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4-5 幸せじゃないから死ねない-5

 「お父さん、ぶちかませ―」

 

 と母は言っていた。

 そしてホントに父はなかなか「ぶちかまして」くれた。超ド級のオヤジの説教を。アルコール漬け仕様で。

 まぁ、なんだ。世間的にはホントどーでも良い言葉の羅列だったのかも知れんが、アタシには実は必要なことだったんじゃないかな……?


 

 そう、家のトイレにしがみついてゲロをしながらふと思った。



 あの後はもーほとんど意識が無い。

 缶ビールを空にする。

 ゲラゲラ笑う。

 缶ビールを空にする。

 ゲラゲラ笑う。

 ―――缶ビールを一気に空にする。

 ……最早意味も無くゲラゲラ笑う。



 その結果がごの便器の、中の吐瀉物であった。いつしかアタシは一階、父は二階のトイレにしがみついていた。宴の会場となった父の部屋から近い二階のトイレを父に譲ったのはさっきの説教の感謝のつもりだ。

 アタシは口を掌で押さえながら階段を駆け下りる事になった。




 「……落ち着いた?」


 母はその吐瀉物吐いているあたりでささっと現れ、背中をさすったりしてくれた。

 おかげで今は、またリビングで親子の会話ができるぐらいには回復した。


 「……なんとかね……」

 「いや、すまん花子。やり過ぎた。うむ、アルコールはこれさえ無ければ完璧なんだが」

 「なんでもう完全回復してるの……」

 「一回吐いたらすっきりした。もう俺は小説書いている時に何度もやってる。耐性がついたのかも知れん」

 「何度もやってんのか……」


 全く。父のトンデモナイ側面を見ちまったよ。

 まぁそのせいで、今までよりずっと気楽に話せる気がした。


 「まぁでもイイ感じにぶちかまされたでしょ、花ちゃん!お膳立ては出来た。後は、やるだけよ!」

 「ちょい待って、まだ気持ち悪い」

 「あったかいお茶とかあるよ。飲む?マシになるかも」

 「……もらう」


 それを一気に飲み干したら、とりあえずの体制は整ったので、言うことにする。


 「また寝て考えるよ。これからどーすっか。アルコール漬けの勢いで決めていいもんじゃない。背中は押してもらってるけど、今からは自分で決めて、進む。あの一週間みたいに、寝ながらひたすら考えてやる。あのリリィとどう向き合うか、なんて一日二日じゃアタシには決めらんない」

 「世間のスピード感に無理に付き合わなくても良いのは無職の特権だな。だけどよ、花子。あの利里ちゃんはお前が考えている間、地球人を殺して回ってるんだぜ。長くなればなる程、その数は増える」

 

 その問いにアタシは敢えて、二ヤリと笑って返した。

 

 「んなもん知ったこっちゃないね。全然実感わかないよ。アタシが地球人の救世主ヅラするなんて似合わないし無理。そんなことより、自分の事を自分勝手になんとかしなきゃ」

 

 すると父も二ヤリと笑って


 「そりゃロクでもない。流石無職だ」


 と返した。


 「3月だ。3月の終わり、31日。そこまで、寝る。で、その日にはコンタクトをリリィに取ってみる。うん、キリいいし……31日でいいや。そこで、全部決める」

 「ほう。世間的にスケールデカい事決める割に、短いのな。四週間弱くらいしかないんじゃねぇか?」

 「いや、答えは何となく出てるんだよ。どっちかっていうーと、考える時間ってより覚悟を決める時間って感じ。だから、そんなモンでいいかなーって。キリの良さも考えて」

 

 何故かニヤニヤ笑っている父。


 「……利里ちゃん達の仲間になるのか、利里ちゃんと戦うのか。お前のその判断にゃあ地球人の未来がかかってるんだぜ。そうそう言い忘れてたけど、お前の他の代表者って全滅したらしいぜ。ニュースでやってた。代表者同士で連合軍ってヤツを作って、リリィと戦ってみたそーだ。そしたら利里ちゃんに返り討ち、だってよ!」

 「へー」

 「反応薄いなぁ!ニュースじゃそれを悲壮感たっぷりに伝えてたぜ?こーなると、地球人最後の希望はもしかしたらお前かも知らん。ま、他に代表者が隠れてたりしたら別だが?」

 そんなことを何故か楽しそうに言うのだ、父は。まったく、どうかしている。ついでに、アタシも。


 「『最後の希望』候補かーアタシ。ま、でもそれでもアタシのやる事は変わんない。『やりたいことをやるしかない』んだから。アタシが、アタシの為に、『やりたいこと』やってやんのさ」

 「そうかい、まぁ精々気張れ、我が娘よ。もし利里ちゃんがお前が目覚める前に俺らを襲ってきたら……」

 「―――引っぱたいて追い返してやるわ。花ちゃんが起きるまで待ってろって。花ちゃん、あなたが起きた時、絶対生きて傍にいるわ。安心しなさい」


 母が言葉を引き継ぐ。笑ってしまう。その表情を見てたら本当に「リリィがやってきても引っぱたいて追い返してしまいそう」だったから。




 「―――んじゃあ、3月の終わりまで。おやすみ」

 「おやすみ、花子」

 「おやすみなさい、花ちゃん」


 そうして、眠りに就いた。長くて短い、思考と覚悟の時間が始まる。掛布団を頭からかぶり外界から自分を完全にシャットアウトした。

 この時間の終わりに最初にやることは―――






 ―――最初にやったことは、あのテレパシーもどきでリリィに連絡をとったことだ。

 

 (オラァ!明日だ、リリィ!4月の1日!あ、エイプリルフール!とか言わんぞ!バトろうぜ!時間はいつも通り午後の三時だ!OK!?)

 (いいわよ)


 今度はすぐに返事が返ってきた。

 ふはっ決めちまった。

 リリィと殺し合うのか、アタシ。

 そう、アタシの「やりたいこと」は―――



 目覚ましも無い癖に、3月の31日の8時にばっちり目が覚めた。一階のリビングに駆け下りると、父と母があの時からまるでずっと待ってたように、当たり前にそこにいた。


 「明日!明日リリィとちょっとバトってくる!」

 

 そう言うと、微かに微笑みながら、父は

 

「……そうか」


 と静かに答え、母は、

 

 「だったらまずは食べて精力をつけなきゃ!肉ね、肉!」


 そう言って、庭に飛び出してほとんどつかったことの無いバーベキューのセットを組みだした。

 

 「もうあんまし寒くなくなってきたし、野外バーベキューよ!肉を食らいまくりなさい!」

 「うおー!」


 本当にとんでもねぇ親達だよ、アンタらは。


 

 ありがとう。おかげで、「やりたいことをやるしかない」……その言葉に思い切り従えそうだ。



 待ってろ、リリィ。


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