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1-3 エレクトリック・ブギー

 そして起きた時には母どころか父も帰ってきていて、夕食の時間になっていた。

 窓の外は真っ暗。母が気を利かして寝かせてくれたのだろう。ありがたや。

 アタシはのそのそと一階のリビングに降りて、


 「いただきまーす」


 母の料理を食べる。んまい。

 ウチではいつも夕食時にテレビを点けている。

 今テレビでは「UFOに潰されるスターハント」みたいなニュースが流れている。


 もとい、流れている、という幻覚を見てしまっているアタシ。


 あー、なんだ、その。

 まぁだ疲れてるなーアタシ。いっぱい食べないと。めっちゃタベナイト。トニカクタベナイト。

 何かリビングの空気が微妙になっている気がする。

 具体的には母と父がテレビを見ながら固まっているっていうか。

 ま、気のせいだろう。一家団欒を楽しんだぜ。


 食べた後は風呂に入る。

 風呂に取り付けられた鏡に全裸のアタシが映る。

 ……ふむ。このあまりに平坦な体つきも幻覚の産物で実際はあの全身タイツ女並みのわがままぼでーだったら良かったのだけれど。


 鏡を見ながらふと考える。

 アタシのスペックときたら、まず無職。ニート。んで独身。

 モテましぇん。

 スタイルはわがままぼでー(笑)。

 顔に関していえば「美人でも不細工でもなく、かといって普通というにはなにか足りていない、絶妙に微妙」という評価をいただいたことがある。

 まあリリィには言われたのだけど。今日の蜂人間さんと同じ顔の人ね。決して同一人物ではありません。幻覚か夢だし。


 そして今日で33才。まあ順風満帆な人生だったとは言い難い。

 アタシが33才の無職独身貧乳女……という事実は、アタシが自分で考えている以上にストレスになっているのかも。そりゃあヤヴァイ幻覚も見ますわ。

 

 こうなりゃ明日からは男漁りだな!街コンとか行っちゃうかな?素敵な恋人とかいりゃあストレスなんて怖くないわ慰めてもらうもの!んーアタシ別に金持ちでもイケメンでも無くてもOKよ?


 愛さえあれば。愛こそ全て。イエス。もう寝るか。




 20時就寝10時起床という文句なしの早寝遅起きでアタシはキッチリと睡眠をとった。ので、昨日の様な奇天烈極まった幻覚などもう見ない……はずなのだけど。


 ええ、ええ、引き延ばす趣味なぞありません、事実を述べましょうとも。



 起きたら昨日の蜂人間が勝手に拝借したであろうアタシの漫画を優雅に読みふけっていた。



 「おっはー」

 「おやすみ」

 「いや起きなさいよ」

 「うっせ。アタシまだ疲れてるみたいだし。そのせいで変なヤツ見えちゃうんだよね。蜂人間とか」

 「まだ幻覚扱い――なら私にも考えがあるわ」


 そこからこの蜂人間が布団を引っぺがし、アタシの体をゴロンと転がしてうつ伏せにした後、素早くアタシの無防備なお尻にカンチョーをぶっ放してきた時の気持ちはただただ「たまげた」としか言いようが無かった。

