表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
満天通信  作者: カイリ
1/12

イントロダクション

 こんにちは。今、こちらでは宛先のないメールを宇宙空間に流すのが流行しているの。流行りにのって、わたしもメールを流してみるわね。


 わたしは移民船団で生まれ育った、移民3世。おじいちゃんやおばあちゃんが移民船に乗り込んで、以来ずっと宇宙を旅しているの。

 とてもたくさんの人が移民船に乗りこんでいるけれど、百年ほど前の戦争のせいで、わたしたちが移住できるような星はまず見つからないだろうといわれているんですって。そんなこと言わず、はやく見つけてほしいんだけれど。


 わたしのことを少し教えるわね。友だちはいるけれど、ひとりで過ごすことが多いの。だってわたしなんかと一緒にいても楽しくないんじゃないかなって。わたしって顔も地味だし、おもしろいことを話せるわけでもないし。みんな、そんなことないって言ってくれるけれど。


 地球を出てから百年。星での暮らしがどんなものかわからないけれど、移民船の暮らしはつまらないわ。限られた緑地エリア以外は灰色の高層ビルしかない。地球でつくられた古い映画をみたけれど、あんなに広々とした世界があるのなら、いつか星で暮らしたいと思うわ。宇宙空間のほうが何もなくて、何も見えない。不思議。本当に、何もない空間。


 だと、思ってたの。少し前まで。


 何も変化のない暮らしをしていたわたしに、恋人ができたの。恋人なんかできないと思っていたのに。


 彼と出会ったのは、開放エリアの軌道エレベーターゲート。エレベーターの点検をするのが仕事の人で、出会ったのは本当に偶然だったの。

 ひとりで過ごすことが多いわたしを、彼はいろんなところへ連れ出してくれた。天体観測所とか、コンサートホールとか。わたしのどこを気に入ってくれたのだろう。わたしに会うと、いつも嬉しそうにしてくれるのが、わたしも嬉しい。


 彼と出会ってから、わたしの暮らしは変わった。つまらない仕事をして、家に帰るだけの毎日だったのが。


 ただ、彼といつも会えるわけじゃないの。会えるのはひと月に一度だけ。それも、仕事が忙しい彼は毎月会ってくれるわけじゃない。彼はしょうがないって言うけれど、わたしは毎月会いたい。


 だって、わたしたちは、流れている時間が違うから。


 わたしが暮らしているのは、移民船Aクラス。彼が暮らしているのはBクラス。周回の速さが違うせいで、時間の流れが同じじゃないんだって。AクラスとBクラスでは、倍ぐらい時間の流れが違うの。だから、会うたびに彼の姿は変わっていく。


 Aクラスは移住できる星を探すために働く船で、Bクラスは移民船団を安全に飛ばすために働く船。でも、どう考えてもAクラスのほうがいい暮らしをしてる。

 Aクラスは少子高齢社会といわれていて、人口が少しずつ減っていってるんだけど、Bクラスは死亡率も高いけど出生率も高いんだって。それは、BクラスはAクラスのいい暮らしを支える労働力を育てる船だから。

 つまり、働く人をどんどん増やすために、船に流れる時間を早くしてるわけ。今までそんなことを気にしたことはなかったけど、彼と出会ってからはすごく苦しい思いをしている。どうして、わたしは、Aクラスに生まれたんだろうって。


 移民船には移民法という決まりがあって、違うクラスに移り住むことはできないの。もしもこの決まりを破ったら、カプセルに入れられて宇宙空間に放り出されてしまう。たまに、ニュースでやってるわ。

 わたしたちのおじいちゃんやおばあちゃんが移民船に乗りこむ時に、AかBか選んだんですって。Aクラスに乗ろうとしたらものすごいお金が必要だったって。どうして……、船をふたつに分けたのかしら。わからない。


 でも、ふたつの船のバランスをとるとかで、時々AクラスとBクラスの船をつなぐ開放エリアが開かれるの。それが、ひと月に一度。わたしたちが会えるのはこの日。

 だから、わたしは毎月会いたい。なのに、彼は忙しくて思うように会ってくれない。久しぶりに会うと、本当に顔が違っていて、怖くなるときがある。


 会うたびに、彼はわたしをほめてくれる。いつも若々しくてかわいいって、ちっとも、うれしくない。


 少しずつ増えていく彼のしわ。ちょっとずつ出てくる彼のおなか。その、どれもが愛おしい。でも。


 両親はわたしが彼と付き合うのに反対しているの。彼は移民4世。Bクラスで生まれた彼に責任はないけれど、同じ時間を生きる人と一緒に過ごしてほしいって。その気持ちは、わかってる。


 彼はわたしと会える日をすごく待ちどおしく思ってくれてるし、会えた日はとても嬉しそう。別れるときは、「またね」って言ってくれる。でも、わたしが一緒にいたいと思う気持ちと、彼の気持ち、同じなのかな。


 そんなことを考えているから、最近ちょっと疲れてきたんだ。いつまで、こんな日が続くのかなって。


 地球から旅立って百年。移住できる星が見つかれば、みんなが自由に暮らせる。移民政府はそう言ってるけど。


 みんな知ってる。


 きっと、今の暮らしのままでいいって思ってるって。少なくとも、Aクラスで暮らしている人はね。だから、Aクラスの人たちは、天体観測をしていい星を見つけても報告なんかしてないんだ、きっと。


 もう、こんな、仮面みたいな暮らしなんかいやだ!


 ……でもね。


 わたし、すごいこと聞いちゃったんだ!


 移民法に我慢ならない人たちが、ひそかに革命をおこす計画を立ててるんだって……!

 わたし、自分から革命をおこす勇気は出せないけど、革命に参加する勇気なら出せるかもしれない。そして、彼と一緒に暮らせる世界をつくるんだ。


 革命に参加したら、いつもわたしを子ども扱いする彼はびっくりするだろうな。でもわたし、本気だから。だって、わたしたちに時間はあまり残されていないもの。


 ああ、もうこんな時間。

 明日はひと月に一度、開放エリアが開かれる日。久しぶりに彼と会えるの。明日は決めてることがあるんだ。一緒に写真を撮るの。わたしも彼も写真を撮るのは苦手なんだけど、明日は絶対に一緒に撮るの。だって明日は、ふたりが出会って5年目の記念日だから。

 今思えば、初めて会った時に写真を撮っておけばよかったわ。でも、いいの。心の中にあの日の彼はきちんと刻まれているから。


 最後に。


 このメールを受け取って、読んでくれた誰かへ。


 もしも本当に革命がおきて、戦争が始まったら、宇宙にはたくさん宇宙ゴミが飛ばされてしまう。もしもあなたの星に落ちてしまったら、どうか許してほしい。


 このメールを読んでくれたあなたにも、いつか会えたらいいな。


 じゃあね。


送信


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