4-5 幸せじゃないから死ねない-1
「―――今日は地球人の皆様に伝えたいことがありまして、ここにやって参りました。……他の番組で私の事をもう見られた方もいらっしゃいますでしょうが、こうして繰り返す事も私の目的と一致する部分もありますので……まぁ、こんなこと、繰り返し見なければ実感なんてできないでしょう?」
画面の前のリリィが話しだす。
一週間も部屋に閉じこもっていたアタシが部屋を出て、まず行ったのは親にリリィが出ていたテレビ番組の一つでも録画していないか、ということを確認することであった。
まぁ無いだろう、と思っていたのだけど、意外にも一つの番組を見せてくれた。それは、両親の確認できる限りで、ここ最近のリリィの乱入した中で、最後の番組だそうだ。
討論形式で進んでいく筈だったその番組は、生放送でも無いに関わらず、リリィの凶行から宣言までを克明に放送していた。
そんな内容でもそのまま放送したのは、その暴力で持って脅迫でもされたからか?いや、しかし地球人の「皆殺し」を宣言しているやつに脅迫にされたところで結局行き着く先は一緒なんだし、意味ないと思うんだけどなぁ。
……いや、やっぱ感情的にはそんな風に割り切れないのが普通か?まぁ、脅迫が効かなかったらまた“蜜”の力で洗脳でもすれば良いかな。
「いまから流れる映像は、「リリィ」と名乗る者の襲撃によって、本来の内容とは異なるものになってしまいました。しかし、それでも我々はこの映像を公開致します。これは、実際に起こっている、私たち人類の危機なのです。―――辛くとも、見るべき映像です。……では、どうぞ」
番組の冒頭に、ベテランのアナウンサーのそんな言葉があった。自らの意思で発言したものでは無いのかも知れないが、内容としては正しいのかも知れない。
もう立候補した代表者と、それ以外の地球人。もうリリィはそれらに区別をつけてはいないのだ。
「……“ゲーム”というのは元々地球人の真価を見極めるために行われていたもの。これを考え、提案したのはこの私、リリィです」
「私は絶望しました。貴方達に。その為に、“ゲーム”は中止になるのです。私はこの“ゲーム”の言い出しっぺとして、責任を取ろうと思っています。地球人の絶滅させるこの計画を進めるのは、この私、リリィのみで行います」
この私、リリィです―――という物言いに、少し違和感。いや、言っていることは間違っていないのだけど。
……駄目だ。考えがまとまらん。
「……では、そろそろ失礼します。いつかTVの前の貴方も殺しに参ります。それまで、どうぞ充実した余生を過ごせますよう……」
見終わった。改めて見ると、何だかリリィに抱いていた違和感がまた膨らんできた。何かアタシが知らないことがある。
でも、リリィはソレを教えてくれないだろう。
教えてもらえるには
知るためには
暴くためには
どうすればいいだろう?
「まぁ、とりあえず、ありがとう」
番組を見せてもらったお礼を上の空で言ったアタシは、また思考の海に落ちようとしていた
だが。
「―――緊急家族会議よ」
「……?」
母が急にそんな事を言い出した。
「リリィちゃんの顔をしたあの娘。“スターハント”が潰されたのと同じ時期に『アルバイト』なんて始めたあなた。一週間も食べずに眠っていた癖にピンピンしてるその体―――まぁ、もっと早く気付くべきよね。親失格かも。だから、今更で申し訳ないんだけど」
「あなたの『アルバイト』とやらの話、彼等……キブカ星人、と言ってたかしら……その人達の話。その他もろもろ。全部話してもらうわよ。私達、花ちゃんに向き合ってみせるわ。全力でね」
父もゆっくりとこちらを向いて、
「話してくれ、花子。……全部だ」
と重く、しっかりとした口調で私に言った。
「……わかった」
もう隠さなくたって構わないだろう。そう考えると、こんな状況なのに不思議と気持ちが軽くなってきた。
母と父の顔がキリっとして見える。「大丈夫だ」と伝えてくれる。この一週間、アタシがリリィの事を考えていた(かもしれない)ように、この二人はアタシの事を考えてくれていたんだ。
「だったら、全部吐き出してやるー!カクゴっ」
妙に嬉しくなってちょっとはしゃいでしまう。そんなアタシをみて、父と母は微笑んだ。
さぁ、語ろうか。花ちゃんのここ最近のクソッタレでインチキでクレイジーで、しかもスケールはバカでかいっていう手のつけらんねーここ2ヶ月程のお話をな!
うーん……そう考えると不安になってきた。
それでも、母と父の覚悟の表情とその微笑みに手を引かれるように、アタシは語り始めた―――