 流れるような攻撃にアタシはなすすべなく悶絶。この年でコイツを食らうとは……そしてこの尻の確かな痛み。まあ幻覚ではないわな。

 というより幻覚だったとしてももうコイツを無視できん。

 なんせ躊躇なくカンチョーぶっ放してくる怪人である。

 これでもアタシが折れない姿勢を見せたのなら、次は何かましてくるかわかったものではなかった。


 「……何してんのマジで……」

 「悲鳴すら上げられなかったようね。これぞロシアのサンボの裏技」

 「いやこれはどこぞの眼帯忍者の技だろうよ」

 「まあこれで私の話を聞く気にもなったでしょう。それともそっちから質問したい?どっちも嫌なら……」

 「わかった、質問する」


 脅迫に屈したアタシ。お願いなのでその攻撃姿勢を解除してほしい。ピンと伸びた両手の人差し指を見てるとお尻に悪寒が……


 もう開き直ろう……もう現実逃避にすら疲れた。ド直球に聞いてやらぁ。




 質問1:貴方は「リリィ」本人ですか。

 答:YES


 「やっぱそうなるのね……」

 「何故にウンザリした顔をするのよ。悲しいわー」


 「リリィ」というのはあだ名。本名栄田利里。


 利里という名前から……というのも間違いではないけれど、彼女にとってはあるロックバンドの曲名から取った……ということの方が重要なのだ。

 彼女は昔から「異常なほど普通」な人間だった。

 学校の成績はクラス全体でも学校全体でも寸分ずれずに平均点。

 身長と体重もそれに同じ。

 多数決では必ず多数派にいる。

 ○×ゲームでも必ず多い方にいて、ひっかけ問題にあたるとたくさんの人達と一緒に退場。


 顔立ちは整っている方……というか整い過ぎなくらいである。

 顔のパーツ一つ一つが皆が「そこにあるべきだ」と思うであろう位置に寸分違わず置かれていて、「そうあるべきだ」思うであろう形になっていて……逆に全く印象に残らないというか。

 漫画とかでコマの端の方にいる美人なモブ、みたいな。


 正直、アタシは「普通って何?」とか聞かれても上手く説明できない。

 実際聞かれたら「めんどくせえヤツだな!」と返していると思う。

 「めんどくせえヤツだな!」と返すだけで実際まともな説明など出来ない。

 ただリリィの最早病的なアベレージ女っぷりを見ているとやっぱり「普通」としか言えなかった。

 彼女は間違いなく異常だったのだけれど、その異常さは「普通」という形で表れていた。

 異常ならば目立って持ち上げられたりハブられたりするもんだと思うのだけど、いくら異常でも「異常な程普通」では結局目立たず、持ち上げられもせずハブられもしなかった。

 

 だって、普通だし。


 それが良いのか悪いのかはよくわからないけれど、少なくともリリィはウンザリしていたのだろう。

 自己紹介の度に彼女は自分の事を「リリィ」と呼ぶように求めた。彼女なりの「普通」への抵抗みたいなものだったのだろう。

 その名はしばらく学校のクラスのノリのいい連中に使われたりもするけれど、いつの間にか使われなくなって最終的には大体「栄田さん」「栄田」と全くもって普通に呼ばれることになる。

 精々アタシぐらいだ、最後まで「リリィ」って呼んでいたのは。


 その他の彼女の「普通」への抵抗と言えば、道徳の授業でちょっと変わったこと言ってみたり、腹黒そうな冗談を飛ばしたり。

 あたしにしてみれば、ますます「普通」っぽいやり方だなぁ……なんてしみじみ思ってしまうことばかりしていた。

 そしてそれ止まり。

 

 まぁ、「普通」だし。


 そんなんでも顔と同じく何やっても「絶妙に微妙」な結果ばかり残すアタシには笑えない話だし、たまに羨ましくもあった。

 リリィに対してはともかく、普段は他のクラスメイトなんかにはまぁ、波風立たない言葉を選んで引っかかりなく会話するように心掛けていたアタシは、リリィと同じように目立つヤツでは無かった。


 だからだろうか。類は友を呼ぶ、という例に違わずアタシとリリィは何となくつるむようになった。

 中学、高校、大学、そして仕事場すら一緒。

 ……こうなると「友達」というより「親友」というより「腐れ縁」と呼ぶ方が、この関係を表すのに適している。


 そりゃあもう、ドロッドロに腐ってそう。

 

 その腐れ縁も、リリィが彼女の旦那さんと娘さんと一緒に交通事故に巻き込まれてぷっつり切れてしまった……はずなんだけど。



 質問2:死んだはずでは?

 答:生き返りました。


 「・・・・・・・・・・・・」


 いやそんな簡単に生き返ってもらっても困る!


 「嘘だッ!!!リリィは死んだんだよ!煙になったんだ!気ままに空を飛んでるはずなんだ!飲酒運転されてた車にぶっ飛ばされるっていう『普通』な死因で!最後まで『普通』だった!家族3人、昨日の生首よりグロイことになってたのをアタシは見たんだ!」


 ……そう、目の前で見たのだ。

 仕事終わりにリリィの旦那さんと娘さんが迎えに来て、帰り道の途中でアタシは自販機でコーラを買って、さあリリィ達と合流して……というタイミングで歩道に乗り上げる程無茶苦茶な運転をされていた自動車にぶっ飛ばされた。

 アタシは丁度事故を避けられた形になった。

 その仕組まれていたようなタイミングのせいか、アタシはあの光景を今でも奇妙な程明確に思い出せる。

 

