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4-9 《?死神?-1》

 「いいぜ、リリィ。ぶっ殺してやる」



 殆ど原型をとどめていないその体から、どうしてそんな力強い声が出せるんだろう?

 ……決まっている。“蜜”の力だ。

 だけどアタシは、そんな風に冷静に正確に判断するのを、この状況では良しとしなかった。


 「春野花子だから」だと、言いたい。

 あの花ちゃんだから、ここまで追いつめてもまだ殺せない。

 そういうことだ。


 今、あの花ちゃんが持っていた黒いボロ布が一人でに動き出し、持ち主の体をすっぽり覆った。

 ……何か、刺しているような音が聞こえてくる。

 一体あの中はどうなってるんだろう?

 苦痛による微かなうめき声が聞こえてくる気がする。

 黒いボロ布の中の何かが、蠢いている。


 さぁどうなる。

 変身中とでも言うつもりだろうか。

 あのボロ布がはぎとられた時、花ちゃんはどんな姿をしているだろうか。

 まさかそのまま、肉塊のままということはあるまい。


 ここまで引っ張るんだ。期待して待っていよう。

 そして、「無限」に至ったであろう花ちゃんを、殺す。

 そうしたらやっと私も、何の心残りも無く、このクソッタレな惑星の人間達を滅ぼせる。

 マアリのせめてもの力になれるのだ。


 


 ピタリと、蠢いているのが止まった。

 そして、フラリと立ち上がった。


 

 見た瞬間、ゾワリ、とした。これは……

 「ベタベタだけど、『死の感覚』ってやつね」

 独り言が漏れる。


 アタシが引きちぎった両手両足が、骨だけになってはいたが、再生していた。

 その骨だけの四肢は、真っ黒い炎のようなものに包まれている。

 

 「骨だけ、なんてカ―ロスとかぶってるわよ、花ちゃん」


 軽口を叩く。

 真っ黒なボロ布。石でできた大鎌。そして黒い炎に包まれた四肢。ますますもって『死神』らしくなっている。



 「花チャン、立ちやがった……ッ!あの絶望的な状況から!しかも何だ何だその手はその足は!!オマエの限界ってのはまだ先にあるってのかぁ!!?」


 実況のマイクンが囃し立てる。アタシも昂っていた。

 ―――嗚呼。それでこそだ、花ちゃん。


 花ちゃんに向かって真っすぐに突撃し、手に持った大きな銀色の針での攻撃を仕掛ける。

 先ほどの演技の時とはまるで違うスピードだ。

 しかし、花ちゃんはそれを大鎌で受け止めて見せる。

 それどころか、上手くさばいて即座に反撃と言わんばかりに斬りかかってくる。

 

 アタシは貫く。

 花ちゃんは切り裂く。

 それをお互いに狙った攻防が始まる。

 アタシが後ろに回り込めば読んでいたかのように花ちゃんが大鎌を振り向きながら振るってくる。

 花ちゃんが突撃してくる、と見せかけて、フェイントをかけ、跳躍しながら上から大鎌で切り付けてくるのを、受け流して反撃する、が、それも避けられる。



 突く。振るう。突く。振るう。

 


 それまでの、演技とも一方的な展開とも違う、本物の「戦い」がそこにあった。


 アタシは「無限」の“蜜”の力を使い、花ちゃんと凄まじいスピードで展開される戦いに気分が良くなってきた。

 やるじゃない。本当にそれでこそ―――殺し甲斐があるってものだ。


 ギィンギィンとアタシ達の武器が打ち合う音。それに急かされるように、アタシの昂りも増してくる。


 「良い!良いよ花ちゃん!だったら……もっと行くわよ!」


 

 もっとだ。花ちゃんより早く、重く、強く。“蜜”の力よ、無限の力よ、アタシをもっと強くしろ!

 そう命じる。

 


 ―――渾身の力の突きを繰り出す。ギリギリで大鎌で防がれる。その時の衝撃で空気が激しく震える。

 

 「ここで、決める!春野花子、死になさい!」


 イメージするのは大鎌ごと花ちゃんの心臓を貫く光景。

 そして現実もそれに倣うように動き出す。

 大鎌にヒビが入った。

 さらにイメージを強く思い描きながら、力をこめる。

 ヒビが全体に広がり、そして……


 砕ける。


 そしてアタシの針は遂に花ちゃんの心臓に到達する。またも、真っ黄色な“蜜”がそこから噴き出して、アタシはそれを全身で浴びた。


 「ざーんねん。やっぱり私の方が上だったみたいね、花ちゃん」


 串刺しにした花ちゃんを『真価の闘技場』全体に見せつけるように掲げてやった。


 「あぁっ!!コイツは致命的な一撃ぃ!!やはり最後に立つのは『女王様』なリリィかぁぁぁっ!!?」

 「……ふんっ!」


 思いっきり振り回して無理矢理引き抜いてやる。その時の勢いで、花ちゃんの体は地面に叩きつけられ、ゴミのように転がった。



 あぁ。やはりアタシは強くなった。マアリを除けば間違いなくアタシが一番だ、結局。これで良い。




 ―――そんな風に考えていたものだから、その次に見た光景には多少、揺らいだ。



 あの真っ黒いボロ布がまたも花ちゃんに覆い被さっていた。さっきと同じように。


 (まさか、また立ち上がってくるって言うの?)


 そんな予感がした。

 いやしかし。


 (だから何だと言うの。アタシは「無限」に至っている。無駄だ、何度やっても無駄だ―――だが、しかし……)


 “蜜”の力をすこし変わった形で行使した。胸によぎった僅かな好奇心を満たすために。

 あの真っ黒いボロ布に包まれた花ちゃんが一体どうなっているのかを調べるために、「透視」をしてみた。

 “蜜”は「思い通りにする力」なんでもありなんだから、ああやって隠されたものを暴く手段などいくらでもある。

 

 そんな軽い気持ちで透視してみたが、その中の光景は想像を絶していた。



 あの真っ黒いボロ布は、内側に大量の、アタシが使って見せたような小さな針がびっしりとついていた。

 それを持ち主に向かってひたすら突き刺していたのだ。

 戸惑いながらさらに詳しく情報を探る。すると、理解した。 


 間違いない。あの針にはアタシの物と同じような「毒」が含まれている!

 花ちゃんは、初めて“蜜”の力を手にした時と同じように、今「死」に至る毒に耐えて。

 先ほどと同じように、「死」という未知から、さらなる力を手にしようとしているらしい。

 


 もしかすると。花ちゃんはこれから何度打ち倒しても、ああやって力を得て舞い戻るのかも知れない―――


 そう考えると、僅かに。ほんの僅かにだが。

 

 「恐怖」を、抱いた。



 

 またもゆらりと立ち上がる花ちゃん。先ほどより骨だけになった部分が多くなった気がする。

 その部分も先ほどと同じように、黒い炎に包まれている。

 その炎の勢いが増しているように見えるのは……



 錯覚に違いない。そうに、決まっている。



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