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1-2 リリィ

 ……2階の自分の部屋に入ると「ソイツ」に「おかえりー」と声を掛けられた。

 「ん、ただいまー」と返すアタシ。()()()()()()()()やり取りだ。


 「んじゃ交代ね。私休憩行ってくるから。よろしくー」

 「おー、いってらっしゃいー」


 そこまで話して「ソイツ」の顔を見た。……見間違いだ、と思って目をゴシゴシと乱暴にこすってもう一度じっくりと見て……聞きたい事が出来た。


 「ところでさ」

 「うん?」

 「どちら様でしょうか」

 「うわ、酷い!中学も高校も大学も仕事場すら一緒だったのよ私達!」

 「そういう事では無くてさあ」


 すると「ソイツ」はクスクスと笑い出した。


 「冗談よ……ってか反応遅いなぁ。最初普通に喋ってたし。いくら何回もしたやり取りとはいえもうあれから4年も経ってるのよ花ちゃん?()()()()()のがまだ乗り越えられないほどショックだったの?イヤーマイッタネコリャ!モテる女はツライなー!……なんかツッコミ欲しいんだけど」


 ……何か喋ってる。でも言葉の意味がアタシの中からざらざら抜け落ちて、結果アタシは愕然として、馬鹿みたいに立ち尽くした。


 「ソイツ」は奇妙な恰好をしていた。


 一言で言うなら……蜂プラス人間。何コイツ。言うなれば……蜂人間?


 背には2対4枚の翅。

 体は西洋ファンタジーに出てきそうな鎧みたいな感じ。鎧、と表現したけど、ゴツい感じじゃなくてかなりスリムな印象。カラーリングは黄色と黒のツートーンカラー。

 手足は真っ黒でやたら細い。手2本足2本以外に腰あたりにもう2本あるのは蜂だから、か?蜂の足はどれも6本とか言うし。


 そして顔。

 ここが一番おかしい。


 ――なんせ4年前死んだ友達の顔そっくりなんだから。


 交通事故で死んだんだ。

 彼女とその旦那さんと娘の三人は、暴走して歩道まで乗りあがってきた自動車にまとめてぶっ飛ばされた。

 間違いなく。なんせアタシの目の前で起こったことだから。


 「んんー……だんまりか。アイエエエ!?とかハチニンゲン!?ハチニンゲンナンデ!?とか……そういうイイ感じのリアクションが欲しいのだけど」


 呆然。という言葉では言い表せないくらいの状態に陥り、完全に思考停止したアタシは、「それってイイ感じなの?」というかなりどうでも良いことを口走っていた。

 それを聞いて、はぁーあ……、と大げさにため息をつきながらアタシの部屋のベッドにボフっと音を立てて寝転がる蜂人間(仮)。

 うむ。ベッド凹んでる軋んでる。アタシがついに気が狂って幻覚を見始めた、という訳ではないらしい。……多分。


 「全然締まらん。締まらないわ花ちゃん。ここは大親友との奇跡の再開に涙する、とか、混乱のあまり絶叫しながら逃げ出す、とかやってくれないと。そんなんじゃあ困るよ。なんせ花ちゃんには」

そこで言葉を切る。



 「青春してもらうんだから」



 ほう。青春かーそうかー懐かしいなー。


 「よーしオバチャン授業中机の下で携帯いじっちゃおうかなートイレの個室でご飯食うかなー学食でカレーばっか食うのも捨てがたいなー昼休み机に突っ伏して寝てるふりしよっかなー……」

 「あー、はいはいストップ。混乱してんのは十分わかった。でもね、今花ちゃんが言ったこと全部ナシ!青春は能力バトル展開に費やす、コレ最高!」


 知らんし。大体33才で「青春」はナシだろ。あと能力バトルって。少年ジャ○プ的な?無理。


 「・・・・・・・・・・・・」

 「……むう。まーただんまりか。わかりやすく驚いてもくれないし口を開けば微妙なことばっかり口走るしで全然話が先に進まん。らしいって言えばらしいけど。こうなりゃいっそ攻めて攻めて攻めまくるよ。いまどーなってんのかっていう事実をバンバン突き付けてやるんで決断よろしく。……さて、そろそろ時間かな?」