 そこに彼女らが生存している可能性は無かった。一切。


 「突然だった!ハイクを詠む時間すら無かったんだ!」

 「不安になる……ちゃんと悲しんでもらえたのか……」


 アタシがあの後生気の無い無職女になってしまったのはそれが原因なのかも知れないなぁ。



 余りに唐突で。

 余りにベタで。

 余りに呆気なくて。



 その背景の無い彼女達の死は、何かの帳尻合わせのような強引さを感じた。

 この世界が一つの物語なら、彼女達は背景の一つにされる為に死んだのだ。

 だから、そんなことに無駄な手間を掛けられない。

 とりあえず「死んだ」という事実が欲しくて、それだけしか無かったのだ。

 そんな妄想に駆られてしまったのかも。


 アタシはそれからずっと、正体不明の閉塞感にこの世界ごと包まれている……そんな気持ちを振り払えずにいた。

 

 それなのに今はどうだ。

 リリィは目の前でピンピンしている。

 それどころか蜂人間のコスプレで適当な事をのたまい、カンチョーをぶっ放す怪人だ。ナニコレ。生き返った?じゃあもっとシリアスな感じでお願いしたい。

 

 ――やっぱりこの蜂人間はリリィの双子の妹ちゃんかお姉さま、と考えるのが妥当!

 リリィが「異常な程普通」だったから、この蜂人間は「普通に異常」ってことになったんだろう。反動的なアレで。何の反動かは知らん。

 この素晴らしい説を蜂人間に解説してやる。何が生き返りました。だ。ふざけんなばーか!



 「嘘ね」



 ……するとこれである。妙に落ち着きのある笑顔を浮かべながら、たった一言で切って捨てられる。

 

 ――まあ、そうだ。リリィとはもうドロドロに腐ってる腐れ縁だ。

 別人なら双子だろうが、何だかんだでわかると思う。

 「双子」か、なんて本気で思ってたらアタシはこんなに動揺なんてしていない。

 どれだけ訳わからん言動をしていようとアタシはコイツがリリィ本人だとどうしてもわかってしまうんだ。


 そしてそのことに気付いていながら、別の可能性を提示しようとしてアタシは自分に嘘をつき……こいつはそれに何の気負いもなく気付いて。

 その気付きはコイツがアタシをよく知らなくては出来ない。

 

 そう、それこそアタシの家族か、「リリィ」でもなければ。


 ……もう逃げ道は無い。

 これからこの蜂人間のことはリリィと呼ぶしかない。



 質問3:どうやって生き返ったの?

 答:“蜜”の力で。


 “蜜”?蜂だし、ってか?


 「そう、“蜜”。どこから説明しようか……そうね、この力はもともとマアリのものなの」


 マアリ。昨日の黄色と黒の縞模様全体タイツ女か。……もしかしてあのカラーリングって……蜂、ってことか。


 「元々この惑星にいる蜂達は彼女を元にして生まれたって説もあるみたい。逆ってこともあるかも、だけどあのパワーの差では、ちょっと考えづらいかな?」

 「確か……この惑星丸ごとと戦っても勝てる……とか言ってたっけ」


 信じがたい……けどあんなUFOとか持ちだしてくるヤツだし、それくらいアリか?


 「私はあの事故で死んだ後、彼女に“蜜”の力をもらって、蘇生したの。別に私じゃなくても良かったみたいだけどね。地球人の生態を調べる一環として、無作為に選ばれた死人を生き返らせ、それを元に新しい生命体を創ってみた、って感じね」


 「創ってみた」って……「歌ってみた」とはワケが違うって……どうやらかなりイッちゃってるヤツらしい。


 「そんな感じでマアリは地球に来てから仲間を増やしているわ。別に死人じゃなくてもいい……例えば生ゴミ、テレビ番組、漫画の中のキャラクターや漫画そのもの、絵画、動物、自然現象、機械……とにかくありとあらゆる事象からマアリは命を創り出せる」

 「それにはマアリの『蜜』がたった一滴あればいいの。少し指を切れば、人間なら血液が流れるところが、彼女の場合一滴真っ黄色な『蜜』が零れ落ちる。人外キャラは血の色が赤色じゃないっていうのはお約束よね?」


 その『蜜』にマアリの「創る」意思が込められれば、ありとあらゆる事象から無作為(マアリが望めば作為的にも出来るらしい)に選ばれたモノを元に新たな生命体を創り出せる、そうな。

 

 「別にみんながみんな蜂人間になれる訳じゃない。本当にさまざまなモチーフをもった生命がウ産まれるわ。マアリと同じ『蜂』がモチーフの生命体……つまり私は期待の星ってところね」


