5-6 若者たち-2
リリィと、アタシ。二人は、マアリを共に見据えている。
倒すべき、殺すべき相手として。
アタシ達二人の視線を受けて、マアリは溜息をついた。
「リリィ……キミねぇ。どーゆうことなんだよ。あの時はあたしに味方してくれたじゃないか。その隣にいる春野花子と殺し合いすらしてくれたじゃないか。何で今更。あたしに下半身をふっ飛ばされて、んでもってその隣の春野花子にぶっ刺されて、ゴミのように投げ捨てられて……そこから立ち直ってまで春野花子の味方をするって……いや、まったく。白状するとキミのことがさっぱりわからないよ、リリィ。」
その言葉に対して、少しだけ考え込むリリィ。
「確かに……私は、確かにアンタに同情して、アンタの力になろうと思っていた。だからこそ、花ちゃんと殺し合った。全てを賭けて、ね。そしてその、全てを賭けた戦いで、私は負けた。死んだのよ。その前も地球人の頃に一回死んでるけど。まぁ、その時の意味わからない内の出来事とはワケが違う。私の命も思想も全てを賭けて挑んだ戦いで、死んだ。私はその時、満足してたのよ。全部出し切ったと。もう悔いは無いと」
「……そういう事なら、やはり、リリィ。あたしがキミを生き返らせたのは、キミにとって本当に余計だったということか」
「……悪いわね。頼ってもらったっていうのに。でもね、そうよ。余計だったわ。私は、あの戦いに負けて、死んで、この世界から完全に退場した。それで良かった……」
「・・・・・・・・・・・・」
「まぁ、今ここに立っているのは、アンタに生き返らされて、そんでもってアンタと花ちゃんの戦いを見て、黙ってられなくなったから。私はね、いくら生き返ったって言ったって、また花ちゃんと殺し合うなんてゴメンよ。その話は終わったの。あの戦いが終わって、私にとって花ちゃんは、『大切な友達』に戻ったのよ。だから、前と同じように、助けたいと思ったし、思ってるの」
「……全く……本当に余計なことをしてしまったんだな、アタシは。あの戦いが終わったら、元の関係に戻るなんて……全く予想がつかなかった……」
ふぅー、とため息をつきながらマアリは空を仰いだ。
「……それで?だからと言ってどうするつもりだい、リリィ。確かに、あたしの力は無限では無いかも知れない。でも、“蜜”の力を一番上手く扱えるのはあたしだ、という事は変わらない。キミ達が二人がかりになったところで、結果は変わらない。勝つのは、結局あたしだ」
そうだ……マアリがとてつもなく強いのは間違いない。確かに、リリィがアタシの味方になってくれてもまだ厳しいのはわかる。だけど……
「それでも、アタシはまた戦えるようになったぞ、マアリ」
「……ふん。それが、どうした……確かに、キミを騙して追い詰めようとしたのは事実。だけどそれなら、正攻法で叩き潰してあげよう」
「そうよ、花ちゃん。勝ち目は確かにある。だけど、私達二人とマアリの力の差はまだ圧倒的。この差を埋めるためには、決定的な一手がいる。……私に、アイデアがある。それに乗って、花ちゃん」
リリィがそう言うと、リリィの手のあたりの空間が歪み、そこから何かが出てきた。
「……ソレは?」
「私の新しい武器みたいね。ブーメラン、かな。うん、私に似合ってるかも」
なんで似合ってるのかはよくわからないが、それは確かにブーメラン、らしい。
アタシのように真っ黒い炎に包まれた、真っ黒いブーメランだった。
「今の花ちゃんに似てるわね。何だか照れ臭いわ」
「……今更って感じだよ。『大切な友達』なんて今まで言われたこと無かったよ?」
「……私ね、ずっと花ちゃんに憧れてたの。高校時代、花ちゃんが不良グループを追い払っちゃったの、覚えてる?あの頃から、ずっと」
「……ごめん、覚えてない」
「でしょうねぇ。花ちゃんにとってはどーでもいいことだったみたいだし……」
「……アタシは、リリィとあの『アドベンチャー&トレジャー』であの変なコーナー探してた頃から、特別に思ってたよ、リリィのこと。だってあそこ、アタシ達二人で来た時だけ見つかったんだよ?凄い、特別な場所なんだって、リリィとアタシだけの特別な場所なんだって、凄いワクワクして、だからリリィとはずっと一緒にいようって……」
「……あのさぁ。キミ達二人がなんやかんやでラブラブなのはわかったから、そろそろあたしのこと無視しないでくれないかな。それとも空気読まずに攻撃していいかい?」
「「……すいませんでした」」
アタシ達二人は素直に謝った。うむ。そんな場合じゃないっすよね。
「作戦はこうよ、花ちゃん。このブーメランを私が思いっきりマアリに向かって投げる。それが当たって、マアリがひるんだ隙に、花ちゃんがその大鎌で今度こそぶった斬る。以上」
「え、えー……」
適当過ぎるだろうよ……
「勘違いしないで。『思いっきり』っていうのはね、ここでは『命を賭けて』っていうことよ」
「……え……?」
「どうせ本来死んでいる命。本来は余計なのよ、私のこんな出番はね……だから、この一撃に命を、全てを賭ける。絶対に、マアリの隙を作ってみせる。だから、そこを逃さないでよね、花ちゃん」
「・・・・・・・・・・・・」
リリィはあくまで、あの戦いの結果、「死んでいる」というのを大切にするらしい。
――そうだ、こんなの本当はおかしいんだ。それがちょっと間違いが起こっているだけ。
だからこそ、ただの一回だけ……アタシに力を貸す「だけ」にしているんだ。
……その命に賭けて。
「あのさぁ、作戦、まる聞こえなんだけど、リリィ。それがわかっていて、あたしがそんなんに当たってあげると思う?というか、当たっても意味があると思っているのかい?」
その挑発に、一切動じないで、リリィは向き合った。
「――えぇ、思うわ。アンタの死ぬ光景を、私はこの命を、全てを賭けて実現して見せる」
これ以上ない、固い意志を感じさせる言葉だった。
「あぁ、あぁ!そうかい、なら、やってみせろよ、リリィ!このアタシに届いて見せろ……!!」
リリィの一撃を迎えるように手を広げるマアリ。
今からの一撃に全てを賭ける心構えをするリリィ。
アタシは、逃しちゃいけない。
リリィが作る、マアリのその隙を。
信じる。絶対に疑わない。
リリィは、アタシが勝つ道を切り開いてくれる。絶対に。