 そう言うとコイツはおもむろに部屋のテレビを点けて、


『爆笑新年会!初笑い!超豪華出演者が爆笑ネタ披露で元旦を爆笑で包みます!爆笑の12時間でアナタも爆笑新年スタートスペシャル!!』


 ……というなんだか爆笑というより微妙な笑みが顔に張り付きそうなタイトルの番組にチャンネルを合わせた。

 こういうのが趣味なのかこの蜂女。


 「この空回り気味なテンション……嫌いじゃあないけどね。もちろん爆笑させたい訳じゃないよ。これじゃそれは無理だろうし。さっき連絡しといたし、そろそろ出てきてくれるはず」

 「連絡?アタシが来る前にしてたの?」ってまたどうでもいいこと聞くよねアタシ。

 「まあ“私達”には普通の人間が使う電話とかよりも……というより言葉よりも正確に情報を伝達する手段があるのよ。それなら一瞬よ一瞬」


 自分で聞いた割に「ふーん」なんて興味無さげな反応をしてしまう。

 興味ないってかそれよりもずっと重要な事があるというか。

 ……でもそれって何て言えば良いんだ?言葉にできない。ラーラーラ。かなり参ってるなアタシ。そう、例えば、


「本当に生き返ったの?」かな。

「何その恰好?」とか?


 ハチニンゲンとか言ったか?コイツ。

 つまり「死んだ友人が蜂人間とやらになって復活した」と。

 

 アホか。

 

 それよりかは、「死んだ友人のそっくりさんが手の込んだコスプレで悪戯してきた」……まあこの方がいくらかマシだな。

 いやそっくりさんと言うよりも双子の姉妹とか。

 それなら「花ちゃん」とか言ってきたのもわかるんじゃないか。

 きっとアタシの話でも聞いてて馴れ馴れしく絡んできたのだろう。

 でも彼女に姉妹がいるなんて中学からの付き合いなのに知らなかったぞ。もしかしてアタシが思うより仲悪かったか。キツイ。

 ……でも今はその方がいいや。

 恐らくコイツは奇抜過ぎるコスプレに身を包み「トリックオアトリートォ!」とかヌかしてくるヤツなのだ。元旦とハロウィンを間違えるなんてドジッ子だなー。よしその設定でゴー。


 「あいつの双子の妹ちゃんだかお姉さまだか知らんがお菓子はあげないしイタズラもお断り。その衣装はよく出来てると思うよ……まるでモノホンのハチニンゲンね!いやモノホン知らんけど。ちなみにハロウィンにはちょっと遅い。あるいは大分早い。ドジッ子アピールもそこまで来るとあざといとか言うレベルじゃない。総合するとキャラ迷子の変態。帰れ帰れ」

 「ヒドーイ。フタゴチガウヨ。コスプレチガウヨ。ドジッコチガウヨ。ハチニンゲンダヨ。……みんな大好き“リリィ”ちゃんがドラ○ンボールも無しに復活して大親友の花ちゃんに会いに来たというのにキャラ迷子の変態と来たかぁ。ハラワタが煮えくり返る思いよ。いつもの私なら家中のお菓子を全てかっぱらい性的な悪戯をやり尽してやるところだけど今は気分がいいし栗きんとんあたりで手を打つわ」



 本格的に話が通じねぇ。警察呼ぶかな?

 コイツがアタシの友人の“リリィ”なわけが無いし、もし本人だとしてもカツ丼食わされながらみっちり警察の方に取り調べもとい説教食らった方が良い事態である。

 いや、カウンセリングとかで心のケア的な方向に持っていった方が良いか。

 きっとツライ目に合ってきたのだろう。

 アタシには関係ないから深入りはしない。……関係ないよね?