 エッヘンと胸を張ってくる。スゴイネ。どーでもいいけど。



 「……まぁ今まで話したことはぶっちゃけテキトーに覚えてりゃいいわよ」

 「おい」

 「事実が大事なのよ事実が。マアリはぶっ飛んだ力を持ってる。それで私は生き返った。そしてそんな事が軽く出来てしまうマアリが、地球人に対して宣戦布告をしてきた」


 そうだ。そーいやそんな事言ってたな。無理ゲーじゃね。地球人。


 「でもマアリはすぐに地球人を絶滅させる訳じゃあない。マアリは例えそれがどれだけくだらないように見えても、一つの種族を滅ぼすことの重大さをわかっているの。だから、“ゲーム”で地球人の真価を見極めようとしている。まあベタよね」

 「その“ゲーム”ってのはあいつらの戦士達と戦って勝つこと……だったっけ?」

 「意外とちゃんと聞いてるじゃない。あんな信じらなーいって態度だったのに……ホントは案外受け入れていたんでしょう?」


 ニヤニヤと笑いかけてくる。ええい、無視だ無視。


 「そのまま戦っても地球人に勝ち目はないわ。見てて。“蜜”をたった一滴もらっただけの私でもこれぐらいは軽く出来る。」


 そういってリリィがさっき読んでいた漫画を拾い上げ、そのままアタシの部屋の窓を開け放つ。そこからは電線にカラスが何匹かとまっているのが見えた。



 「何を」するつもり、と聞く前にリリィが持っていた漫画をカラスに向かって投げつけてしまう。

 漫画がカラスの中の一匹にぶち当たる……と思っていたその時だった。

 

 まっすぐ投げられた漫画が不自然に軌道を変え、大きな円を描くように動き、カラスの群れをまとめて横薙ぎ!

 

 しかも、漫画をぶち当てられたカラスは吹っ飛ばされるどころか跡形もなく消し飛んで、影も形も見えなくなってしまった。

 

 ……ついでに、と言わんばかりにその漫画はブーメランのようにリリィの手元に戻ってきて、その姿はあれだけの威力をたたき出したのにも関わらず傷一つなかった。



 「返すね」

 「もういらねーよ……」

 

 キモい。これも“蜜”の力ってか。でも何だかあんまり驚けなくなってきた……

 

 「地球人の代表者として、戦士達……マアリが地球に来てから創ったヤツラと戦うことになれば、この力を渡される。この力を上手く使いこなして、ZからAランクに設定された戦士達を全て倒せば、地球人に生かす価値ありと判断され、マアリは見逃してくれる」

 「それしかアタシ達が生き残る方法は無いワケだ」

 「そうそう」


 ……なんとなーく次の展開は読めてきたぞ。



 「ということで花ちゃん、地球人の代表者やってみない?」



 キタキタキター!!やるわきゃネェだろボケェ!!

 ……って言いたいんだけどなぁ。


 「……ヤリマス」

 「そんなつれないこといw……え、マジで!?即答!?負けたら死ぬのよ言ってなかったかっけ!?いやでも何となく分かるでしょ……?」

 「いや積極的にやりたい訳じゃないって……」


 この話はかなりスケールの大きい話だ。

 んでもって多分全部事実なんだろう。最悪な事に。

 だから多分ここで退いてみたところで、結局巻き込まれる気がする。


 何よりリリィは恐らくアタシが頷くまでやかましく説得してきそうな気がする。リリィの復活後のテンション的に。

 それに、リリィが生き返ってまで持ってきた話を蹴った、となりゃあ後々気に病みそうなんだよなぁ……

 そうなるとただただ生きることすら辛くなる。


 “ゲーム”に負けたらそりゃまー死ぬんだろうが。

 だけど、このまま待っていてもマアリに皆殺しにされるだけ……チャンスを与えられただけまだマシかも知れない。

 疲れ切った33才無職独身貧乳女にしては、思い切った判断だろう。なんせ地球人の代表の一人になるのだ。ホめてホめて。


 「なーるほど……まあここで断ってハイさよならってしても花ちゃんは結局気になって気になってどうしようもなくなるだけかもね。……でもなんだかなー」

 「何?何か不満があるの。アンタの思惑通りでしょ」

 

