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5-8 明日に捧ぐエピローグ

 ――勝敗は決した。


 マアリの首、マアリの身体が地に堕ちた。

 

 アタシは、ただ静かに地に下りた。


 そう、アタシは、生きている。


 

 マアリとのタイマン勝負、という話なら、きっとこうはならなかった。

 順当に、予定調和に、当たり前に、アタシはマアリに敗北していただろう。



 「――まったく……キレイにやってくれたもんだよ」


 生首だけになったマアリが話しかけてきた。

 

 「今もね、実は再生しようと頑張っているんだけどね……この黒い炎が邪魔をしてくる。ホント、何なんだい、この都合の悪いのはさ。……キミ達にとっては、都合が良いんだろうけどさ」


 マアリの首の切断面が、黒い炎で燃えている。

 それがそこからの再生を妨げている。


 「まぁ……これだって、“蜜”の力があれば、時間はかかるけどなんとかなる筈さ。だけど、間に合わない。キミときたら、トドメの準備までやってしまっているんだもの――」


 ……アタシ達の真上には、黒い太陽があった。

 そう、リリィと戦った時にもアタシが創った、黒い炎に包まれた大鎌で構成されている太陽が。

 “蜜”の力を持つマアリは、首を切っても殺しきれないかも、と思ったアタシは、あの一撃のすぐ後にこの黒い太陽を創った。

 あの時と同じように、完全に焼き尽くして、切り刻む。

 それで、終わりだ。


 「なんだかここまで念入りにされると、腹が立ってくるのを通り越して感心するよ。このまま死んだフリして耐えしのいで、忘れた頃に殺しに行ってやろうと思ってたのに。ひどいなぁ……」

 「――そんなことはどーでもいいや。聞きたいことがあるんだけど」


 マアリの話をぶった切って、無理矢理に質問をねじ込む。


 「これで終わり?」

 「……うん?」

 「アンタを倒したら、真の黒幕が!とかない?」

 「……いた方がいいのかい?」

 

 その言葉に、迷わず答える。


 「モチロン。この戦いの日々が終わってしまうとか、これからどーすればいいかわかんないよ」


 「…………はぁー…………」


 そう答えると、マアリに長い溜息をつかれた。


 「全く……こんなヤツに負けたなんて。あたしだって、頑張ったのになぁ。大切な事も、大切な人も、みんな、みーんな忘れちゃうぐらい頑張ってきたのに、こんな、こーんな、自分のことしか考えていないような最低最悪のヤツに負けちゃうなんてなぁ……」

 「そうだよ。アタシは、最低だ。こんな地球人が絶滅するかどうかって戦いに、自分一人の都合だけで挑んだ最悪のクソッタレだよ。でも、アタシは運が良かった。だって……」


 足音が聞こえた。引きずったように、ゆっくり、ゆっくりと近づいてくる。


 「そんな最低最悪のアタシを、助けてくれる友達がいたんだから」

 「――あぁ、結局はソレなんだよねー……くそ、やってくれたね、リリィ」


 振り向くと、リリィがボロボロの姿で立っていた。

 もう蜂人間じゃなくなっていた。骸骨姿でも無い。

 普通の、地球人の姿で、立っていた。


 「リリィ、キミは確かにアタシに届いた。その全てを賭けた一撃で、この春野花子の勝機を産み出した。……だけど、その代償は大きかったねぇ。もう蜂人間じゃあなくなっているのは、もう全てを使い切ったからだろう?初めてみる現象だけど、きっとそうだ。今の君は僅かな、残りカス以下の亡霊みたいなモンさ。そして、次はもう生き返れない。……後悔は、無いのかい?」

 

 それに、静かにリリィは答える。


 「愚問だわ。……わたしは、あの花ちゃんとの戦いで負けて、死んだ。その後、なんて本当はいらなかった。だけど、アンタに生き返らされてしまった。生きているのなら、『やりたいことをやるしかない』けど、でも同時に、生きているのは何か違う、って思いながら悶々とする気持ち……アンタにわかる?その結果が、コレよ。大切な友達をこの余計な命と引き換えに、救う。まぁ、『おまけの人生』の終わりにしては、上出来な方でしょうよ」

