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序章2 物語は勝手に進む

 俺はこの町の雰囲気に近い町をテレビで見たことがある。

 そこはヨーロッパのアドリア海に面する町、水の都の別名を持つヴェニスことヴェネツィアである。

 この俺の転生したこの街の全容はそのヴェニスに近い形をしていた。町は水路によって区画分けされており、その間には橋が架かっている。さらにその橋の下をゴンドラが優雅に流れていた。

 一言で言うと美しい町だった。


「道わかんねぇ……」


 なぜか標識の字が読めたり道行く人たちの話声を理解出来たりと言語周りは問題なさそうであった。文字は恐らく転生の時にあの女神が何とかしたのだろう。

 しかし土地勘のなさは致命的であった。コミュ障なので道行く人に話を聞くこともできず、ただ茫然と歩き続けることになった。

 しかも追い打ちをかけるように腹も減る。と言うかこの異世界に来た昨日から何も食べていない。空腹は頂点だった。


「しかし金がない。詰んだな」


 仕事を探そうにもどこに行けばいいのやら、しかもたとえ見つけてもお金はいつもらえるのやら……。なんにしてもヤバい状況である。

 もっといい条件で転生できると思っていた俺が浅はかであったと考えるべきだが、それでもここまで待遇が悪いというのも予想外である。

 ……そう、俺は転生してから数時間、これと言ってやることもないので道脇に座り込んでいたのだった。


「おい、そこのお前。もしかして行く当てがないのか?」


 突然の声に俺はまさか自分が話しかけられたとは思わず、じっと体育座りをしていた。しかし、肩を叩かれてその声を掛けた主が自分に用があるという事を初めて理解した。俺は顔を上げる。目の前に不敵な笑みを浮かべる少女が立っていた。


「お前だお前。行く当てがないんだろう? なら、仕事を紹介してやる」


「え? いきなりなんですか? 流石に仕事を子供に紹介してもらうほど落ちぶれてないですよ」


 俺に話しかけてきたのは何ともエラそうなしゃべり方をする少女であった。しかしどこか歴戦の戦士のようなオーラも感じる。もしかしたら見た目だけ少女の合法ロリな人なのかもしれない。


「……まあ、言われ慣れているから怒りはしないが、次からは気をつけろよ? 私はこれでも二十歳は超えているぞ」


「え!? そ、それは失礼しました! ……で、その」


「仕事を紹介してやると言っているんだ。何も言わずについてこい」


 超のつくほど強引に俺は立たされる。まだ俺は何も言っていない。行きますとも言っていないしそもそも返事もしていない。しかしこの目の前の少女にはどうでもいいことのようで、俺の腕をぐいぐいと引っ張って行った。






「マックス。新人だ。手厳しく指導してやってくれ」


 俺はギルドと思われる場所まで強引に引っ張られた。

 ギルドの中は俺の知っているギルドそのものと言った感じであり、西洋風の装飾が散りばめられていた。もっとも、今の俺にはどうでもいいことである。何だか勝手に新人に仕立て上げられているようであった。何の仕事かすらまだ聞かされていないというのにである。


「ん? トリア、また浮浪者を連れてきたのか。言っておくが人手不足とはいえ、カスみたいな能力のクズを何人集めてきても役に立たんぞ」


「そんなことないぞマックス。こいつは強いと思う。私の勘がそう言っている」


「トリアの勘は十回中一回は当たるが、つい先日もそう言ってクズを連れてきたではないか」


 トリアと呼ばれた合法ロリさんはそう言われるとムッと怒り顔になった。しかし、そこから何も言い返さないのを見るとどうやら図星のようである。


「……あの、あの人は?」


「ん? ああ、あいつはマックス。このギルドの受付さんだ」


「う、受付!?」


 受付と言ったらてっきりめちゃかわのお姉さんだろうと心で悪態付きたくなるほどにマックスはムキムキの巨体であった。これが異世界の受付嬢かと顔を引きつらせる。巨乳お姉さんの受付を眺めながらクエストを受けるという俺の夢は打ち砕かれた。

