第二章12 邪教典
「敵さんが逃げたと思われるのはあそこ、北のオルクス山で間違いないと思うんだが……」
クロエは眉間に指をあてて渋い顔をしていた。そしてその理由である俺は検問所で足止めを食らっていた。なんでも北はモンスターが強いため検問所を通るためには最低でも下級クラスの職資格が必要なのだとか。
「えっと、クロエ様はいつ下級戦士の資格を取得成されたのですか?」
「この世界に来てすぐよ。資格を取るべきとこのスマホのチュートリアルにも書いてあったはずだけど」
「俺が来たときそれメンテナンスしてたんですよ!」
「それにしたってその後確認しないのもそうだし、下級アーチャーくらいなら取れるでしょ?」
「落ちました(怒)」
クロエはまさか落ちたとは思っていなかったようで面食らったようであった。まあそれもそうだ。下級クラスを落ちること自体珍しいのだ。
「……で、どうするんだ? 時間はあまりないと思うが」
「どうするって言われてもな……」
俺は完全に困り果てていた。市からの証明があれば出られるらしく、俺はそれが来るまで検問所の中で待機という事になってた。一体いつになるのやら……。
すると検問所のゲートに金髪長身の男性が通りかかった。そしてその男はこちらを見るとこちらの方を見て手を振った。
「……? 知り合いではないよな?」
そう思ってよく見てみると、その手には何やら手紙のような物が握られていた。
○○○○
俺は金髪の男のおかげで無事検問所から出ることを許された。男は何ともいかにも騎士と言った見た目、俺のあこがれる姿をしていた。
「……あ、ありがとうございます」
「礼には及びません。市長より命を受けて参上しましたので」
男は物腰柔らかくお辞儀をした。何とも余裕のある立ち振る舞い……、これが騎士か!
「申し遅れました。私はサバランセといいます。僭越ながらアークナイトをやらせていただいております」
「じょ、上位のナイト職! すげえ! 確かこの町に五人しかいないんですよね!」
「はい。その通りですよ。もしかしてタクロウ殿はナイト職に興味が?」
「俺の夢です!」
俺はまさしく理想の人が目の前にいることに興奮を覚えていた。ジャンヌのようなぱちもんナイトではない、この人はまさしく本物だ!
「……そう言っていただけると嬉しい限りです。……しかし、君は特にナイトを目指す理由はないのでは? 現状でも相当な戦闘能力を有しているとか。ギルギロスをこの一帯から駆逐したと聞きました」
「なに? ギルギロス討伐はタクロウがやったのか?」
サバランセとクロエはギルギロスという何とも懐かしい名前に反応していた。ああ、そう言えばそんな奴と戦った時期もあったな。
「いや、あれは後方から攻撃するとかいう卑怯極まりない戦法なのでノーカウントです。俺は正面から戦うナイトがカッコいいと思っています!」
俺は高らかにそう宣言した。自分の能力の特性なんかも理解しているつもりだが、それでもやっぱりナイトはカッコいい。俺は前衛職で戦いたいと思っている。
すると、クロエはしょうがない人を見るような目をして腰に手を当てた。
「援護職や火力職は重要だぞ? 前衛の役割なんてギルギロスみたいな怪物相手だと囮か盾役しかできないしな」
「そうですよ。タクロウ殿はこの町でも有力な火力持ちですし……」
え? なんでこの二人はこんなにも俺の賛美賞賛をしてるの? 怖いわ。……まさか遠回しに俺にナイトは無理って言ってる? 泣いていいですか?
などと異様に食いついてくる二人に俺は困惑し、そしてそこに込められた遠回しの言葉に心が折れそうになった。
「……まあ、そんなことはどうでもいいですね。タクロウ殿、今回のエイジ氏を拘束する作戦に私も同行いたします。全力であなたのサポートをいたします」
「いや、俺がなんかするとエイジを焼き殺しかねないからクロエに任せる予定なんだけど……」
「……それで済めばいいのですが、彼が邪教典を持ち出した以上そうも言っておられません」
邪教典という新しい単語が出てきたため、俺は首を傾げた。今回エイジが持ち出した禁術の名前なのだろうが、どんなものか全く予想がつかなかった。
「邪教典はオルクス山を統治していた古代オルクス人が生み出した魔法で、山の神を具現化させるための術が書かれている」
俺が全く分かっていないのを見かねてかクロエが分かりやすく解説を挟んだ。……というか、クロエ様妙にこの世界の事に詳しくない?
「……君は現代っ子だろうに。スマホでググればすぐに出てくるぞ」
「……ふ、フランケンシュタインにそんなことを言われるとは思わなかった。君現代慣れしてない?」
「まあな。私はフランケンシュタインの嫁と言う設定を持つ、つい最近作られたホムンクルスという存在が近いからな。なぜなら、私は人の妄想の中に入るが実際には実在しなかったからな」
「ど、どういうことですか?」
俺はクロエの言ったことが理解できず、頭がこんがらがった。
「要は、私は今どきの女子学生くらいの年齢だから世情に詳しくてもおかしくないという事だ」
「なるほど。クロエ様はロリ枠だったか」
謎の理解をした俺に苦笑いを浮かべるも、クロエはそういうことだと小さく言い捨てた。サバランセは俺達の事情を知らないので目を点にしていた。
「……まあ、とにかくタクロウ殿も事の次第を理解できたでしょう。要はその邪教典によって山の神を召喚されれば、アトキアに甚大な被害が出るかもしれないという事です」
「理解したぜ。なら、早めに捕まえないとな」
能天気に親指を立てた俺にサバランセは苦笑いを浮かべた。
――この後、その苦笑いの意味を俺は身をもって体感することになるのだった。