 「『おまけの人生』、か……まったく、あたしは本当に余計なことをしてしまったなぁ」


 余計なこと、と言えば。アタシには思い当たることがあった。


 「そんなモン今に始まった話じゃないでしょ。そもそも、“蜜”なんてヤバい力をアタシ達に与えなければアンタはこうならなかったんだよ、結局。それに比べりゃあ、他のコトなんて全部後付けみたいなモンだろーが」

 「……返す言葉もないや、ははは」


 弱弱しくマアリが笑う。


 「そう、フツ―、あり得ないよねぇ。こんなご都合主義な力をほいほいあげるなんて。だけどそれだけ……それだけ、キミ達の“真価”に賭けていたんだよ」

 

 ふぅ、とまた溜息をつくマアリ。


 「悔しいなぁ。本当に悔しいなぁ。こんなにも醜いこの星を、こんなにも壊したいのに、こんなヤツに負けて、あたしは止まってしまうのか。全く、こんなにも救われない話が他にあるか。……こうなれば、『保険』に賭けるしかないね」

 

 保険。その言葉に、アタシの本能が反応した。

 ――舌なめずりをするように。


 「なんだ。まだ、あるんだね?そうなんだね?奥の手、ってやつがさぁ……!!」

 「クソッ滅茶苦茶嬉しそうだな春野花子め。どんだけ戦いたいんだよ……」

 「まったく、小学生と青春は最高だぜ!!」

 「ワケわからん。いいかい。アタシはね、もしアタシが死んだ時に備えて、それでも地球人を絶滅させられるプランがある。“真価の闘技場”の観客達を覚えているかい?沢山いただろう?アレで1万はいる。それに加えて、キブカ惑星調査隊マアリ班のまさに懐刀と言える男……『トバラ』がいる。アタシが死んだ時点で、『トバラ』を中心とした、アタシの創った生命達による、地球人絶滅計画が進められるんだ」

 

 そう言って、マアリは計画を語り出した。これまでのような堂々と人前に現れて、大規模な破壊を行うのではなく、ゲリラ戦のように奇襲を繰り返すというのだ。しかも世界各国、広範囲で同時多発に行い、アタシ一人で対処しきれないようにするらしい。

 しかも、「トバラ」もマアリと同じように、「トバラ」自身の“蜜”から新たに生命を創り出せるらしく、戦力はさらに増やせるらしい。

 アタシが遠い異国のゲリラ部隊を倒している間に、潜伏している「トバラ」は倒される以上の戦力を創り出す。イタチごっこ状態だ。

 それを繰り返していけば、いつか地球は滅びる。そーいう話らしい。


 「いつか地球にはキミ一人しかいなくなってしまうのさ、春野花子。キミはアタシを倒した。“蜜”の力を一番使いこなせるアタシを倒したキミを倒せる者は、もういない。キミは、味方を全て無くして、敵を全て倒して、最後は孤独に殺されることになるだろうよ」

 

 ヘラヘラと笑いながらマアリがそう言った。


 「何でそれをアタシに話した?」

 

 気になって聞いてみた。


 「キミ一人じゃあ、どーにもならないからさ。結局、数ってのは重要なのさ。『トバラ』はこれから地球人を絶滅させる兵隊をずっと作り続けるだろう。そう、無限にね。これからは緻密な作戦がモノを言う、本当の戦争さ。いくら強くても兵隊がキミ一人ではどうにもならないってことを、きっとキミは理解するだろうよ」


 そうだろうか。だって、今話してくれたマアリの作戦には、分かりやすい弱点がある。


 「……じゃあ『トバラ』を“蜜”の力で無理やり探し出して、殺すかね」


 そう言うとマアリは、楽しそうに、だけどどこか観念したように、笑って答えた。


 「ふふふ、無駄だよ。そうだな、ここまで言う気は無かったけれど、最後に教えてあげよう。キブカ惑星の人間はね、死んだらその力を他のキブカ星人や、創られた“蜜”の力を持つ生命にそっくりそのまま引き継ぐことができるんだよ。つまり、あたしや『トバラ』を倒しても、その力をそのまま持ってる誰かが現れるってわけさ。つまりキミがアタシを殺したことは……」

 「――実は全くのムダだった、ってワケか!ぶわっはっはっは!!」

 

 アタシは最高の気分になった。

 ああ、戦いは終わらないんだ。

 アタシの青春は、終わらないんだ。


 「……あのねぇ!あたし側からしたらムダじゃねーよ!だってこのあたし、『マアリ』は死ぬんだから!最悪の気分さ!くそ、やっぱり教えなきゃ良かったよ、この戦闘狂め……」

