4-5 幸せじゃないから死ねない-2
アタシの父親は、小説家だ。それも、無茶苦茶ハードなSFモノの。
一回手に取ったことがあるけど、はっきり言ってさっぱりわからなかった。
だけど、その手の読者には恵まれているらしく、我が家の家計は火の車、なんてことになったことは無い。
その点では凄く感謝してる。アタシがニートになっても追い出されないのは家計に余裕があるから、ってのもあるからだと思うし。
だけど、父はいつも家にいても自分の部屋に籠りっぱなし。父自体があまり物を話さない、というのもあって、家族、ってわりにはほとんど喋らない。正直言って、「寡黙で、いっつも難しいコト考えてる人」ぐらいのイメージしかない。
その分、母とはよく話すんだけどね。
アタシがこの2ヶ月、やってきた“ゲーム”と、それに関連する色々な出来事。最初は必要そうなことだけ話そう、なんて思っていたんだけど……
「花ちゃん、それ。もっと詳しく」
「花ちゃん、その時どう思ったの?」
まぁ、母がこうやって質問をしながらアタシから上手く話しを引き出してくれる、ってのはありがたいけど予想を裏切らない感じではあるけれど。
「……つまり、お前は地球人を救おう、等と考えて“ゲーム”に参加していた訳ではない、と」
「成程。お前は“ゲーム”にスリルを感じ……それを楽しいと思ったし、生き甲斐の様に感じていたと?」
……父が結構深いトコまで突っ込んでくるのだ。喋らないで言おう、と思っていたことまで。
“ゲーム”を楽しんでいた時期があった、なんて不謹慎だと思う、他人から見れば。
だけど、
「わかった。続けてくれ」
その事に対して怒りもしなかったのが意外だった。
母はちょっと顔をしかめていたけど。
「ふむ、強くなり過ぎて楽しかった“ゲーム”が退屈になってきた、と。そうか。すまんな、話の腰を折った。続けてくれ。それから?」
……本当に意外だ。父は意外に饒舌で、どんどんアタシから話を引き出した。母はアタシが話疲れたな、と感じた時には絶妙なタイミングで休憩を提案して、美味しい飲み物を出してくれた。流石夫婦……って考えていいのかなコレ。アタシの口は回る回る。……なんかこういう仕事でも食っていけそうな二人だ。
……いや。この二人がアタシのコトを本気で考えてくれてるから、こんな上手くアタシから話を引き出せるのかも知れない、なんてふと思う。
―――家族、なんだよな。やっぱり。
こんな時にも関わらずそれが妙に嬉しかった。話していることがどんでもなく頭のおかしいコトなのに、アタシはすごく落ち着けたし、言葉を吐き出すたんびに楽になっていってるような気がした。
「うん、うん……で、現在に至るって感じ。こんなもんかな。終わり!」
―――本当に、本当に、本当に……全部話した。そう思えた。
本当に長い時間話し込んでいた。初めの頃は外も明るかったのに、いまや日は暮れて、そとは闇に包まれていた。
「花ちゃん、疲れた?」
「いーや。むしろすっきりした。むしろそっちはどーなの?凄い長い時間話聞いててくれてたけど」
「全然大丈夫よぉ。……決めたもの。全部知って、向き合ってやるって」
「……問題ない」
いや、全く。スゲェや、アタシのお母さんとお父さんは。頭が上がりません。いっそこの二人が“ゲーム”やってりゃあもっと楽勝だったかも知らん。なんて。
「……ところで母さん。酒はあったか」
急に父がそんなことを言い出す。母は冷蔵庫の中を覗きながら
「うん!大丈夫よぉ。……ね、花ちゃん、知ってた?たまにお父さん、酔っ払いながら小説書いてるの。駄目よねぇ、そんな状態で書いたもの少なくない読者の皆さんに見せようってのよ?お母さんもお父さんの小説は難しすぎてあんまり読んだこと無いけど、そんなの絶対痛々しい文章になってるわよねぇ」
