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1-8 《?意識?》

 ……花ちゃんは壊れたままだ。


 アタシは(アタシは心の中では自分の事を「アタシ」と呼ぶ。きっと花ちゃんに憧れていたから。実際に使おうと思った事もあったけど、どうも上手くいかない)苛立っていた……花ちゃんは悪くない、いやむしろアタシのせいだとも言えるのに、情けない親友の姿にモヤモヤしまう。


 花ちゃんの精神に“蜜”を通じてリンクを繋いで言葉を必死で送り届けた。だけど結局手遅れだったのだな、と思わざるを得ない。

 投げやりで、ヤケクソで、底の知れなかった花ちゃん。憧れるようなモノでも無い、と分かっていながらも、アタシはそれに憧れ、いや、嫉妬していた。

 

 だって、何か、何か「やらかしそう」なんだもの。

 

 実際に、その「やらかしそう」だった瞬間をみた事がある。とんでもない花ちゃんの「闘い」を見られたかもしれない瞬間が確かにあった。

 だけど、相手は結局いきがっているだけの根性曲がりの生ゴミみたいなヤツで、ヤバイと分かるがさっさと逃げ出しやがった。

 今時珍しいわかりやすい不良だったから都合の良いかませ犬になったかも知れないのに興ざめだ。

 まぁ実際の不良なんてあんなモノなんだろう。不良がカッコいいのなんて漫画くらいのもの。

 最後の一線だけはギリギリ超えないために、普段はやりたい放題して追い詰められてた途端軽々しく頭を下げてくるのがリアル不良だ。多分。


 だから今度こそは見られると思ったのだ。

 青春の形の1つは「闘い」だと思う。それを通じ、花ちゃんは青春の味を知るはずだった。

 だからアタシは、花ちゃんを全力で手伝うことで、自分も青春の味を味わいなおしてやろうと思ったのだ。

 今やその計画はお釈迦になってしまったけど。


 そう、お釈迦だ。全く。

 花ちゃんはずーっと「まってまってまって……」とリピートし続けている。

 死にたくないわけじゃなく、ついていけないだけだと言う。

 でもいずれは受け入れるのだと言う。

 

 クソッタレめ。

 

 別に死ぬな、とは思わないし思う資格も無い。

 だがどうせなら戦って死ね。

 何故だ。

 何故受け入れてしまうのだ。

 何故仕方がないからと言って。

 何故正しいからと言って。

 何故よりにもよって春野花子が受け入れてしまうのだ。

 何故アタシよりも先に受け入れてしまうのだ。

 ……あの時突っ込んできた暴走車みたいな退屈な理不尽を。

 

 そうだ、アタシは幸せだった。

 初めての人だった。

 自分が「普通」でもいいか、と思えた。

 背景のようなアタシを、あの人はいつでも見つけ出すから。

 「普通」じゃなくなることに魅力を感じなかったわけじゃなかった。

 けれど、「普通」じゃなくなる瞬間がもしやってきても。

 やってこなかったとしても。

 この人が傍にいるのは幸せだと思って。

 抱き合ったし、

 愛しあったし、

 子供だって創ったのだ。

 家族になった。

 青春だった。

 確かに。

 でも終わった。いや、終わらされた。

 

 誰だ。

 ゲーム機を親に叩き壊された子供の気分。

 

 誰だ。

 アタシがしくじったから、あの人に愛想をつかれた、とかならまだいい。

 「普通」だけど、それならアタシが悪いもの。

 

 誰だ。

 「普通」の幸せだったかもしれないけど、くだらなくは無かったのだ。

 それを分かってやったのか。

 

 誰だ。

 もしかして、「くだらない」と理解した気でいたのか。

 1から10まで見たとしても、どうしてくだらないと決められる。

 

 誰だ。

 どこから湧いてくるんだ、その自信は。

 アタシじゃない癖に。

 

 誰だ。

 見たら分かるとでも。

 「自分は人を見る目がある」なんてしか阿呆どころか考える機能すら持っていない奴しか言わないはずだけど。

 

 誰だ。

 だってそうじゃないか。

そう思われている、とでも仮定しなければ、あの「終わり」を説明することが出来ない。

 


 誰だ。どこのクソ野郎だ。

 あんな無理矢理でつまらねえ「終わり」をくれやがった自信満々の自惚れ野郎は。

 

