表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/74

5-7 《!絶対、決死、致命、必殺!》

 リリィが必殺の一撃のためその武器……黒い炎に包まれたブーメランを構える。

 マアリはそれを薄ら笑いを浮かべ、余裕を見せながらそれを迎え入れるように手を広げ、待っている。

 春野花子は、リリィの決死の一撃がマアリを倒す布石になることを信じ、それに備えている。


 「全部……命すら、賭けるわ。この一撃にね。それが出来るんだから、この“蜜”ならね――」


 そう静かに呟いたリリィの身体に異変が起きる。


 黒い炎。今春野花子を包むその炎と同じものが――

 リリィの身体を包んでいく。


 「……!?」


 花子とマアリがその変化に驚愕する。

 黒い炎はリリィが「蜂人間」と呼ばれるようになった理由……その背の2対4枚の翅と本来の手2本足2本以外についていた腰2本の足も焼け落ちた。

 黄色と黒のツートーンカラーの、細身の鎧のような身体は、外側の皮膚のような部分だけその黒い炎に焼かれ……その内部が明らかになった。

 漆黒の骨だ。……そう、今のリリィの姿は、今の春野花子の姿そっくりの、黒い炎に包まれた骸骨になっていた。


 「――キミ達は、どこまで……!」


 その姿の類似は、マアリにも、花子にも、同じ印象を与えていた。

 花子とリリィが、どれだけお互いを大切に思っているのか――

 それが、その姿の類似性にはっきり表れている。

 それを悟ったマアリはそのリリィが繰り出すであろう決死の一撃に警戒を強め……

 それを悟った花子はそのリリィが繰り出すであろう決死の一撃への信頼を強めた。


 黒い炎はさらに轟轟と燃え盛り、その大きさを増していく。

 リリィの骨だけになった顔は、マアリを見据え続ける。

 ここで、マアリはその決死の攻撃を「受ける」ので無く、「避ける」という判断に完全に切り替える。

 「万が一」があり得る――そう判断した。

 マアリは本来、冷静で、正確な判断力を持って行動する気質である。

 本人に自覚が無くとも、彼女は一部の例外を除いて……抜け目なく行動する。

 その例外というのが、地球人達に“蜜”を与えることを許してしまったことなのだが……

 

 ダァン、と音を立てて、マアリは空中に飛び上がる。飛行による回避行動で、リリィの決死の一撃から逃れようとしている。

 それを見てもリリィは、変わらずその武器を構え、動かない。

 しかし、その骨だけになった顔は、正確に空に飛び上がったマアリに対して向けられている。

 逃さない。必ず、絶対に、この攻撃を食らわせてやる、と――



 キリキリと空気が張り詰める。――決着の時は近い。


 状況は、一気に動き出した。


 

 「―――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 リリィの形容不能な叫び。生命が、覚悟を決めた時に上げる、何かを振り切れてしまった叫び。


 それが響き渡り……そして、花子もマアリも予想だにしない光景がそこに広がった。


 「「……!?」」


 リリィを包んでいた黒い炎が一瞬で掻き消えてしまった。そして、グラリとふらついたかと思うとその場に仰向けに倒れてしまった。

 その胸には、同じく黒い炎に包まれていたブーメランが、その炎が消えた状態で、突き刺さっていた。


 「な、何が……!?リリィ!おい、リリィ!!」


 花子はパニックになってリリィに駆け寄る。


 ……その光景の不可解さから抜け出したマアリの頭は、この状況を切り抜けたという安堵感に満たされていた。

 ――何のことはない。リリィは失敗した。自分に届く、決死の一撃を放とうとして、結果、自滅した。その原理は全く分からないが……

 マアリは、花子と、リリィに向けて、その失敗を嘲る言葉を投げかけようとした。


 「――――――――――――」


 そこで、ようやく、マアリは異変に気付く。……「ようやく」と表現できる程、それに気づくのが遅かった。



 ――マアリの身体の腹のあたりが、ごっぞりとえぐり取られたように無くなっていた。


 

 「…………!!!」


 

 一体全体、どういうことだ――?“蜜”が無ければこの時点で終わっていたほどの破壊を受けたことに気付いたマアリは思考する。

 腹のあたりをごっそりと削り取られる程のダメージを受け、飛行していたマアリの身体は大きく揺らぎ、地に向かって落ちていく。

 その間、“蜜”の力による再生を図りながらも、マアリはこうなってしまった原因を探らずにはいられなかった。

 そして、結論に辿り着く。


 (リリィ……まさかさっきのは……ただの自滅じゃなかったって言うのか!?)


