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1-6 ワタシハワタシ

 「――ところで花ちゃん」

 「何?」

 「とりあえずオオガミレンが世間的に大物だったってのは聞いた。今はかませ役になっちゃったけど。そうねぇ……『世間的に』はともかく、『花ちゃん的に』は、オオガミレンは……彼のバンド、音楽は、どういう存在だったの?」

 「どういう、って?」

 「もし、それらが存在しなかったら?」


 存在しなかったら?どうなんだろう。確かに初めて聴いた時は自分が今までに聴いたものが丸ごと馬鹿らしくなって、持っていたCDは全て売り払った。

 つまり、かなり影響されている、はず、なんだけど。

 

 「んー……何年かぶりにライブに行ったくらいには、入れ込んでたけど」

 

 でも今はそれも一時的なもののような気もする。

 今でも「一番好きなバンドは?」と聞かれれば彼のバンドを迷いなく挙げる。

 だけど今はその他の音楽聴かんでも良い、とは考えない。これはこれでとボケーっと他のバンドの曲も聴く。

 初めて聴いた「コピーキャッツ」、オオガミレンの声はアタシにとって確かに「非日常」だった。

リリィが死んで、ダラダラ過ごしていたアタシには、前まで好きだったものは次々と色褪せていった。新しいものは全て印象に残らない石ころのようなものだった。

 そこに「コピーキャッツ」が現れたこと、アタシがそれに強烈な衝撃を受けたこと、どっちも奇跡みたいに思えた。

久しぶりに「このまま終わってたまるか」と思えた。心臓がやかましく早鐘を打って、暴れ出したくて仕方が無くなった。

 そして「コピーキャッツ」は1年、2年と経つ毎にその鋭さと激しさを増して、その内敵なしのバンドになっていき……しかしアタシは真逆に、1年2年と経つ毎に彼らにこだわることが無くなっていったようだ。

 どれだけの「非日常」もある程度続けばただの白けた「日常」に変わり果てる。

 どんどん進化する彼らの音楽を聴く度に、聴いたばかりの衝撃を感じられていない自分に首をかしげる。


 凄いはずなんだ。

 進化しているはずなんだ。

 圧倒的のはずなんだ。


 これでも「駄目」だったら、アタシはどうすれば良い。この先ずっと、白けた顔で生きていかなきゃならないのか。

 嫌な予感がじわじわと、心に穴を空けていく。鳩尾のあたりが物足りなくなって逃げ出したくなる。

 それでも新曲が出る度に何とかチェックするくらいではあった。

 ……でも最近はそれすら覚束無くなってきたなぁ。アニメのオープングやってたこと知らんかったし。

 さっきオオガミレンが目の前で死んでもショックは受けて無い、わけじゃなかったけど思ったほどじゃなくて、「あーこんくらいのもんだったのかー」とかぼんやり思う自分がいるけれど……もしかしたら。


 「…………はっ」

 

 気付けば黙り込んでしまっていた。が、リリィは何も言わず、アタシの言葉を待っていた。長い時間待たせただけの言葉、という訳じゃなくてすこし申し訳なくなるけれど、とりあえず、

 

 「存在してなかったら……存在してなかったら、今よりもっと白けた顔してたかな」

 と答えておいた。

 リリィは、

 

 「うん。わかった」

 

 と答えながら、顔の輪郭が過剰にはっきりしたような……研ぎ澄まされた表情になった。

 

 「なら、賭けてみましょう。『最後のロックスター』にね。オオガミレンは……春野花子をギリギリで繋ぎ止めたのかも知れない」

 

 今度は非人間的なくらいに口角を上げながらニヤリと笑いかけてきた。何企んでやがる。


 「『最後のロックスター』は今のままじゃただのかませ役だけど。花ちゃんが今ここで強烈な主役になれたのなら、『春野花子の踏み台』くらいにはなれる。さぁ、あのオオガミレンを前座扱いにする準備はオーケー?まぁ……」


 リリィがアタシの服の襟首をひっつかんだ。


 「オーケーじゃなくてもぶち込むけど!!」


 ――全力でゲームエリア中心に向かいぶん投げられました。


 認識の追いつかないままにどっかーん、と地面に叩きつけられるアタシ。

 砂埃が舞い上がる。それが晴れた時にはヤ○チャっぽいポーズで地面に横たわるアタシをここにいる全員が目撃したはず。


 ……マジナニやってんすかリリィさん。


 そしてそんな目にあって普通に意識がはっきりしているのは、リリィに“蜜”の力でアタシの体を丈夫にしたからだろう。


 だからと言って人をぶん投げて衆目に晒して良い訳では無い。


 横たわるアタシのすぐ傍にリリィが降り立ってくる。アタシと違い観客席エリアから華麗にジャンプし綺麗に着地。


 「『真価の闘技場』にお越しの親愛なる皆様!!!」

 