 「うはは、もう戦いにしかアタシの幸せ、青春ってやつを見出せそうに無いんでねー……だってそうそう無いだろ、こんなこと!」

 

 アタシは今、幸福の絶頂にいる気分だった。


 「命を賭けて、命を粗末にして、命を燃やす!こんなことができるのが、他にあるか!?ないって、絶対!それがずっと、ずーっと、死ぬまで出来るんだ、最高だよ!!」


 そう、最高だ。これでずーっと、生きたくもない、死にたくもない、なんて思わずにすむ。

 生きているだけじゃ満足できないんだ、もう。だから、こんな展開は夢のようだ。

 そう、きっとこことは違う、どこか違う世界に行けるくらいに……いやそれ以上に、幸福なことなんだ。

 青春しつづけること。それが人生の幸せなんだ。

 

 「……ねぇリリィ。やっぱりコイツ最悪だよ。キミ、こんなヤツ助けて後悔してない?」

 「またもや愚問よね。私は、花ちゃんのこと大切だから。花ちゃんが死ぬまで青春できる手助けができて、本望よ」

 「ふざけてる。キミ達本当にどうかしている!あぁ、春野花子、もういいから。あたしはこれ以上生きていたくない。もうキミ達のワケの分からない話を聞いていたくない!!」

 

 投げやりなマアリの言葉に、アタシは答える。


 「そうかい。んじゃあな、マアリ」


 ドラマチックな言葉はいらないだろう。だって、こいつと同じ力を持ったヤツが、また現れるから。

 どんなヤツなんだろう?

 同じ力を持ってるっつったって、やっぱ人が違うと色々また違う面が出てきて、面白いと思う。

 そんな未知の楽しみに比べれば、マアリとの別れなんてテキトーでいいや、って思う。

 マアリだって、アタシと話すのはもうこりごりらしいしね、サクッと――


 

 この太陽で、切り刻んで、燃やし尽くして、さよならだ。



 



 

 


 ――よし、終わった。

 でも、これからが大変だ。

 アタシは世界を飛び回って、地球人を守る、という名目で自分一人の幸福と青春の為に戦わなければならない。いやー、「やりたいことをやるしかない」ってさぁ、大変だよねぇー

 

 「――リリィ、ありがとね」


 もう立っているのも限界であろうリリィに声をかける。


 「いいよ。花ちゃん。……ねぇ、アタシは、花ちゃんの青春を手助けできたかな?」

 「当たり前でしょ」


 そう答えると、リリィは、ほっとしたような、楽しそうな、優しそうな笑みを見せて、




 「――そう……なら、わたしは幸せだよ。ありがとう、花ちゃん――」




 そう言って、まるで成仏する幽霊のように……静かに、消えていった。



 2回目の、本来無いはずの余計な、おまけの別れ。

 だけど、アタシは……こういうのも、悪くないな、と思う。

 リリィの最後の一撃、本当にかっこよかったしさ。

 アレを身て、改めて思えたことがある。


 リリィと、リリィのくれた“蜜”の力で、アタシはどこにでも行けるし、何でもできる。

 そのことをしっかりと教えてくれたんだ。

 アタシには、出来過ぎた……最高の友達だった。




 ――どぉん、とどこかで破壊音が響いた。もう新しい戦いが始まるらしい。せっかちさんめ。

 アタシは、ニヤリ、と笑った。




 ――青春は、こんな33歳無職独身無乳のしょーもない女にもやってきてくれた。

 

 それまでは多分、諦めてた。悟ったフリしてた。

 死にたかった。

 生きたくなかった。

 死にたくなかった。

 ……どうしようもなかった。

 

 ――そんな時に、アタシを助けにきてくれたのだ。 


 ……だからもう、心に穴が開くのは我慢できないんだ。

 我慢できないから、「やりたいことをやるしかない」ないんだ。

 


 さぁ、青春はまだまだ続く。

 ……もう、手離さない。

 こんなチャンス、もう手離してやるもんか。


 その為にこの命を、賭けて、粗末にして、燃やそうじゃないか。

 ……それは、何て幸せなことなんだろう。

 ――このアタシの人生を、これからの最高の人生を、世界中の人々に見せびらかしたい。

 


 そんな、ワケのわからない、デタラメな思いを胸に、アタシはこの人生を生きていく。




「青春は蜜の味」 -完-

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