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序章6 紅蓮の魔弓

ここまで一気に書きました。

「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」


「助かって、良かったですね」


 ギルドに戻った俺たちは半泣きで頭を下げるウサギ耳の少女から事の経緯を聞いていた。あの草原はハンター以外は危険なのでまず立ち寄らない場所であるらしい。実際、奥地に行くとあのティラノ型モンスター、ギルギロスと呼ばれる化け物がゴロゴロといるそうだ。


「どうしてあんな危険な場所に行ったんですか?」


「そ、それは……、あの草原の奥地にあるギルギロスの巣には万病を癒す湧水があると聞きまして……」


「誰か病気の家族でもいるのですか?」


「母が、病気なんです……。ギルドへの依頼も考えたのですが、ギルギロスはギルドランクゴールドのハンターでも苦戦する強敵です。とてもではないですが、報酬を出せる資金はありません」


 中々気の毒な事情であった。

 しかし、そんな事情があると言え凶悪モンスターの巣に一人で踏み込もうとしたのはもはや勇敢の域を出ている。無謀な挑戦だ。


「……お母様をお救いになりたいのですね?」


「はい! 父はもういなくて、たった一人の家族なんです!」


 ジャンヌが優しく問いかけるとウサギ耳の少女は涙ながらに訴えた。ジャンヌは少女の手を握りながら優しく話を聞いていた。


 ――さて、この展開になると恐らく俺たちがあのギルギロスとかいうモンスターを倒すことになるのだろうが、果たして現実的に出来るだろうか?

 俺は力を使いこなせていない。ジャンヌは突撃しかしない。こんなパーティーでは即敗北は目に見えている。せめて俺が弓に能力を乗せる以外の攻撃方法を編み出すか何かしないと攻略は難しいだろう。


