表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/24

序章4 紅蓮の悪魔とオルレアンの英雄

 次の日。

 俺達はアトキアから北に5キロほどの草原にやってきていた。何でもこの辺りで戦いやすいモンスターが出没したとかいう話で討伐依頼があったそうなのだ。手ごろな討伐クエストがあって助かった。

 しかし、相手は弱い部類ではあるが新米にはかなり手ごわいらしく、無理ならすぐに帰るようにとマックスには言われている。一応モンスターの特性は学んできたので十分戦えるとは思う。

 ……もっとも、いざそのモンスターが目の前に現れると弱いと言われてもビビる。


「で、でけえ……」


「大きいですね」


 体長は3メートルはあるほどもあるトカゲが地面を掘っていた。

 しかし、驚くべきは体長ではない。俺が一番驚いたのは発達した両腕であった。あのトカゲの身長と同じほどの長さの腕を器用に動かして地面を掘っていたのだ。


「随分とリーチが長いな……。ジャンヌあいつに接近戦は不利だ。支給された弓を使って応戦するぞ」


 俺はあの腕の長さ相手に接近戦は不利と判断し、ギルドで支給された毒矢を構える。トカゲではあるが皮は柔らかいらしく、毒耐性もないので一撃で倒せると説明されているため俺は慎重に、そして気が付かれないように弓を構えた。


 ――が。


「突撃いいいいいいいいいいい!」


「え? ちょっ!? ジャンヌさん話聞いていた!?」


 ジャンヌは俺の説明を無視して槍を構えて突撃していった。俺もまさかいきなり突撃し始めるとは思わず弓を引くのをやめて慌ててジャンヌを追いかけた。


「はああああああああ! 攻撃、とにかく攻撃! 敵に隙を与えるな!」


「お前が隙だらけなんだ――、ジャンヌううううううううううううううううううう!?」


 案の定と言うべきか、ジャンヌは突撃してくることに気が付いたトカゲにその長い腕で吹き飛ばされた。そして地面を2回くらいバウンドして顔面から地面にダイブする。


「あわわわわわわ……。流石にこれは死んだか?」


「だ、大丈夫です! 私は無事です!」


「あ、生きてた。よかった――じゃねえええええええええええ! 話聞いてた!? あいつは、腕が長いから弓で戦うのがいいの! マックスにもそう言われたよね! って、お前弓はどうした!?」


「持ってきてません」


 支給されたはずの弓、それをジャンヌは持ち合わせていなかった。いや、ここまで気が付かなかった俺にも問題があるのだが、何で持ってきていないのか理解に苦しむ。


「素人が弓を使っても当てられるわけありません。それよりも突撃あるのみです! この槍と、無限の精神力と飽くなき攻撃精神をもってすれば必ず敵を粉砕できま――」


「無理に決まってんだろ!? 敵を粉砕する前にこっちがバラバラに解体されるわ! それなら当たんない弓を撃ち続ける方がまだ勝ち目があるわ!」


「大丈夫です! 次は成功させます!」


 ジャンヌは自信満々にサムズアップをすると再び槍を構えて突撃していった。その表情に迷いなどはなく、自分の力を信じているようであった。


「え? あの……ってまた行くの!?」


 こちらの話は聞いていないようだ。誠に遺憾である。

 そして、案の定また同じようにトカゲに叩かれて宙を舞う。


「ジャアアアアアアアアアアアアアアンヌッ!? 大丈夫か!?」


「――まだ、やれます」


「タフい! この女なかなかにタフガイだぜ! ガイじゃなくて女性だけど!」


 ジャンヌは予想以上にタフであった。常人ならもうピクリとも動かないほどのダメージを負っていてもおかしくないというのに、この女はすぐに起き上がった。

 しかし、流石によろよろとしており体力の限界の様だった。二回もスーパーポールのように飛び跳ねれば当然だろう。


「ああもう、分かった! 俺も突撃するから勝手に行動しようとするな!」


 フラフラになろうともジャンヌは攻撃の手を緩めようとしない。そのため、俺も流石にヤバいと思い、ジャンヌの手を引いて走り始めた。勿論、敵から逃げる形でである。


「ま、待って! まだやれます!」


「だめ! お前フラフラだろ。いいから逃げるぞ!」


 しかし、トカゲは俺達を逃がすまいと体勢を低く構え始めた。あれが走り始めれば追いつかれるのは目に見えている。

 ……応戦するしかない。


「……ジャンヌ座ってろ。俺が応戦する」


 果たしてどこまでやれるか分からない。しかし、逃げられない以上迎え撃つしかない。俺はそう覚悟し弓を構えた。女の子を守っているという事実も俺の気持ちを奮い立たせていた。