 リリィが闘技場全体に響き渡る程の声を上げる。

 

 「この私、リリィの最初にして最後の推薦者をご紹介します!!!彼女にかかれば、今までの人類代表の代表者などただのシケた前座!!!春野花子です!!!」

 「いや、もう登場時からぶっ倒れてるんですけどーーーーー!!?」

 

 実況のマイク+拡声器野郎のツッコミが入る。いいぞもっと言ってやれ!

 

 「お、ヘタクソツッコミマイク!どうこの入場!インパクト大じゃない!?」

 「それ以前に可哀想過ぎるからな!?おいアンタ……花子チャン、だっけ?大丈夫かよ!?」

 

 むう、こいつ意外と良い奴。フラフラと立ち上がるアタシ。

 

 「大丈夫よ、この入場させるために“蜜”で強化したんだから」

 「リリィィィ……アンタねえぇぇぇぇ……」

 

 最早一発ぶん殴らんと気が済まんレベル!後先考えず拳を握りしめ振り上げようとしたその時、

 

 「その子が『花ちゃん』だね。リリィ」

 

 後ろから声が聞こえて、アタシは体をピタリと止める。

 振り向くと、地球人に宣戦布告した張本人、観客席エリアを埋める奇怪なヤツらのボス……全身黄色と黒の縞模様全身タイツで美しい容姿を台無しにした、マアリがニヤニヤと笑いながら立っていた。

 

 「花チャァァン……キミがそーなの?今まで選りすぐりの地球人がこの“ゲーム”に挑んできた……例えば、さっきのオオガミレンはゴール間近のCランクにまで上り詰めた……そんな奴らを“シケた前座”にできるのぉ?キミの名前……リリィに聞くまでぜんっぜん知らなかったんだけどぉ?」


 初対面のクセして馴れ馴れしく距離を詰め、絡みつくように声を掛けてくる。

 

 「近い近い。そんなことアタシは知らん」

 「まーぶっちゃけやってみなきゃわっかんないわね」

 

 としれっと言うリリィに対して「うぉい!あんだけ大見得切っておいて!?」とマイク野郎がツッコむ。

 

 「ハッ!いいじゃん大見得切ってナンボでしょ、こういのは!上手く行きゃあ立役者ヅラして威張り散らして、ダメだったらソッコー切り捨てるわ!」

 「ひでぇ……」

 「ひどい?フン、そんなんだからアンタは微妙なツッコミと空回りな実況しかできないのよ!」

 「ウルセェー!気にしてんだよ!」

 「もうちょいセンスがあればいいんだけどなぁ」

 「マアリ姐さんまで!?」

 「アタシはこのマイクさん応援する。他のメンツがアレそうだし、消去法で」

 「花子チャーン!?消去法!?消去法なの!?オレ自身には魅力ナシ!?」

 

 ヤケになって実況いじりに参戦する。ゴメン。八つ当たり先が必要だった。

 なんせ今や奇奇怪怪な観客達の視線を感じまくって全く落ち着かない。

 


 「アイツがリリィの推薦者?」

 「にしては冴えなさそうな……」

 「コレハズレじゃね」

 「でもあのリリィの推薦よ?」

 「見た目だけじゃわからないものさ」

 「でもオオガミレンとかローザ=カレンカとか超えられるか?」

 「無理かなー……地球人の限界はあれくらいだって」

 「とりあえず早く戦ってみろ!」

 「真価を見せてみなさい!」

 「視せろ!」

 「観せろ!」

 「魅せろ!」

 「みせろ!」

 「ミセロ!」


 

 ……これである。好き勝手な評価が落ち着くとミセロミセロの大合唱だ。うるせえなパンツでもミセテやろうか。何考えているのかアタシは。

 