 

 どうやら。ああいう形の青春は自惚れた「誰か」に抵抗も出来ずに壊されるようだった。

 それならばその自惚れ野郎と闘うことをアタシは「青春」にしたい。

 いつもはそれがどこの誰だかさっぱり分からないけれど、今回は大丈夫。


 マアリだ。彼女は地球人に理不尽な「終わり」を振りまくつもりでいる。

 

 まぁ、表舞台に立っているのだから、この世界の数多くの自惚れ野郎共よりよっぽど筋の通った人なのだろう。

 地球人が絶滅する。まぁどうでも良い。もしかすると、大概がアタシの敵、自惚れ野郎なのかも知れないし。

 むしろマアリは地球人が自惚れてるヤツばかりだから、自分がそのレベルに片足突っ込んででも滅ぼそうとしている節がある。

 だとすれば素晴らしい責任感だ。皮肉じゃなしに。まぁ半分くらいはテキトーに決めたことのような気もするけれど。

 だけどいくらマアリが良い奴でも、自惚れているのならアタシの敵……とするほどに融通が利かないわけじゃないけれど、喧嘩くらいはしよう。

 

 マアリ、アンタは春野花子を知らないじゃないか。

 アタシが1人知っているのだ、もっとああいう奴がいたって不思議じゃないさ。

 10人か。100人かも。いや1000人だろうか。理解など出来ない、マアリでも。

 今回の理不尽、歩道に乗り上げた暴走車、マアリ。

 アンタに春野花子をけしかけてやろう。

 「理解できる」なんて夢物語を信じている理不尽でメルヒェンな奴は気に食わないからね。いくらマアリでもイジメテミタくなる、という話。


 これぞ、アタシの青春だ。花ちゃんの青春を最高に最悪にプロデュース。完璧にバックアップ。

 もちろんアタシ自身が主役、というのも考えたけど、どうも花ちゃんはアタシが死んでから燻りがちの様子で、自分だけ楽しむのが申し訳なくなったので、今回は譲る。

 その次はアタシ。まあ楽しみは取って置こう。




 「まってまってまってまって……」


 ……で、計画が最初の最初で破綻するって凄いストレスだ。

 何故だ、花ちゃん。

 こんな機会ないじゃないか。

 理不尽と戦おうとすればいつも「仕方ないじゃないか!」とか「大人になれよ!」とか「現実を見ろ!」とかそれしか言えねえ癖に、その言葉の意味も知らねえ癖に、もしくはその言葉の意味を自分で勝手に決めやがった癖に、ゴミどもがギャアギャアギャアギャアとうるせえから戦うどころじゃないだろ。


 ここまでやればそのゴミどもだって黙る。最高だ。


 だってゴミどもはいつも自分の命が可愛いもの。誰かが闘わなければ自分も死ぬとなれば、手のひら返して応援までしてくれる。いらないけどね。

 そこまで手を伸ばせば良いのだ。心臓わしづかみーってな。素晴らしい案じゃないか、アタシ。

 

 ……やっぱしアタシの考え方って極端なのかな。

 でもそんなこと言っててもずっとこのまま。

 自分じゃわからないけど、アタシもきっと理不尽でメルヒェンな奴。

 毒されながら考えて、汚されながら出したアタシの結論。

 アタシの武器。

 アタシの青春。

 ブーメランみたいにアタシに返ってくるのだろう。

 今回はそれすら分からずじまいか。

 また何か考えないと。

 

 花ちゃんはもう終わり。

 ごめんなさい。

 当てが外れて腹が立つけど、謝らないと。

 だってアタシの親友だったのだから。


 アタシが死んで花ちゃんが残され。

 花ちゃんはアタシの思うよりも変わってしまっていた。

 壊れてしまっていた。

 ……受け入れて、しまっていた。

 信じがたいことにアタシは、花ちゃんにとってとても大きな存在だったらしい。

 そんなこと、考えもしなかった。

 嬉しかったよ。

 ごめんなさい。

 せめてアタシだけは……受け入れてやるものか。

 このブーメランを投げ続ける。

 止まらない。止められない。止まりたくない。

 この「青春」は、アタシの親友を、花ちゃんを犠牲にしたモノになったのだから。

 

 

 ……………………

 