「えっと、そう言えばお前名前は? 俺はタクロウ」


「私はジャンヌと言います」


「あ、ご丁寧にありがとうございます。私はルシェルと言います」


「ではルシェルさん。俺はギルギロスの巣にある湧水を持ち帰るのに協力してもいい。……ジャンヌもいいよな?」


「もちろんです! 困っている人は見捨てることはできませんからね」


 俺が同意を求めるとジャンヌはどや顔で胸を張った。いかにも私聖女っぽいでしょ! と言いたげな表情であり、少しムカついた。

 ルシェルは俺の言葉を聞くと机に頭を叩きつけてお辞儀をした。


「あ、ありがとうございます! この御恩はどう返したらいいのやら……」


「だが条件がある」


「条件、ですか? なんですか? 出せるものがあるなら何でも出します! 身を捧げろと言うのなら――」


「――時間をくれ」


 自分の服に手をかけ始めたルシェルやそれを止めに入ったジャンヌは俺の言葉を聞いてキョトンとした。そして少しの時間が立ち、ジャンヌが手を上げた。


「はい! 時間がないのですぐにでも突撃するべきと思います!」


「黙れ脳筋。矢がないんだ。だから俺が能力のコツをつかむ時間が欲しい。せめて、道具に頼らず使えるようにならないと話にならない」


「矢なら買えばいいかと!」


「ジャンヌ、矢は一本いくらすると思っているんだい? お前が全額負担するというのなら俺はいいが、たぶんそれでも5、6本しか買えないだろうな」


 俺の言葉を聞いてジャンヌの真っすぐ上がった手のひらはフニャフニャと萎れていく。

 ルシェルも不安げな表情で俺を見つめていた。しかし、そんな目で見つめられても困る。どちらにしても今すぐ行けば全滅は必至、準備は必要なのだ。


「兎に角、今日のところは解散。明日は依頼を受けずに訓練するぞ!」


「「……はーい」」


 女性2人はやや不満げにうなづいた。



 ○○○○



 次の日の午前、俺とジャンヌは草原の比較的安全な場所に集まっていた。

 出来れば今日中に炎の能力をものにしてしまいたいと思い、派手に能力を使えるこの場所に来たのだ。


「さて、早速始めるか。さっさと終わらせてギルギロスの巣に突撃したいところだしな」


「それはそうだけど、タクロウは何をするつもりなの? 訓練って言ってたけど……」


「訓練と言うか、今の自分の能力でどこまでできるか確かめたいってのが本音だな。まだ本気出したことないし」


 俺は手のひらを広げて思いっきり力んでみた。特に意味などはないが、無駄に力を入れれば溶岩とか発生するかもしれないとひそかに思ったのである。


 ――しかし何も起こらない。


「チッ! 何も起こらないか……。もっとこう、ぼわーっと炎が広がることを期待していたんだけどな……」


 俺はそう言うとジャンヌに手を広げて自分の実際のイメージを見せてみた。


 ――すると不思議なことに俺のイメージ通りに炎がアーチのような形をもって発火した。


「……こ、こんな感じ」


「出るじゃないですか」


「さっき力んだときは出なかったんだけどな……」


 俺はそう思い今度は手のひらに火の玉を浮かべる想像をした。

 すると今度は炎が手のひらに発火した。

 ……もしかして、俺のイメージ通りに炎が生まれているのか?


 俺はその予測が正しいかを証明するために今度は炎の龍を思い浮かべた。口から炎を吐くとそれが龍の形になるというものである。

 そして実際に口から炎を出すように息を吐くと……、本当に炎は龍の形となった。しかもそれの操作も想像すると出来るようであった。


「……訓練終了」



 ○○○○



 午後。


 もっと早く試しておけば無駄に矢を消費することもなかったなと俺は思った。矢はまじめに高いのだ。俺はてっきり弓矢を使わなければ形のある炎を生み出せないとばかり思っていたが……、いい方向で予測が外れたようだ。


「……それでタクロウさん、もういいのですか?」


 ルシェルは不安げな表情で俺に問いかけてきた。俺はその質問に対して大きく頷く。


「では、行くとするか」


 俺はほぼ丸腰に近い装備であった。それもルシェルの不安を煽っていたが、仕方がない。俺、剣を使うどころか握ったこともないし。ステータス的に振り回すこと出来ないし。あと装備そろえるのにも金がかかるし。

 とそんな現実的な理由で俺は憧れていたカッコいい剣に鎧と言った装備を泣く泣く諦めたのであった。


「……丸腰で大丈夫でしょうか?」


「そうよタクロウ! 敵によっては鎧だって貫通するかもしれないし」


 女性陣はよっぽど身軽な装備の俺が心配なのだろう。正直口うるさいレベルである。


「俺には必要ないさ(ステータス的に使いこなせないし)」


 とほほ……、といわんばかりの残念オーラを出しながら俺は手を横に振った。

 しかし、俺の言葉を女性陣は別の意味で捉えたようで目を輝かせて詰め寄ってきた。


「す、すごい自信ですね! 自らの力の前にはちゃっちな装備は不要という事ですか!」


「タクロウ……。あなたも主の導きを感じているのね……」


「え? どういうことすか?」


 俺の自虐を拡大解釈されているらしいと感じて俺は口を引きつらせる。

 別にそんなカッコいい意味で言ったわけじゃないんですけど……、と訂正したい気分であった。

 しかし相手が勝手に俺の事を尊敬してくれるのなら別にいいかと思ってスルーすることにした。


「……それに、俺としては身軽な格好の方がいいのさ(逃げやすいから)」


「なるほど! タクロウもついに私の突撃精神に賛同してくれたのですね!」


「あえて男のロマンを捨ててでも仲間に尽くすという事ですね……。勉強になります」


 ち、が、う。

 別にそんなジャンヌのような自殺願望があるわけではない。出来れば俺も鎧とか着てみたいし。カッコいい騎士の格好してみたいし。


 と言うかなんでこいつらこんなに俺の事持ち上げ始めたの? 機嫌取りなの?

 ジャンヌはいつになくテンション高いしルシェルは俺から何かを学ぼうと無駄な努力をしているし、バカなの? 元ニートのコミュ障から学べるものなんてあるわけねえだろ!