 「何やかんやで期待されてるねぇ、花チャァン?ねぇ、リリィ、あなたの推薦ってのはこういうコト。ハズレだったらみーんなのシツボーの視線で気まずーいよぉ?」

 「そんなことどーでもいーですよー」

 「まぁそうねーヘタレ地球人じゃあるまいし、他人から見て、なんて一々気にしないか」

 「いやー私も元地球人なんだけど」

 「そうかなぁ?キミはクソッタレなことにクソッタレとちゃんと言える。そりゃ地球人には無理無理。リリィは今や我らキブカ星人の方に近い。だからこそ、あたしの能力に選ばれたのよ?一応無作為ではあるけど、それでもクソッタレだけは絶対に選ばないモノだし?だからまーあたしの子供達には元地球人ってのは少ないんだよー……どうしても人間以外の生命か創作物とかが多くなるんだね」


ボロクソだな地球人。何があったんだコイツに。


 「それで?リリィ、花チャンはあなたと別れた時そのままだった?」

 「いや、違うと思うわね。壊れていた、と言ってもいい」

 「壊れてる言うなよ失礼な」

 「そうだよね。あたしの言った通りってとこかな?」


 アタシの抗議を無視してマアリが話を進める。


 「地球人はよく『成長』なーんて出来もしないことを平気で言うけどねぇ。実際はズルズルとクズになってるだけよねぇ。あいつら自身が作り出した世間の風にさらされ続けて、時が進むにつれ腐っていく」

 「知識が増えれば賢くなったと信じちゃってさぁ」

 「体が大きくなれば強くなった、とかさぁ」

 「どっちにしろまともに扱えないクセにさぁ」

 「カビだらけの体でドードーと歩き回って、綺麗なヤツを徹底的に痛めつけて、自分より汚いヤツにはヘラヘラペコペコするのよねぇ」

 「リリィの花チャンだって、そんなとこにいりゃあ壊れるさ。4年も離れてりゃそりゃ同じとはいかないよぉ。もっと早くスカウトしちゃえば勝ち目もあったかも知れないのにー」

 

 「……よくわかんないけど。ぶっちゃけテキトーに言ってるでしょ」


 アタシが一応抗議する。いや別にマジに議論するつもりはないけど。メンドクサイ。でもどーもふわっとし過ぎで、わかりづらくてつい口を挟んでしまった。


 「まーね!ぶっちゃけ地球人に宣戦布告した理由なんて『もういいんじゃね?滅ぼしても』みたいなノリだし!」


 いっそ清々しい。もう自分の主張を伝えようとする気概が一切なく、


 「まぁそれでもいいじゃん?」


 態度は虫ケラに対するそれだった。

 敵意も殺意もなく、陽気にも思える口調とは裏腹に底なしの無関心がサングラスの奥にある目に映っているようだった。


 「……それでも。間に合ったかも知れないわ。花ちゃんは壊し方を知らないの。本当の青春の味を知らないの。だからこそ、ここで何かを成すのかも知れないわ」


 リリィが祈るような口調で答える。


 「人間のエネルギーには限りがあると思うの。今までの代表者はそれの使い方を知ってる人達。どうしたって今までに使ったエネルギーの分、この“ゲーム”に使えるエネルギーは少ない。だけどここに使い方を知らず、今まで燻るだけだった花ちゃんがいる」

 「おいコラ」

 「その使い方を、青春の過ごし方を示してあげれば、彼女は今までの閉塞から解き放たれ、存分に戦士達に八つ当たりして大暴れしてくれる。……はず」

 「はず、かぁ……」


 なんつーか信頼がテキトーっていうか。

 というかリリィもマアリも言ってることに具体性ゼロというか具体性を持たせようともしてないっつーか。


 「もうふわっふわっなんだけど2人とも。具体性ってやつが……」

 「何よ!グタイセーグタイセーって面接官か何かなの花ちゃん!」

 「そーだそーだ!具体的だったら真実に近づいているのか!そんな風に思えるのは自惚れてるからだよ!やーいやーいヘタレ勘違い地球人―」

 「どっちにしろ間違ってるかも知れないのは変わんないの!むしろ自分が知ってるってだけの具体例出して説得力マシマシ画策とか詐欺師めいてるじゃない!」

 「ぎゃははは詐欺師!ウケル!でもその自覚ないんでしょ!?」

 