 ……………………



 「まってまってまってまって……」

 

 よし……行こう。

 プランBってやつだ。

 アタシの針を花ちゃんから抜く。先ほどから地面に落ちていく血の流れがさらに激しさを増していく。

 相変わらず真っ赤だ。それは花ちゃんが“蜜”をまだ自分の力にしていない証拠。

 後ろから抱き支えていた花ちゃんを地面にそっと横たわらせてやる。

 Zランクの戦士、ゴキブリモチーフの「ブラトビー」が歩み寄ってくる。

 

 「……残念だったな。相当、入れ込んでいたのだろう?」

 「まぁね」とアタシは答える。必死で平静を装う。

 「観客は貴方に期待を裏切られた気になっているかも知れんが、気にするな。実際この試練に打ち勝てるかどうかは、推薦者ではなく闘技者自身の適正の問題だ。貴方が失敗した訳では無い」

 「わかっているわ」

 「まぁ地球人でもあるまいし、そこまで陰湿な目に遭ったりはすまい」

 「うん。彼らは筋の通った人達だよ。私達も含めて、皆あのマアリの子。こんな結果でも、私をハブにしたりはしないのよね」

 「そうだな。……最終確認だ。“蜜”の投与から10分は経っている。まだとりあえず口は動いているが……」

 

 花ちゃんは、

 

 「まってまってまってまってまってまってまってまってまってまって……」

 

 壊れたまま。

 

 「……ここまで時間が経っていて再起した例は無い。“蜜”に耐え切れず、覚醒は不可、という解釈で良いか」

 「ええ。彼女の精神とリンクして確認も取った。春野花子はここでお終いよ」

 「そうか。では片付けよう。……せめて苦しまないようにしてやる」

 「……ありがとう」

 

 ああ、良心が痛むなあ。

 このゴキブリさんは本当に良い奴だ。次に彼のオリジナルと出会ったら愛でてしまいそう。


 戦うことになれば……できれば、ロマンチックに最後に倒してやることにしよう。


 プランBはアタシが主役。

 花ちゃんがこのZランクのゴキブリ戦士、「ブラトビー」の真っ黒いナイフでその命を断たれ、ある程度場が落ち着いたらアタシは宣言しよう。

 マアリとの決闘を希望する、と。

 まあ丁度良いしアタシが勝てば地球人の殲滅の中止を要求しようか。まぁそれに関してはどっちでも良かったりするけど。


 つまりアタシが地球人代表の闘技者となる、と。

 もしかしたらいきなりマアリ戦、とはいかずZランクから戦う羽目になるかも。

 まあそれなら少なくともさっき見たCランク戦までは楽勝だろう。

 最悪のパターンは認められずにここの全員が一斉に襲い掛かってくる場合だ。

 まぁ大概の奴には負けないけれど、それだとどうしたって手加減できず殺さなければならない。それもランク戦より大量の人数を。

 

 一番良いのはマアリとの一騎打ちで、どちらかがギブするまで、ってルールにすること。

 別に戦って殺されるのは良くは無いが納得できるけど、アタシはマアリと喧嘩してアタシの結論を認めさせたい、ぐらいのニュアンスで動きたい。

 殺すことが目的じゃない。殺したくもない。

 まぁマアリも絶対地球人絶滅させたいって感じでも無いし。

 アタシがそれを阻止してもすぐに仲直りできるだろう。

 本当にマアリに関しては一言物申したいだけなのよアタシ。

 んでそれを認めさせればOK。

 その過程が闘いで、アタシの青春。

 うん、これでよし。

 

 ブラトビーの真っ黒いナイフが振り上げられる。

 すぐに花ちゃんを切り裂くのだろう。

 まだ花ちゃんは赤い血を垂れ流している。

 “蜜”を自分のモノにしたのなら、その人間には血液の変わりに“蜜”が体中に流れることになる。

 “蜜”はやけに黄色い。すぐに分かる。

 花ちゃんが垂れ流す赤色に黄色が混じってやしないか、なんて今や無駄な期待だけど。


 やっぱり最後まで探してしまう。


 無いよね。


 やっぱ無いよね。



 無いかー。



 ……そっか。くどいなぁアタシ。



 でもそれも終わり。ナイフが、花ちゃんの首に、落ち









 「待てって言ってんだろ」


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