で冒険することもできる。
夢の中では私は自由に、そして思い通りにやりたい放題できるのだ。
ただし、これは夢であって現実ではない。
ただ目が覚めてもその記憶がはっきりとわかるだけであって現実には何も支障はない。
と、あの時まではそう思っていた。
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「えっ、」
私は驚いた。それは今日初めて会った転校生が私のことを知っていたからなんてことでは無く、「夢の中」というキーワードを彼女が呟いたからだ。
現実世界で彼女が一方的に私のことを知っている事は可能性は低いが無いとは言い切れない。しかし、私はいつもの三人とは夢の中ででてくるが、私は決して夢の中でさえも彼女と会ったことなんて一度も…な……い?
「あれ?私はいつもの三人以外にも誰かとはなしたような…」
そう思った瞬間、ズキッと頭痛が起こった。
それと同時にチャイムが鳴り、HRが終わった。
後ろの彼女にさっき彼女が呟いた事について質問しようと決心した時にはもう遅かった。
私以外のクラスメイトからの質問責めにあっていた。まあ、無理もない。転校生にとってこれは当然のとこでありまた、彼女の容姿だけを見ても話かけようとする者は多いだろう。それほどまでに彼女は美人であったのだから。
そのあとも休み時間になれば彼女の周りには人が集まり、昼休みにもなれば他のクラスの人までもがやって来た。
私はこんな周りの行動が苦手だ。みんなで一人を虐めているかのような質問責め。廊下からまるで動物園の動物を見るかのような目線。そんなことを考えたくなかった私は転校生に聞こうと思っていたことを聞かずにとなりのクラスのえりかの元へ駆けていた。
「部活、一緒に行こ〜」
えりかと私は文学部で放課後の時間は基本読書をしていた。シンはサッカー部、カリヤくんは生徒会へとそれぞれ放課後の時間を費やしていた。
文学部の部室は図書室の準備室。文学部の部員は私とえりかの二人だけ。何故、二人だけかと言うと、私たちは図書室の司書さんと相談して文学部を継続する代わりに図書室でお手伝いをしていた。
部室へ向かう途中、
「そういえば、ゆいのクラスに転校生が来たんだってね。それもかなり美人らしいじゃん。」
「私の後ろの席なんだよ〜」
「え、マジで。」
「まじだよ〜」
「名前なんていうの?」
「えっと、確か土屋めいさんだったかな。」
えりかがその名前を聞いた時、一瞬だけ顔が強張ったように見えた。けれど、
「へぇー、でその土屋さんとはなんか話せた?」
その質問をされ、私は朝のHRの時に思った事を思い出した。
「話はできなかったけど、土屋さんと私ってどっかで会った事があるみたいなんだよ〜、私は全然覚えてないんだけどね〜」
私は何故、えりかに「夢の中」で会ったことがあると言わなかったのかは今でも思い出せない。
「そうなんだ…」素っ気なく答えたえりかに何か言おうとした時にはもう部室が目の前にあった。