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5-1 《?悪役は高い所がお好き?》

 「ここかぁ。……こりゃ思ったよりもさらに酷いなぁ。なーにが「この地球上で最も高い山」、だよ。なんでこんなトコまでしょぼいのかねぇ」


 最近独り言を良く漏らしている気がするよ。

 “蜜”の力の大本であるあたしは、気晴らしにどこか高い所に行きたくて、この場所に直行してみた、……だけど、やっぱりダメだな、コレは。


 あたし達は宇宙に多く存在する惑星を一つ一つ調査していた。それが「キブカ惑星調査隊」の仕事だ。あたしはその中の「マアリ班」の班長だ。つまり、ここ地球以外にもいろんな惑星を調査している。

 その中で、こんな山がミニチュアにしか思えないレベルのものを発見したこともある。

 ……あの山の頂上から見た景色は爽快で、「心が洗われるよう」っていうのはこういうことなんだ、と強く思った。

 

 だけどこの山は駄目だ。低すぎる。見える景色もどうも良くない。無駄足だったみたいだ。


 「うぅ……」


 思わず、不満げな唸り声が漏れる程だ。全く。どこか、スカっとするところに行きたいな。

 ……無理か。それにはまずこの惑星を出ないと。

 そんなこと、ココを調査し尽くしてわかっていた筈だ。

 全く、無駄に考えを転がしている。やれやれ、だ。


 一応この山の情報はかなり詳細に知っていたため、一々来ようとは思わなかったのだけど、「実際に体験すれば考えも変わるか」という無駄な希望を抱いてしまった。そして実際体験した結果もやっぱり無駄だった。嗚呼。



 「……こんな所でいかがなさいましたか、マアリお嬢様」

 「……セバスチャンかぁ。キミこそどうした。こんな所まで来てさ」


 あたしの仲間の一人、セバスチャンがやってきていた。

 アタシ達は地球人のように言葉を使わずに思いを伝え合う。

 ここではそれらを無理矢理言葉で表現することにしよう。


 「特にこちらからの用事はありません。しかし、急にこんな所に行ってしまわれたので、一応ついてきた次第でございます、執事ですので」

 「別に正式に執事にしてるつもり無いんだけどね……キミが勝手に言ってるだけじゃん。まぁいいけどさー。それがセバスチャンの趣味なんでしょ?」

 「ほっほっほ。まぁそうですな」

 「変わってるよねぇ」


 そうだなぁ。丁度良い話の聞き相手もいることだし、戯れに話をしてみるか。


 「考えてたんだ。リリィが、春野花子に敗北したあの“ゲーム”のことを」




 春野花子の“ゲーム”をきっちりと終わらせる―――

 そんなリリィの個人的な思いで行われたCランク戦名目の決戦。

 リリィは、“蜜”の「無限」の力をよく理解していたと思う。

 やはり、彼女こそが、アタシの創った生命の中で一番“蜜”を上手く使える。

 

 その彼女が、まさかの敗北。

 あたしは観客席で、彼女が黒い太陽に切り刻まれ、燃やし尽くされるのを見ていた。




 「チクショー!!!リリィも花子チャンも最高だァァァァァッッッ!!!!!最高のラスト“ゲーム”をありがとう!ありがとう!!ありがとう……っ!!!」


 実況のマイクンは大騒ぎだった。

 興奮し過ぎて最早何を言っているのかさっぱりだ。

 だけどそれに呼応するように、アタシの創った生命体だらけの観客たちは、今までで最高に盛り上がっていた。

 

 春野花子。彼女はその「真価」を存分に見せつけ、観客を興奮のるつぼに叩き込んだ。


 思えば、春野花子は最初からおかしかった。

 初めての戦いで“蜜”を手にした時、「暴走」してたというのに、そのまま勝利したのを皮切りに、それからも圧倒的な成長速度を見せる“蜜”の力を見せつけながら、破竹の勢いで“ゲーム”を勝ち上がってきた。

 リリィとの戦いの前には、その成長速度はあたしの予想を超え、彼女自身が“ゲーム”を退屈に感じる程にまでなっていた。


 そして、リリィとの決戦。「無限」に至っていたリリィを倒す程の“蜜”の力を身に着けることになる。

 春野花子は、リリィ以上に“蜜”の「無限」の力を理解して、引き出しているらしい。

 

 全く、ふざけている―――


 その決戦を見たマイクンは春野花子を全力で……全力過ぎて何を言っているのかさっぱりだったが、思い切り彼女の勝利を讃え、観客たちもそれに倣う。


 だけど、あたしは。勿論、当然、そんな気になれない。

 認めてなるものか。

 あの時あたしを思い、親友の春野花子と敵対してくれるほどの覚悟をもっていたリリィが敗北するなんて……

 それじゃあ、あたしはどうしたら良い?




 そんな答えを期待しないふわふわした話をしていると、セバスチャンは、

 

 「継ぎましょう。リリィの意思を」


 そう答えた。


 「結局、マアリお嬢様が自らお手を下すのなら、流石の春野花子にも対抗手段はありません。マアリお嬢様……貴方はただ、リリィには出来なかったことを代わりにすればいい。そして、その後でも今からでも構いませんが、リリィを“蜜”の力で蘇生し、地球人の絶滅させる計画を続行させればいいだけの話です」


 そう。“ゲーム”で敗れてこちらの“戦士”が殺されようが、その創造主たるあたしは、“蜜”の力で彼等を簡単に蘇らせられる。

 リリィとて、例外では無い。

 しかし。


 「……そう上手くいくのかね……」


 不安がよぎる。


 春野花子。

 アレはナニかがおかしい。

 その春野花子と正面からぶつかったリリィは、蘇生されたとして、以前のようにあたしの力になってくれるのか?



 「悪いね、セバスチャン。ちょっと考える時間が欲しいな」

 「……お気になさらず。時間ならいくらでもありますよ―――」


 

 回想の海に沈んでいく。あたしは、この惑星、地球を発見した時の事から思い出すことにした。


 改めて、あたしは何がしたいのか?

 それをハッキリさせなくては、ね。


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