 

 ()()は単純に早すぎた。

 見守る花子にも、それに対峙していたマアリにも、認識不可能な程に――


 リリィの手から離れたブーメランは二人の認識が追い付かないスピードで、マアリに直撃した。

 ――ブーメランというものは、投げられた後、投げ手の所に戻るものだ。

 今回も同じように帰ってきた。しかし、それは投げ手の胸に突き刺さる形だったが。


 マアリは思考を続ける。予想外の事態に動揺し、状況の整理をするために彼女の頭は忙しく回転する。 

 

 (この自滅しながらの一撃……これがリリィの『能力』だということか?彼女は『コレ』に長けていた、と?)


 “蜜”の「思い通りにする」という、万能性の高いこの力の特性故、マアリ程の圧倒的なレベルになるとあまり重要視されないことだが、“蜜”を得た時に、得に上手く使える得意分野……「能力」というのが存在する。


 例えば、春野花子の大鎌であったり。

 “ゲーム”のCランクで敗北した、オオガミレンの炎を噴き出す大斧であったり。

 以前マアリが直接対決した綱木野賢人の巨大な腕であったり。


 マアリ自身が創りだした生命達にもその傾向はある。

 リリィの毒を含んだ針であったり。

 Zランクの“戦士”ブラトビーの黒いナイフであったり。

 Sランクの“戦士”カーロスの自信の身体を分離して操ることであったり……


 “蜜”を扱うに当たって得意な武器、技能というのが、それぞれ存在する。

 その得意分野でなら、“蜜”を他の用途よりも効率よく、強力に扱える。

 

 (そうなると、『今の』リリィの得意なこと、『能力』は……」


 姿を変え、その性質を変えたリリィは、新たな一つの得意分野、能力を手に入れていた。


 「自滅する代わりに、敵に必ず、絶対に、致命的なダメージを与える」という能力に。


 リリィはその能力を、“蜜”という死に瀕しても持ち直せるような強力なその力を、もう二度と生きることが出来なくなる程に、その一撃に注ぎこんだ。

 


 そして、ソレは確かに、“蜜”の力の大本、圧倒的な力を持つ、マアリに届いたのだ――



 「く、くそっ!くそくそくそくそくそぉ!リリィ、リリィ、よくも、よくもやりやがったなァッ……!!」


 状況を検証し終えたマアリは認めざるを得なかった。

 リリィに、完全に、してやられた。

 その上……

 

 「この炎……!チクショウ、全然消えないじゃないか……!!」


 ブーメランが纏っていた黒い炎。それがマアリの身体全体に、覆いつくすように燃え広がっていく。その炎のせいなのか……ダメージを再生するのに手間取ってしまう。

 そのため、マアリは“蜜”の力、「思い通りにする」その力を使って消火しようとするものの、意志でも宿っているかのように、その炎は消えることを拒んでくる。


 

 リリィの決死の攻撃によってもたらされた、腹をえぐり取られたダメージと、黒い炎。

 それへの対処にマアリは手間取る。


 そして、それは。



 リリィが花子に約束した、マアリの絶対的な、致命的な……隙になっていた。

 

 

 「……!?――ぐ、ク、あァ!!お前ら……オマエラァァァァァァァッッッ!!!」


 マアリがそれに気づいた時は、完全に手遅れだった。

 

 堕ちていくマアリ。その背後に花子が影のように追従しながら宙に浮かんでいた。

 マアリの首筋に大鎌の刃を向ける。その大鎌も、黒い炎を纏っていた。

 

 (『死神』――)


 その瞬間、マアリは花子が“真価の闘技場”で呼ばれていたその異名を思い出していた。

 

 (嗚呼、まさに、その通りだ――)


 

 黒い炎に包まれた、漆黒の骸骨。

 真っ黒いボロ布をその身に纏い、

 ……その手に携えた大鎌でその命を奪う。


 ソレはまさしく、ありふれていて、しかし何者にも抗うことのできない――



 ――――――――――――――――――――――


 

 ――死神の大鎌が、哀れな敵対者の首を、刈り取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