 ……と言うか、ここがギルドという事は俺はそういう仕事をすることになるという事だろうか? だとすれば大歓迎だが、まだ自分の能力を把握していないのでいきなり討伐任務とか来たらどうしようかとひやひやする気持ちもあった。


「まあいい。能力を測定すれば役に立つかどうかが分かるからな」


「ああ、そうだな。ちなみにこいつが使えなかったら、私はお前に夕飯をおごるぞ?」


「大した自信だが、そう言う事なら俺の勝ちだな。こいつは使えんよ。ひょろいし、ちんちくりんみたいな顔してやがる。ちなみに俺は五千ルーベを賭ける」


 何やら俺がダメな子かそうでないかで賭け事が始まったようだ。まったくもって遺憾である。ちんちくりんって何だよ! 失礼すぎやしませんかね?

 ……しかし、つい先ほどまでニートだったので言い返すことが出来ないのも事実、ここは特殊能力に期待するしかないだろう。


 マックスは青色の石と魔法陣の描かれた石板を取り出してきた。そして彼は石板を俺の目の前に置くとその上に鉄のプレートらしきものと青い石を石板のくぼみにセットした。


「青い石を見つめていてくれ。すぐ終わる」


 なにやら、これが能力を測定出来る装置みたいだ。何の説明もないがアニメなどではだいたいこんなもので能力を測ったりするので間違いない。

 そして、そのよう予想は正しいようで俺が青い石を凝視しすると、石は突然光初め天井に向かって一直線の光の柱を作った。そして今度はその光の一線が鉄のプレートの方を向き、なんとプレートに文字をガリガリと削り始めたのだ。削られている文字に攻撃力言う文字が見えたのでほぼ確定だろう。

 そして、一分もしないうちに光が消え、マックスはプレートを手に取った。


「これで終わりだ。どれどれステータスは、名前はドイ・タクロウ。知能は平均だが、力と体力が貧弱だな……、おまけに成長率が二十パーセントと言うのは壊滅的だな……」


「え? もしかして俺のステータス、最弱?」


 え? 女神さまは能力をくれるって言っていたはずである。

 ……もしかして可視化できる能力ではないとか?

 しかしそれでは困る。大変困る。しかしかと言って何かできるわけでもなく、俺は何かしら救いがあることを密かに祈った。


「……いや、能力自体は過去に類を見ないほど弱いが、特殊能力の紅蓮の悪魔という火属性能力を持っているようだな」


「ん? それはどういったものだ? 使えるか?」


「ああ、間違いなく、こいつは強いな。ノーリスクで精霊契約魔法級の力を使えるみたいだ。……たく、どんな才能だこれは」


 マックスは頭をポリポリと掻くと財布のような物を取り出し、トリアに紙幣を手渡した。トリアはどや顔でそれを受け取った」


「賭けは私の勝ちだな」


「とんでもない有能なやつを連れてきたもんだ。たまには、お前の勘も役に立つんだな」


「口を慎めよマックス。お前は敗者、そして私は戦勝側なのだからな!」


 マックスはハイハイと肩を落とした。そして俺の方を向くとプレートを手渡してきた。俺はそれを受け取る。手がプルプルと震えていた。緊張のためだ。


「えっと、俺は助かった?」


「助かったかどうかは知らないが、とりあえず合格だ。タクロウ。今日はもう時間がほとんどないから仕事は明日からになるが、ギルド加入おめでとう」


 マックスは俺の肩を叩いた。

 どうやら俺はよく分からないうちにギルドに加入する下りとなったらしい。気づいていると思うが、俺はここまで一言もギルドに入りたいとも能力を調べてほしいとも言っていない。物語が俺の予期しない形で、しかも勝手に進行しているのだ。

 正直怒涛の展開に肩透かしすら感じている。が、渡りに船な感じもあるので良しとしよう。実際一人では餓死一直線だったしね。

 ……そんなこんなで、唐突に俺の異世界生活が始まりの鐘を鳴らしたのであった。


 ――いやほんと、マジで唐突に。


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