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序章3 ジャンヌダルクとの出会い

俺は、今日キノコを集めまくって仕事を終えた。


「……」


 帰りの道すがら、今日の給料を見て何とも言えない表情を俺は浮かべていた。なぜならばキノコ狩りと言うことで予想していたが、お給金が低かったからである。

 この国の通貨の単位はルーベと言うらしく、1ルーベで一円ほどの価値であるので計算しやすい。

 さて、俺は今日日が暮れるまでキノコ採りをしていくら稼いだ。そして稼げたのは800ルーベほど、800円である。


「しょ、しょっぱい……。収入が多ければ宿に泊まろうかと思ってたけど、甘かった……」


 宿に泊まるには一日最低1000ルーベはほしいところであるらしい。しかもそれでも宿の中では最低ランクの馬小屋みたいなものである。一応今はギルドが運営している共同宿泊施設と言うところに泊まっているが、あそこは男臭くてかなわない。出来るなら早くあそこからはおさらばしたいところである。

 しかし、やはり世間は甘くない。

俺の財力では馬小屋にすら手が届かない。能力を持っていても、使える機会がなければ意味がないのだ。このような理由で俺はとぼとぼと共同宿泊施設に帰る途中であった。足取りは重い。

そんな時である。俺は道脇に寝そべっているローブを身にまとった人を見つけた。いや、寝そべっているというよりも、倒れているという方が近いだろうか?

一瞬声を掛けるのを躊躇したが、良心的に見過ごすことも出来ずに俺は声を掛けることにした。



「すみません、大丈夫ですか?」


「……どうすればいいのか、分からないのです」


「は?


「敵に捕まり、監獄に幽閉されたかと思ったらいきなりどこか分からない所に飛ばされて、私はどうしたらいいか……」


「お、おう……。随分と数奇な運命をたどっているのですね」


 声から察するに女性、しかも顔は見えないがスタイルは良く声も可愛らしい。恐らくかなり容姿は上の方に行くのではないかと俺は推測した。しかし、何を言っているのかわからないのでかなり不気味である。かなり電波な人だと俺は感じた。


「……祖国のことを思うと胃が痛いわ」


彼女はそう言ってお腹をさすった。何やら大きな宿命を背負っているようであった。

と、思った瞬間、ぐう~と間抜けな音が鳴り響いた。音の主は無言である。顔の見える部分を見ると、少し赤くなっているようであった。


「…………祖国のことを思うと胃が痛いわ!」


「腹減ってるだけだろ」


「ち、違うもん! 祖国フランスの窮地を思うとお腹が痛いんです!」


「――フランスと、今お前フランスと言ったか?」



 彼女が祖国と言った国の名前は、俺にとってとても馴染みのある国の名前であった。そして同時にその国は、この世界にあるはずもない名前でもあった。


「……えっと、あなたはフランス人なのですか? イギリスとかのお隣さんの……」


「イギリスってなに?」


「イングランドっすよ」


彼女は俺の言った言葉に首を傾げた。その反応に俺はもしかしたら俺の知っているフランスではないのではないかと言う疑念が生まれた。しかし、イギリスの別の呼び方を教えると女性は血相を変えた。


「イングランド? 鬼畜イングランド!? 答えなさい! ここはどこ!? イングランド? まさかここは敵地なの!?」


「え? ちょ、落ち着いて! え? なに? なんなの!?」


 




「頭が冷えたわ。それで、話を要約するとここは私のいた世界とは違う別世界という事でいいのかしら?」


「超即理解乙。まあ、それであってるよ。だからここはフランスじゃない」


 端正な顔立ちの女性は頬に手を当てて考え始めた。俺はそのしぐさにドギマギさせられそうになり、少し顔を逸らした。

 女性はしばらく考え込んだ後、何かに納得するようにうなづいた。


「それは理解したわ。なるほどね。私の前に天使様が現れて別世界に行くとかなんとか言っていたのはその事だったのね……」


「天使っていうのは、フレイって名前の?」


「そう、その人」


 この女性の中でフレイは天使という事になっているらしい。あと、恐らくこの人は俺が生きている年代よりもずっと前の人だ。

 なぜならばイングランドとの戦争を気にしているからだ。イギリスとフランスの中はあまりよろしくないが、少なくともナポレオン戦争以後は両国の戦争はない。つまり、それ以前の人という事になる。俺みたいな馬鹿でもそれくらいは分かる。