 いや、ここは一つアタシが説得してこのリリィの双子ちゃんに社会復帰の手助けぐらいはしてもいいだろう。アタシが33歳無職独身ってことは棚に上げて。


 「んあー……きっと生きてりゃいいことあるよ。だから上を向いて歩いていきなさい。そしたらツライことあっても涙こぼれない。だから手の込んだ現実逃避はやめなさいリリィの双子ちゃんよ」

 「どっちが現実逃避してるか……これからじっくりと考えてもわうわよ。ほらテレビにご注目。もう爆笑(笑)新年会はおしまいよ」

 「そう茶化すのはやめなさい!彼らも必死なんだよ食い扶持稼ぐためにっ!現実と向き合って空回りし続ける彼らの姿を君の目に焼き付けよ!!」とか何とか言いながらビシっ!とテレビを指さすと丁度「はいはいはいどーもどーもー!」と言いながら二人組の芸人が登場してきた。

 彼らに託そう・・・双子ちゃんの未来を!


 コンビ名は「ギルティ地球人」。

 ――ごめん託せないわ。



 コンビの一人は「セバスチャン」とか呼びたくなる老紳士だ。

 執事服決まり過ぎ。豊かな白髭がイカす。よくこんな逸材がいたもんだ……お笑い向けの逸材かは知らん。


 もう一人は……女性だ。それもスタイル抜群!ボンッキュッボン(死語)!

 見よ、健全なる男子諸君!

 男なら何時間でも撫でまわしたくなる(いや知らんけど)素晴らしき曲線美なヒップ!

 男ならそれに手を回し抱き寄せたくなる(いや知らんけど)締まったウエスト!

 男なら一度は顔を埋めたくたる(いや知らんけど)堂々たるバスト!

 いやぁ素晴らしい!サングラスもばっちり決まったセクスィ~な美女だ!

 そしてその最高の体を引き立てるのは……威風堂々と光沢を放つ黄色と黒の縞々模様の全身タイツだ!はい台無し!


 「さっきの言葉は忘れてくれ双子ちゃん……いくらなんでもこれは」

 「この人」双子ちゃんがアタシの言葉を遮る。全身タイツの方を指さしながら。

 「この人が、私たちのボス。今から地球人に宣戦布告するから、ちゃんと見とくよーに」

 ……よし訳わからん。そういうネタなのか。面白くなさそう。


 「地球人の皆さんチーッス!あけおめ!あたしマアリって言いまーす!こっちは執事のセバスチャン!」


 女の方が適当かつハイテンションに自己紹介。

 てか本当にセバスチャンだったのかよ。Hineri/Zeroだな。


 「彼には『セバスチャン』しかない、と私がボス……マアリに進言したわ。最近の新入りね」と双子ちゃん。

 「ボス」とか言ってるけどお知り合い?類は友を呼ぶのか。てか新入りってツラじゃねえよセバスチャン。


 「えー新年そーそーアレですが我々キブカ惑星調査隊マアリ班は地球人に宣戦布告しまーす。キシャー。一人残らずヤるつもりなので抵抗ガンバ。……ほらセバスチャン、ツッコミツッコミ」

 「どういうことですかな?」

 「いやココはさー『抵抗なんて意味ねーだろ!なんでやねん!』ってバシーっとツッコミ入れるトコよ」

 「ほっほっほ……なるほど、申し訳ありませんマアリお嬢様。精進致します。」

 「うんうん」


 Oh……こりゃあ大事故だわ。会場冷え切ってるぞ。笑い声一つない。なんでこの人達呼んじゃったのかな?


 「ごほん、言った通り抵抗は無意味です。ナッシン。何せあたしはこの惑星丸ごと相手に戦ってもフツーに勝てるくらい強いからです。えっへん」

 「なんでやねん!『戦っても』っていうか戦いにもならへんやろ!」

 「おお!イイ感じセバスチャン!」


 これずっと続くんすか。テレビ消してえ。

 

 「緊張で舞い上がってる、っていうかテキトーに喋ってるって感じだわ……救えん」

 「そりゃそうよ。花ちゃんだって虫ケラに話しかける機会、なんてのがあったとして一々話す言葉に気を使うと思う?」


 こっちにもツッコミ役が欲しいなあ。セバスチャン以外で。


 「いきなりそんな事言うわれてもわけわかんなーいとかほざいてくるであろう地球人の皆さんの為にもー、これから衝撃映像を見せちゃいます!……スタッフー、中継映像出してー。早くしないとマジな意味で首が飛んじゃうよー」


