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序章7 ギルギロス攻略戦①

 俺は背の高い木の上で息をひそめていた。しばらくすればジャンヌからスマホに連絡が来て、森からギルギロスが姿を現す。後はそれを狙い撃つだけでいい。

 ジャンヌにスマホの機能を教えるのは骨であったが、何とか電話できるくらいになれたのは良かった。というか、一時間ほどみっちりと付きっきりで教えてやっと電話番号を登録したショートカットから通話することを覚えるって、覚え悪すぎではないだろうか?

 正直な話、ギルギロスよりも苦戦したのは間違いない。

 と、そんな冗談を考えている暇はない。ジャンヌとルシェルにギルギロス攻略の作戦を伝えてから一時間程度が経とうとしていた。そろそろ来るはずである。


 ――その時、俺は足元の枝に地響きのような感覚があり、さらにスマホが震えるのを感じた。


「……来たか」


 作戦開始の狼煙が静かに上がった。



 ○○○○



 作戦開始の一時間前の事である。


「……まさか森の中とはな」


 ギルギロス初戦からしばらくの時間が立ち、俺たちは目的のギルギロスの巣周辺まで近づいていた。しかし、そこは俺の事前に想像していた光景とは違うものが広がっていた。

 アトキアの草原はどこまでも広がっているかと思いきや、途中でかなり背の高い木が生い茂る密林が広がり始めたのだ。しかもルシェルの話だとこの森の中にギルギロスの巣があるという話だった。


「……条件が悪いな」


「条件ですか?」


 ルシェルは首を傾げる。うさ耳も悩ましげに横に揺れた。

 俺は頭をポリポリと掻く。かなり参ったことになった。


「俺の能力は分かるな? 炎を使う能力だが、この森の中で使うとどうなるかは考えるまでもない。広範囲に火が広がれば逃げ場を失うし、湧水採取が出来なくなる可能性がある」


「そ、それはたしかに、条件は悪いですね」


「ギルギロスをただぶっ倒すだけなら簡単なんだけどな……。これは作戦を練る必要があるな」


「必要ですね……」


 俺達は真剣な表情で、それはそれは真剣な表情で森を見つめた。


 ――ただし後ろの駄々っ子はその限りではない。


「タクロウ! その背中のカバンに入っているものを、出してください! お腹がすいたのです!」


「……ジャァンヌ、空腹くらい我慢せよ。真剣な話してるんだから」


「いやです! それにそのカバンには今日のおやつに食べようと思っていたチーズトマトパンという私がとてもとても楽しみにしていたものが入っているんです! 腹が減っては戦はできぬ、いいじゃないですかご飯食べながら作戦会議しても!」


「時間がないって昨日言ってたのはお前だろうに!」


 俺とルシェルはお腹を空かせた聖女様に結局根負けし、おやつを食べながら作戦会議をすることになった。



 ○○○○



 ――会議の結果、ジャンヌは作戦のための囮となることになったのだった。


 いや、これだけでは作戦の全容は伝わらないだろう。今回ギルギロスを倒すために考えた作戦と言うのは分断、撃破を数回に分けて行うというものである。ジャンヌがギルギロスを一体ずつ森から引き釣り出し、森入り口の木の上に陣取る俺が炎の弓で狙撃して各個撃破するというシンプルな作戦だ。

 しかし、当然ギルギロスから逃げる役は体力があり耐久に優れる盾役が必要となる。つまりジャンヌが適正である。狙撃役は遠距離から狙えかつ一撃で敵を滅ぼせるのが前提となる。つまり俺だ。


 斯くして作戦の役回りは完璧に決まり、決行へと移行したのだった。

 ちなみにルシェルは隙を見て湧水を汲み取る役である。ギルギロスを全滅させられなくとも湧水を手に入れた段階で撤退することにしている。


「……どんどん近づいて来てるな。さて、準備するか」


 俺は立ち上がると弓をイメージし、炎を弓の形に変化させた。そして炎の矢を用意すると弦を引く体勢に入り、標的が射程範囲内に入るのをじっと待つ。

 するとすぐに森から悲鳴を上げるジャンヌとギルギロスが飛び出てきた。すぐには撃たない。俺の足場は不安定なので近いと爆風で吹き飛ばされて危ないのだ。


 だからジャンヌガンバ。


 そしてジャンヌの頑張りもありギルギロスと俺との間に距離が生まれる。その隙を見逃さず俺は矢を放った。

 炎の矢はギルギロスに着弾命中、ジャンヌを巻き込まないために威力は押さえているがギルギロスを転倒させるには十分な威力を放った。

 ギルギロスは突然の横やりに転倒し地面に叩きつけられた。


 俺は止めを刺すべく第二射の準備を始めた。

 ……と、そこで俺はギルギロスから離れずにその様子を観察している聖女の姿が目に入り、ため息交じりにスマホを開いた。


『ふぁいっ! ジャジャジャジャジャジャジャジャンヌデス!」


「ジャンヌ様、焼き殺されたくなければ離れなさい」


 初めての通話でジャンヌは酷くテンパっていたが、俺の言葉の意味を理解すると一目散にギルギロスから離れていった。

 俺はすぐさま第二射を発射、通算二体目のギルギロスを木っ端微塵に粉砕した。


 俺が一息つくために枝の上に腰を下ろすと今度はジャンヌの方から電話がかかってきた。俺はすぐに通話開始ボタンを押す。


『ご、ご機嫌麗しゅう……』


「普通で大丈夫だよ。で、次は?」


『すぐ連れてきます。あと攻撃はさっきみたいにお願いします。いきなり全力だと私も巻き込まれるんで』


「なら今度は早めに敵から離れてくれよ」


『了解です!』


「切るぞ」


 俺は通話を切って再び連絡が来るのを待ち始めた。


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