 しかし、そんな俺の内心を知ってか知らずか女性陣は俺の言動一つ一つに目を輝かせる。


「それで、ギルギロスをどうやって倒すんでしょうか? 私たちウサギ族ではあの化け物を倒すことはできないと伝えられているのですが……」


 ルシェルは自分の長い耳を触った。最初はコスプレに見えたその耳は随分と感情を表しているのだと今になって気が付いた。不安な時は耳が垂れさがり、驚くと伸びて喜ぶとピコピコ揺れるらしい。


「それは簡単さ。あいつも生物なら、火には弱い。だから単純に焼き殺す」


「おいしそう……」


「ジャンヌ……、まさか食う気か?」


「うわさに聞いた話だと、ギルギロスは旨いらしいわ」


「どこで聞いたんだよ……」


 最近、というかジャンヌと会って数日しかたっていないが分かったことがある。こいつかなり食い意地が張っている、という事である。食べる姿は可愛らしくて好きなのだが、ギルギロスのようなゲテモノにガブリついているところを見たいとは思わない。


 と、そんな世話話をしていると遠くの方で地響きが聞こえ始めた。俺はその方を凝視した。

 見えたのは、予想通りギルギロスであった。しかも相手はこちらに気が付いているようで血相を変えてこちらに走ってきている。


「ひいいいいいいいいいいいいいいいい!? もう見つかったんですか!? あばばばばばばばばばばばば……、タクロウさんどうしましょう!?」


 うろたえ始めたルシェルは俺の方を見て、目を見開いた。

 なぜならば、俺がすでに臨戦態勢を作っており、しかもそれがとんでもなくバカでかいものだったからだ。

 前回の教訓で火力が足りないと倒しきれないことが分かり、午前の訓練(?)から炎の大きさによって火力が炎の体積に依存していることを体感で理解できた。……もっとも、これはあくまで体感であり確かな情報ではない。


 そして俺はこの2つの教訓から今回の戦術を考えたのである。

 俺はまるで弓を構えるように手を空中に添えていた。その手には弓ではなく炎の塊が握られていた。


 ――そして空いた方の手には直径5メートルには余裕で達するであろう長さの炎で作られた矢を握っていた。


 俺は炎の矢を炎の弓につがえる。そして、いつもの要領で狙いをつけて矢を放った。

 放たれた矢は音速を超えていた。

 なぜ分かったかと言うと、敵に直撃し爆発した光景が見えた後に爆発音が届いたのだ。流石に俺もただサイズをデカくするだけで速さも威力も上がるとは思っておらず、驚きのあまりに棒立ちしていた。

 流石に単純すぎないか? とも思ったが、どうも俺の能力は俺に似て単純な性格をしているようだ。


「……」


 炎が終息するとそこに残っていたのは焼け野原と黒い塊だけであった。火力はもう少し抑えてもいいようだ。

 するとジャンヌが俺の手を握りしめてきた。


「凄いですね! これならルシェルのお母様を救うことが出来ます! たったあれだけの時間でこの結果を予想していたのですね! 流石はタクロウです」


「敵を倒しても油断せず、冷静に戦場を見つめる姿、カッコいいです!」


「え? あの、俺そこまで考えてない」


 どうやらこの二人は俺を褒め称えたいらしい。

 ……もしかして俺、褒めたら伸びる子みたいなイメージ持たれてるの? こ○もチャレンジなの? 


 しかし、恐らくこの二人はそこまで考えていない。恐らく現状で戦えるのが俺一人で、しかも一瞬で強敵を圧倒したと言う事実から過大評価されているのだろうと推測出来た。

 正直鬱陶しい。


 この異世界に来るまではタクロウ君SUGEEEEEEEEEEEEEEEEEEEのような展開があればとても気持ちいいだろうなとか考えていたが、実際にその状況にあると正直微妙である。やっぱり人間ほどほどが一番だな。


 そんなことを思いつつ、俺は勝利に浮かれ先を進み始めた女性陣の後について行った。


投稿ペースは一か月間は毎日投稿を目指します。

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