 女の言葉で画面が中継映像に変わった。

 映像にはここ数年で建築された、この国で最大の高さを誇る建物……「スターハント」が映っている。

 中はこの国最大のショッピングモールで、ついこの間死去したこの国のトップの大企業のトップが全財産をつぎ込み建てられた……説明時に「トップ」だの「最大」だのといった言葉を何回も使わなければならない大分頭のおかしい建築物。


 金持ちの考える事は凡人には全くもって意味不明である。

 それでもなんやかんやで今やこの国の象徴のような存在だ。

 その「スターハント」の上には……巨大な銀色の円盤が浮かんでいた。

 

 「ナニコレ。CG?」

 「キブカ惑星調査隊の使う乗り物よ。ほら、地球でもたまに目撃情報出てるじゃない?いわゆる『UFO』と呼ばれてるアレよ。正式名称『飛行調査機円盤型』まんまだから覚えやすいでしょう?」

 「……まあデザインはUFOのイメージピッタリの銀色の円盤だけど。まあCGだよね。……だよね?」

 「そんなにCG説を推したいの?まあ今にわかるわ」

 

 本物であってたまるか。

 

 「あのスターなんちゃらってヤツさあ、私達から見ればちっこいけど……この国の象徴みたいな存在なんでしょう?……んじゃあ、現場のムサロウさーん、やっちゃえー」

 

 その言葉を合図にしたように「スターハント」上空に浮かんでいた円盤がギュンギュンと音を立てながら虹色に発光し、激しく振動しだした。なになにビームとか撃つの?

 

 「花ちゃん、今から起こることを目に焼き付けなさい。そうすれば彼らが本気だってわかるはずよ」


 そう双子ちゃんが言った次の瞬間、



 円盤が急降下し、押しつぶすように「スターハント」とその辺り一帯の建物全てを……ペシャンコに破壊してしまった。



 ……訳が分からん。どういう展開よこれ?


 何だか妙に映像が生々しい。CGだよねCG。すげーCGすげー。

 

 すさまじい破壊の映像。なのに私は、なんだか、急に視界がぼやけて。


 ふらふらと、ゆらゆらと、ぐにゃぐにゃと、揺らいで。溶けて。消えて。



 「――はーい、いかがでしたかー地球人のミナチーン!」


 テレビから聞こえる女の声が呆然としていたアタシの意識を呼び起こした。

 ……だけどまだ何が何だか。



 「さ……さっきのって……さっきのってCGだよね……」


 何とか声を絞り出す。 

 ――そうだ、CGだ。CGに決まってる!


 でもこんなにも頭の中がぐしゃぐしゃになっているのは何故?

 どうして「こんなのウソでしょ」と笑い飛ばせない?

 さっきの映像が作り物だってどうして確信を持てない……!?


 「まだ言うの?そんな事して何の意味があるの?本当に潰したが故のあの迫力よ。なんとなくわかるでしょ」

 「……あの光ったり震えてたりしてたの意味あるの……?」

 「演出じゃない?ていうかどうでもいいでしょそこ。逃げちゃ駄目ダッ」


 なんだろう?今のは。いや見たこと自体は単純明快なんだけど。


 「まあ実際この目で見ないと信じられない、という気持ちはわかる。あれだけやったらあの辺りは封鎖されると思うから実際見に行くのは厳しいかもだけど。でも大騒ぎになるわ、この国中が。きっとこれからしばらく報道の内容はこれ一色になる。そうしたら……CG?なーんて言ってられなくなるわよ」

 

 正式にこの出来事が報道される。

 冗談でやっていいことじゃない。

 そうなったら確かに現実と認めるしかない。

 ベタベタなデザインのUFOにこの国の象徴がペシャンコにされちゃいました、と。

 ……いややっぱ認められないかも。

 