 すると、まるでそんな俺の意志が炎になったかのように吹き上がっているような錯覚を覚えた。と言うか幻覚が見えた。自分の体から炎が噴き出る幻覚を。


「……な、なんじゃこりゃあああああああああああああああああああ!?」



 俺の驚嘆の声に連動して全身から炎が吹き上がる。幻覚ではなく、どうやらリアルのようだ。ジャンヌはそれを見て唖然とした。そして、手を合わせて祈りのポーズを取った。


「タクロウは熾天使ミカエル様の生まれ変わりだったのですね!?」


「え? なにそれ」


「流石はタクロウ……。やはりあなたは私の救世主……」


「彼女の中で勝手に話が進行している……。ついていけない。あと、救世主はお前さんだろうに」


 ジャンヌは目を輝かせて俺に向かって手を合わせる。

 ……と言うか、驚かないの? 俺の体燃えてるんだよ? もっと別に思うところがあると俺は思った。しかし、そんなことはジャンヌにとっては些末な問題のようであった。


「はっ!? タクロウ来ます! 怪物が!」


 見るとトカゲはこちらに向かって全速力で走ってきていた。どうやら、コントをしている猶予はないようだ。


「ジャンヌ。離れるなよ」


「はい! 身を焼かれても離れません!」


「おいやめろ。お前ジャンヌみたいになるぞ!」


「? 私はジャンヌですが」


 頭に?が浮かんでいた。

 ……まさか、このジャンヌダルクは火刑に会う前のジャンヌなのだろうか? そうなると炎に対してトラウマを持っていないないという事になる。もしもこの炎が俺の能力だとしたら、好都合だろう。能力を使うたびに騒がれてはかなわない。


「何でもない。よしやるぞ!」


 俺は弓を構えた。炎を打ち出せるかは分からない。

 しかし、出来る気がした。なぜならば弓は俺の体から出た炎によって巨大な弓の形となっていたからだ。

 俺は狙いを定める。そして、矢を放った。矢は炎の鳥のように一直線にトカゲめがけて飛んでいく。



 ――そして、それは直撃すると同時に巨大な炎の柱となってけたたましい爆音を上げた。



「ファアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」



 俺はあまりのバカみたいな破壊力に思わず腰が抜けてた。ジャンヌも胸の前で手を組んだまま固まっていた。

 やがて炎が弱まり、消えていくと空から黒こげのトカゲと先ほど放った矢が落ちてきた。あれだけの炎だったのに矢の方は無傷であったが、そんなことは気にならない。俺は黒こげのトカゲをまじまじと見つめ、苦笑いを浮かべた。


「……た、タクロウ。さっきのは?」


「いや、知らない」


 俺はただ頭を横に振った。自分が一番困惑している。






「凄いじゃないか! あの炎の威力、トリアの勘も役に立つもんだな!」


 困惑中のままギルドに戻った俺達を出迎えたのはご機嫌なマックスであった。マックスは俺たちの姿を見ると上機嫌に俺の肩を叩いた。


「え、その、はい。……と言うか観察していたんですか?」


「ああ。お前の力量を測りたくてな。しかし、予想以上だ!」


「あ、ありがとうございます」


 なんだかよく分からないが、マックスはかなり上機嫌。そう言えば人手不足とか言っていたから俺が戦える事で何か都合がよくなったのだろう。

 と、そんなことを適当に考えているとマックスはジャンヌの方も叩いた。


「君もすごかったぞ! あの耐久力、ハンター向きの能力だ。ぜひともギルドメンバーになてほしい!」


「タクロウと一緒に戦えるのなら、それでいいです」


「よし、決まりだな」


 そう言うと、マックスは隣に控えていた男性から2つの布袋を受け取り、俺とジャンヌに手渡した。


「……うむ! 優秀な新人が増えて私は嬉しいぞ! 明日からはもっといい任務を用意しておくから、期待しておくといい!」


 マックスはそういうと2つの布袋を用意してきた。


「今日の報酬だ。ゆっくり休めよ」


「あ、はい。ありがとうございます」


 俺はおっかなびっくりにその布袋を受け取った。昨日の軽さとは違い、確かな重さがある。

 俺は息をのみ、そして恐る恐る服を開けた。


「アイエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!? い、10000ルーベ!? すげー!」


 キノコ狩りをしていた時までの不安が一気に吹き飛んだ。とんでもなくこの異世界生活は過酷だと思っていたが、案外何とかなるかもしれないと思えるほどにこの大金は驚愕であった。


「――よかったですね」


 すると、ジャンヌはそれだけ言って俺の手を握った。短い言葉だったが、心の奥にストンと落ちるほどしっくりしていて、そして嬉しい言葉だった。ああ、俺は何かを成し遂げたんだと、誰かから評価してもらえたのだと感じられた。


 ――ああ、こういうところはしっかりと聖女なんだな……。


 突撃癖があって、どこか抜けている聖女様だけど、やっぱり優しくて一言一言が胸に落ちてくるようにしっくりする。手を握られて恥ずかしくもあるのだが……。


「明日からよろしくお願いします。タクロウ」


「あ、ああ! よろしくなジャンヌ!」


 今回の事もなし崩しと言ったふうであったが、俺はジャンヌダルクとこの日パーティーを結成することになったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