 「おいおい……もういいだろ、観客のヤツらのコールやばいってぇ」


 おお、マイクさんナイス仕切り。やっぱマトモなのコイツくらいじゃね。



 「ミセロ!!!ミセロ!!!ミセロ!!!ミセロ!!!ミセロ!!!」



 「ヤヴァイってーマイクさんー……ミセロ!!!って何をだよ。アタシの全裸でも見せりゃいいの?わがままぼでーミタイのかね」

 「……オレさぁ……アンタがリリィに推薦された理由が分かった気がシタ。なんつーかほとばしるヤケクソ具合が」

 「アタシは正常です。アタシはアタシです」

 「地球人って自分と違うヤツは怖がるもんだろ。でもアンタは、『コエーマジコエー……だから何?』とでも言いたげじゃねーの。オレやマアリ姐さんにもフツーに絡んでるし」

 「もうここまで来るとヤケクソにならないヤツの方が珍しいって。ラリパッパ」

 「あーあぁ……まぁいいさ、オレもそろそろミタイ」

 「全裸を?それともむしろ何かコスチュームあった方が燃えもとい萌えるタイプ?」

 「チガイマス。アンタのそのヤケクソでどこまで我らの戦士達をどこまで()っちまうのかをだ。Zに始まりAが頂上。どこでアンタは終わるんだ?もしや最後まで終わらなかったりするのか?」

 「知らね。マイクさん知ってる?」

 「バァカ。……ついでにオレの名前はマイクさんじゃねー。マイクンだ。ヨロシクゥ!」

 「ほとんど変わってねーじゃねえか!その体にくっついてる拡声器の要素ゼロじゃん!アタシよりそのネーミングの方がよっぽとヤケクソ!」

 「ウルセェー!気にしてんだよ!」


 そう捨てゼリフを吐きながら、マイクンが飛び去って行く。

 それを目で追っていると、この前見たUFOがふわふわ浮いていた。

 違うのはかなりちっこくて、全面ガラスばりみたいにスケスケなこと。そのUFOにすっぽりマイクンが乗り込んでいった。


 「んじゃ花チャァァン……せいぜいキバれぇー。キバリすぎて脱糞しないように。失禁くらいにすべし!チャオ!」


 最低のセリフとともにマアリが観客席に飛び去る。


「よっしゃあ!!!始めるぜぇ先走り気味のオマエラ!!!春野花子、テメーの『真価』見せてみろぉ!!!」


 うおーだとかぎゃーだとかいやっふーだとか観客席エリアからの振り切れたテンションの歓声に囲まれるアタシ。……てか待て待て、もう始めるの!?


「さて、花ちゃん……力を。アタシから“蜜”をあげるわ」


 そうだ、力を……“蜜”の力がもらえるはずだ。

 だからそれまで待つべし。


 「Zランク、『ブラトビー』、入場!!!最低ランクと侮るなよぉ……大体の代表者が最初のこいつにぶっ殺されるんだからよぉ!!!」


 だからマテー。


 地下に降りたはずなのに頭上に広がっている青空から何かが降りてくる。

 見るとやはりどこかで見たようなデザインをしていた。段々近づいてくる。

 はっきりと見えるとこまで来ると、ちょっとオエッと言いたくなった。

 ……ゴキブリ、略してGだ。それにとってつけたような手足がニョッキリ生えているだけの手抜きデザイン。もうちょい凝ってマイルドにしてくれると助かったのだけど。

 地面に降り立つと、どこからともなく真っ黒いナイフを取り出し、アタシに向かって構えてきた。


 「うー……なんでGをモチーフにするんだよぉ。いやむしろモチーフってかまんまだけど」

 「フン……見た目で舐めていると痛い目に合うぞ、地球人よ」


 やたらクールな口調で警告するG野郎だった。


 「いや舐めてはいません。むしろイヤすぎてビックビク」

 「貴様らの方がおぞましい生き物の癖に怖がる必要があるのか?」

 「知らんわい」

 「スリッパ片手に差し迫った表情で俺のオリジナルを追い回すじゃないか?自分があんな醜い顔をしている事に貴様らは見事に耐えて見せるのだからな。その精神はさぞ強靭なのだろう?」

 「エライっしょ?」

 「…………ハァ」


 ため息つかれた。G野郎に。


 「まーとにかく少しマテ。“蜜”の力まだもらってないんだよアタシ。リリィー早く早くーぷりーずぷりーずみー」

 「ああ、待ってやるさ……」

 「ヨシヨシ」



 「――待ってくれるっぽいし。リリィー、“蜜”くれ“蜜”」

 「花ちゃん」

 「なにー?」

 「――力には代償がつきものよ?」


 キタキター。ベッタベタ。そこらへんは王道なのね……


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