 どれだけの証拠があってもこんな一から十までワケわからないことを実感する日が来るなんて思えない。

 

 「こんだけやりゃ少なくともあたし達が本気ってこと、わかりますよね!んじゃそれをふまえて!もう一度あたし達の事復習しましょうねー!」


 キブカ惑星調査隊マアリ班。地球人に宣戦布告。全ての地球人を絶滅させるまで、この戦争は終わらない。

 そういったことを実にどうでもよさそうに女が話す。



 なんだって言うんだこの状況は?見た目はヤッチマッタ感あふれてるのにヘビーだ。

 ヘビーすぎて逆にもうこんなこと一々騒ぐことでもないじゃん?って気分にもなってくる。

 理解を超えた刺激ばかり与えられて、脳ミソがエラーを起こしているのだ。きっと。



 「まあただ絶滅させるだけならあたしはこんな一々宣戦布告とかしませーん。つまりこっからが本題。チャンスをあげよう、地球人。あたし達との“ゲーム”に勝ったら、やめてあげます。ベタでしょう?ベター!」


 「ベター!、ベター!」とか言いながらはしゃぎまわる黄色と黒の縞模様全身タイツ女、マアリ。

 それをにこやかに見守る執事感マシマシ老紳士、セバスチャン。

 うん、見てるとくらくらするなあ。「ギルティ地球人」だっけこのコンビ。いやーお笑いって日々進化してるわー惚れた。


 「アハハハ……意外とやるじゃん……チョーウケル。見なよ双子ちゃん。見た目はナイワーって思ったけどコレだよ。頑張ってるじゃん。双子ちゃんもそのコスプレやめて現実と向き合えー」

 「いやウケはしないでしょ。しっかりしなさい花ちゃん。現実と向き合えー」


 それからマアリは、その“ゲーム”のルールの説明を始める。

 彼女達はこの国のとあるところに闘技場を用意していること。

 そこで彼女達マアリ班の“戦士”達と地球人の“代表者”が決闘を行う。

 戦士達はZ~Aのランク付けがされている26人。最低ランクのZから最高ランクのAの戦士まで全てに勝利した地球人が現れれば、マアリ達は地球人を見逃そう……ということらしい。


 「やっぱ一つの種族を滅ぼすってのはコトですからねー!最終確認ってやつです!生かすに値する、ということを勝ってあたし達に証明して下さーい!ふぁい、おー!」

 

 ふぁい、おー!アハハハ。はあ?

 

 「でもそのまま勝負してもあなた達には勝ち目なしです。ナッシン!だって超能力者とか地球人の中にはそうそういないし。調べましたけどスプーン曲げられる人とー、透視ができる人とー、ちょびっと未来予知ができる人くらいでした!ロマンないですねー!」

 

 むしろホントにいるのかよそういう人。ロマンだ。

 

 「ということで地球人の代表者の方にはあたし達の使う力をプレゼントしちゃいます!やったー異能力バトルできちゃいますよー!ドキドキワクワクですね!」

 

 うわー超やりてー異能力バトルサイコーゥ!……頭いてえー。

 

 「実は今回初めてってわけじゃありません。一応こっちでも地球人代表者として戦ってもらうためにこっちからスカウトした人が今まで全世界で100名ほどいらっしゃいまーす!」


 「ボクシングの世界ランカーとかー、何かスゴイ賞もらった小説家とかー、あらゆるメディアに引っ張りだこ!な芸能人とかー、世界で活躍するトップモデルとかー、超エリートな政治家とかー、今だ捕まっていない指名手配犯とかー……あ、そういやさっき潰したスターなんちゃら建てたトコのトップの人にも挑戦してもらいましたよー」

 「まあ断られたりノリノリで参加したり反応はバラバラでしたけどぉ……とにかくコイツもしかしたらやるんじゃねー?って人に既にこのゲームに挑戦してもらってます。まあ大体脱落して死んじゃいましたけど」


 けど。って。そーいや去年訃報がやけに多かった気が。これのせい?これのせいなの?