 ふぅ、とため息をつきながら「ヤレヤレ」と言わんばかりに首を横に振るリリィ。なんか腹立つな。


 「私はさぁ……『こんな機会を待ってたんだ!!暴れるぜー!!』みたいなノリノリな感じか『自分はヒーローなんて柄じゃない!!』なんてベタベタな葛藤を乗り越えて立ち向かう……みたいな感じを求めてたわけよ――それがコレですよ。ヤる気になって自ら進んだ訳じゃなく、状況を冷静に判断した結果、その方がマシだと、ヤレヤレとボヤキながら戦いに赴く……随分頭のおよろしい判断だこと。つまらない女になったわね花ちゃん!!」

 「そこまで言われるような事なのか……」

 「あーこりゃ駄目かもなー……前の花ちゃんのままなら相当期待できたと思うのだけど……何のためにスカウトしてきたのやら」

 「スカウトって……何でそんな事やってんの」

 「あー……まあその辺のことは後でもいいじゃん。説明ばっかでタルくなってきたわ」

 「おい」

 「というより覚えるのもメンドウでしょこんなに色々と。重要なのは花ちゃんが異能力バトルしてハーレム築いてギラギラと輝く少年漫画やらラノベのごとくアツい青春を過ごすことにあるのよ」

 「ハーレム要素この話にないじゃん……つーか30超えた女が青春ってナシだろ」


 するとリリィはさっきよりも深くため息をついて……そこから大きく息を吸い込んで、




 「このドグサレゴミクズ自惚れ処女野郎がっ!!!」




 ……大暴言を吐いた。リリィさん……処女野郎って……処女は合ってるけど。


 「――今の花ちゃんはねえ、たかだか100才超えた程度で『あせらなくても、だいじょうぶ』みたいなゲロモノなタイトルの人生指南書を達観ぶって書いちゃう仙人気取りのジジババどもと何も変わらないわ!んがー、こんな自惚れ馬鹿が地球にゴキブリレベルでうじゃうじゃいるから『もう絶滅させていいんじゃね?』とかマアリに言われるのよ!」


 色々怒られそうだ。

 リリィは大幅なキャラチェンジを成し遂げたのだと認めざるを得ない。

 だけどリリィ……普通が一番なんだよ、マジで。今実感してる。



 「……あーもういいや。とりあえず“真価の闘技場”に行きましょう。ちょっと一回痛い目見なさい。まあ痛い目みた後反省を生かす機会ないまま死ぬかもだけど」

 「えー……てか今から?」

 「そうね」

 「はえーよ」

 「どうせ暇でしょ33才無職独身貧乳女」

 「んぐぅ」


 外出だよ2日連続で。アクティブ花子。最近にしてはという話だけど。

 とりあえす親に言ってから……あら、親?

 そういや今まで特別声を潜めて話してた訳じゃなし……親のどちらかから「何一人でしゃべってんの!?」的イベントが発生してない。

もしやとうとうご乱心、とか思われたか。


 「親ぁ?どーでもいいじゃんそんなこと。親ってのは子供が元気に暴れ狂っているのが望みで、他は特に何もいらないわ」

 「嘘だろそりゃ……」

 「一応私も元子持ち」

 「じゃアンタだけだ」

 「かもしれないわね。まぁ私がちょいと洗脳しておいたんで一々お伺い立てんでも大丈夫」

 「ナニしてんの!?」


 もうやりたい放題か。どうせ“蜜”の力でアレコレしたんだろうな。ご都合パワー。


 「具体的には『私たちが今回の件についての話していても気にならなくなる』のと『私の存在が知覚出来なくなる』のと『花ちゃんが新しくアルバイトを始めた』と思い込ませるって内容ね」




 「花ちゃん!お母さん、応援するからね!」


 ……1階に降りると良心のきりきり痛む言葉を母からかけられた。

 ツライ!スマン!


 「う、うむ……」

 「でも辛かったらいつでも辞めていいんだからね……無理しないでね?」

 「は、はい……」


 そしてアタシの後ろの蜂人間には全く気付いていない。洗脳ヤバイ!コワイ!

 普段無口な父からも「……頑張りなさい」と重く、しかし温かい言葉を頂く。

 ああ……お母さん。お父さん。ごめんなさい。不出来な娘をお許しください。

 何かよくワカラン場所に行く娘をお許しください。


 「イッテキマス」

 「いってらっしゃい!」



 ああ……畜生……コンチキショウ。

 お母さん、お父さん、花子はクソッタレです。

 アタシの決断はウカツでヤケクソすぎたのではないか。




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