しかし、それはどうでもいいとしても驚いた。何が驚いたって俺以外にも転生者がいるという事に驚いた。


「あ、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は土井拓郎、タクロウって呼んでくれ」


ここであったのも何かの縁と思い、俺は軽く自己紹介をした。これからもしかしたら転生者同士で仲良くすることになるかもしれないので、最初の心証は良くしておきたかった。


「あ、はい。よろしくお願いしますタクロウ。私はジャンヌと言います」


「へえ、ジャンヌさんていうんだ……。なんかオルレアンで軍隊の指揮を執っていそうな名前だね」


「あ、いえ、そのジャンヌで間違いないですよタクロウ。私はジャンヌダルク、確かにオルレアンで戦っていました」



「――ファ? ファ!? ええええええええええええええええええええええええええええええッ!?」



 俺は驚きのあまりに後ろにズッコケそうになった。いや、驚くだろう普通。

だってあのジャンヌダルクだよ!? 俺みたいな凡人では一生で会えないであろう大英雄である。驚くなと言う方が無理な話だ。


「それにしても、タクロウはフランスに詳しいようですね。私が捕まった後のフランスはどうなったか知っていますか?」


「き、君が捕まった後はイングランド追い出して平和になったけど……、まじでジャンヌ?」


「ジャンヌです。間違いないです。……そうですか。フランスは平和に……、よかったです」


 心の底から嬉しそうにジャンヌは胸をなでおろした。俺の知っている程度の知識でも彼女を安心させられたというのは、とても喜ばしい事だ。

 ……しかし聞き及んでいたジャンヌダルクとは違い、髪はセミショート位までの長さがありかなり体つきも女性っぽかった。どこか色っぽさを持ちつつも幼さも同居するその不思議な美しさは確かにジャンヌダルクかもしれないと納得できるものであった。


 と、そこで再びお腹が鳴る音がした。

 ジャンヌの方を見ると明るさまに顔を赤くしながら目線を逸らして口笛を吹いていた。しかも微妙に吹けていない。


「腹減ってるんですか?」


「へ、減ってないもん! 私はさっきご飯食べたばっかだし!」


 無駄な虚勢に見えるが、弱いところを見せないというのが彼女のポリシーなのだろうか? しかし、そんな彼女の信念の事はいざ知らず、腹の虫は収まりがつかないようで鳴り続けいる。

 終いにはお腹を押さえて黙り込んでしまった。


「じゃ、ジャンヌさん。これ食べます?」


 俺はそう言うと食べかけのパンを差し出した。これは俺の今日の夕飯であり、かなり重要なものだが仕方がない。俺は朝も昼も食べることが出来たが目の前の女の子はしばらく何も口にしていないように見えた。流石、そんな女の子を見捨てられるほど俺はクズではない。

俺がパンを差し出すとジャンヌは明らかに動揺した。口元から涎が出始め、まるで神様を見るかのように俺を見つめてくる。しかし同時になぜ俺が貴重なパンを差し出すのかと言う事への困惑もあるようだった。彼女から見ても俺の状態は裕福には見えないらしい。


「た、食べられません! あなただって食べ物に困っているのでしょう?」


「いや、そうだけど……、日本人としては助け合いの精神を大切にしたいというかね」


「日本人? 聞いたことない人種ですが……、もしかして聖人の一族か何かですか?」


「違います普通の人です。いいから食え。食わないなら捨てるぞ」


「待ってください! い、いただきます……」


 ジャンヌは投げ捨てようとする俺の手を掴むとパンを受け取った。そして、唾を飲むとパンにかぶりついた。

 ジャンヌが今食べているパンはちょっと奮発して買ったレーズンパンである。お気に召してくれればいいが……。


「……うう」


 すると、ジャンヌは急に嗚咽し始めた。

 俺はあまりにいきなりの事にビビって思考が真っ白になった。


「え!? あ、あの、お気に召さなかった?」


「違います! 私、久しぶりに優しくしてもらって……、捕まっているときの異端審問は怖いし、看守は私が抵抗できないのをいいことに好き放題仕様とするし……。でも、あなたはこんなに優しい……」


 俺がパンをおすそ分けしたことがジャンヌの中では聖人クラスにまで美化されているようであった。いや、それどころか聖人そのものと勘違いされたようだ。

 別にそこまでありがたがることもないとは思うが、まあ人間空腹になると人が変わるというし、仕方がないのだろう。


「ジャンヌさんは大変だったんですね。俺の事は気にせず食べてください」


「た、タクロウ……、大好きです!」


 ジャンヌはさらに深く頭を下げ、告白まがいのことまでしてきた。よっぽど追いつめられていたのだろう。

……別にドキドキしていないです。ノリの告白だって分かってるし!

 ジャンヌはもっきゅもっきゅとやや大きめのパンを食べていき、すぐにそれはなくなった。

 そして食事が終わると俺の方を改めて向いて頭を下げた。


「慈悲深きあなたの好意、私の胸に染み渡りました! 何かお礼がしたいのですが……」


「いや、いいよ。その気持ちだけで十分さ」


「いえ、そういうわけには……。ところでタクロウは何か仕事は?」


「ギルドでハンターをやってるけど……。駆け出しだけどね」


義理堅いのか、ジャンヌは少し考える素振りを見せた。すると俺の仕事を聞いて何かをひらめいたようで強気の表情を見せた。


「私、力には自信があります。あなたの仕事をサポートします!」


「え? いいの? すごい力仕事だよ?」


「オルレアン英雄の力、舐めないでいただきたいですね」


「お、おう。そう言う事なら、頼む」


やけに自信たっぷりのジャンヌ。そんなに自信があるのならば、手伝ってもらおうかと俺は思い、承諾することにした。ジャンヌと戦えるというのにも興味はある。マックスの話だと明日は討伐系の仕事があるらしく、これは面白くなりそうだとひそかに俺は口角を上げた。


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