それに対して、父は珍しく二ヤリと口角をあげた。
「痛々しくなければ小説では無いよ、母さんや。酔っぱらって『あれ、これもしかしたら馬鹿にされるんじゃねーか』なんて思うほどの文章を書くぐらいで丁度良い」
良いのか、ソレ。
「……母さん、いつもの缶ビール、多めに出してくれ。……花子、お前も飲め」
「ゑ?」
「腹割って話そうじゃないか。父さん、いつも殆ど喋らないだろ?溜まってるんだよ色々とな。今日はがっつりオヤジの説教を聞かせてやろうじゃないか。『青春』に戸惑う若者を導くためにな」
「は、え?せ、『青春』?アタシが?」
それはずっと前の話。
「なんせ花ちゃんには―――青春してもらうんだから」
そんなことをリリィにも言われた。
でもアタシは、
「30超えた女が青春ってナシだろ」
なんて相手にしなかった。そしてその後大暴言吐かれたりした。今もナシって思う。正直。だから、またその言葉が出てきたとき、アタシの心は揺らいだ。
「い、いや、『青春』って……30超えたら『若者』もキツいんじゃないかなぁ……な、ナシナシだってぇ……」
「バカ娘め。俺に言わせれば33なんて小娘みたいなもんだ。このドグサレゴミクズ自惚れ処女野郎め」
「お、おーい!?おとうさーん!?」
リリィと同じ大暴言を吐く父。あろうことか母もそれを聞いてクスクス笑っている。
「そうよぉ、花ちゃん。『青春』してるのよ、あなた結局。『青春』ってのはねぇ、そんな簡単に「卒業」!なんて言って縁が切れるモンじゃなーいの。お母さん達ですら、そうよぉ。多分人間死ぬまで『青春』すんのよ」
「年取って、変わってる様に見えて、でも結局は同じような事でずーっと悩み続けるのよ。生きていく内に『変わっちまったなぁ』なんて言いながら、本質はずーっと同じことで悩んだり、戦ったりしてる。『これから、どうする』なんて言ってるんだと思うわよ。ってのがお母さんの勝手な意見ね!」
「花ちゃんも今戦って、『青春』してるのよ。“ゲーム”で戦って……ちょっと前は退屈と戦ってたのかな。今は、リリィちゃんとどう向き合うのかって、考えることで戦ってる。『青春』してると思うんだけどなぁ」
「ふふ、そういや今思えば、“ゲーム”を楽しんでるころだったのかな……花ちゃん、いい顔してた時あったわよ。……うん。やっぱアレは『青春』を生きている人間の顔だと思うなー……」
「お、お母さんお母さん。なんかよくわかんないけど勝手に納得しないでよぉ……」
何のスイッチが入ってしまったのか母が熱弁モードに入ってしまっていた。
「ま、母さんの言う通りだ、花子。俺はちょっとはお前より長く生きてるんだ、『青春』との付き合い方ってーか殴り合い方を教えてやる、アルコールの力を借りてな」
「よし。お父さん。何言ってるか全然わかんないから。酔ってる?飲んでないのに酔ってる?」
突っ込みきれんよ。だけど、母は手際よく缶ビールを準備し始める。どうやら雨が降ろうが槍が降ろうが決行されるらしい。
得体の知れない「オヤジの説教」とやらが。
「じゃあお酒の準備できたし、お母さんはちょっと席外すわねーお父さん、ぶちかませ―」
と言いながら離れていく母。2階の母の部屋にでも行くんだろうか。っていうか『ぶちかませ』、ってアンタね。
「よし。それじゃあ覚悟しろよ花子。お前もとりあえず一缶開けろ。アルコールと面倒くさい話はいつだってセットにすべきだ。相乗効果でいい感じに手に負えなくなる」
「う、うわー……やばい。やばいからお父さん……宴が始まっちまう……」
どうやら今からベタベタかつ手に負えない酔っ払いトークが展開されるらしい。タスケテ。ぶちかまされる。
「……これも『青春』の1ページってやつさ、花子」
―――そう、またも二ヤリとしながら父が言った。始まりの宣言だった。




