序章0 ちっぽけな願い
書き直しを行いました。
氷と吹雪に閉ざされた世界、そこにはかつて様々な生物が生きていた。しかし、今ではこの有様だ。ここには氷と雪以外に何もない。私以外誰もいない。
ふと、さみしくなって魔術に手を出したことがある。それは簡単な魔術でどこか分からない向こう側の世界にいる人と話が出来るというものだ。凍り付いた本を開き、私はその本を読みふけるのだ。
――向こう側にはどんな人がいるだろうか?
――話をできるとしたらどんなことを話そうか?
私の凍り付いた心はあの懐かしい楽しかった頃のように踊り出すようだった。早く誰かと話をしてみたい。早く誰かとつながりたい。
そう思えば思うほど、私の心は熱を取り戻したように高ぶる。
魔術は簡単でこの本を抱いて眠るだけでいい。眠ると夢の中で向こう側と会話が出来るらしいのだ。何の知識もない私にもできる簡単な魔術だ。
――ああ、とても楽しみだ。とてもとても楽しみだ。胸が破れそうだ。声が聴きたい。夢の中でも構わない。誰かと一緒にいたい。
私のちっぽけな願い。けれども、今まで果たすことのできなかった届かない願い。その願いを本に込め、私はそれを抱きしめた。そして私は柔らかさを失った氷の布団に横になって、目を閉じた。
……そしてその日、私は人をまた殺した。