 

 「で、これからは趣向を変えて、自ら地球人の代表として戦いたいという立候補者も受け付けちゃえ!ってことになりました!まー今までスカウトした人以外はどーでもいいやぁ、と考えてますけどその熱いパッションにかけようぜ!って話です!どーですかー!燃えてきましたかー!」


 燃えてきたぜー。熱いぜー。アウイエー……


 「立候補したい方はどっかの学校の屋上で『マアリちゃん!好きです!付き合ってください!』って絶叫してもらえればOK!あの円盤でアブダクションさせて頂きまーす!イエーイ!」


 「場所とかー、“ゲーム”の日程とかー、そーゆう細かい事はその後で説明しますんで!メンドイ!どーしても先に聞きたいって人はディスコで体をくねらせながら『マアリちゃん萌え萌え!!』と力の限り叫びながらトリップして頂ければOK!アブる!」


 色々めんどくさい。


 「ってかあり?セバスチャンどこいった?あれー?」


 いつの間にかセバスチャンが舞台からいなくなっていた。……と思いきやすぐに戻ってきた。


 「マアリお嬢様」

 「どこ行ってたのさー!もう説明大体終わっちゃったよ?」

 「此度の件……退屈な世界に生きていた地球人にとってはいくら話したところですぐに信じ切ることはできないものでしょう。……なので、我々が本気であることの『証拠』はいくらあっても多すぎることはありません。すこし仕込んで参りました。」

 「ははあ……優しいねぇーセバスチャン。で、何してきたの?」

 「この番組に出演していた出演者達を全て集め、この件についての簡潔な説明をし、代表者に立候補をする気があるか聞いて参りました」

 「ほうほう。どだった?」


 「立候補者はゼロでしたので……もう必要無しと考え、全員を殺しました。このように」


 セバスチャンの周囲の空間が歪んだように見えた……かと思うと、その歪んだところから「何か」が次々と出てきて床にゴロゴロと転がった。


 それは、テレビでお馴染みの芸人達の、血に塗れた生首だった。


 「このようにすれば、さらに地球人達に分かりやすくなるでしょう。まあ、見せしめですな」

 「おお!流石セバスチャン仕事のできる男!グッジョブ!……さて地球人のみなさん!」


 マアリがミュージカル役者のように気取って両手を広げる。


 「これで我々が本気だということがお分かりになられたかと!『エロ“本”買う時に店員が女の子でも全然“気”にしねーし』を略して本気!読みはガチ!つーことでガンバ!チャオ!」




 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「おーい。花ちゃーん。大丈夫?これからが本番だよ?」

 「……ドユコト?」

 「花ちゃん?」




 「うんこーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 「……おーい」




 ふざけんな!詰め込み過ぎだろうがよ!ついてけない、マジナイワー。


 「花ちゃん、ボケが雑過ぎるわよ。確かに『うんこ』以上に面白い言葉は無いけれど『うんこ』にもワビサビがあって」

 「だーまーれ!ワビだのサビだのどーでもいいわ!このクソを塗りたくったような展開はなんだコラァ!誰か責任者、スタッフを出せ!スタッフゥ~」

 「壊れたよこの人。ていうかさっきも言った通りこれからが本ばn」

 「るさい!これから、なんてあるか!未来は今閉ざされた!ノーフューチャー!これ以上何かあってたまるか!ばーか!しねー!」

 「えー……まだ全然話進んでないんですけど」

 「むしろ進み過ぎだっての!ついてけねーって何度思ったか!引き延ばせよ!人気連載漫画の如く!編集様のご命令だゾ!」

 「だったらさあ、もう一度しっかり話してあげるわよ丁寧に丁寧に」

 「はっ、やだね!だってこれどうせ夢よY・U・M・E!CGじゃなかったらこれしかねぇ!そしてこんなアヴァンギャルドな夢の解説なんぞいるか、気が狂うわ!」

 「夢オチはどこぞの大先生に禁止されてるから無いわ」

 「バレなきゃいいんだよ!バレなきゃ!」


 よし。夢と分かればアタシは良い手を知っている。

こういう時は夢の中で思い切り目をつぶって、開いてを繰り返せば夢は醒める。

最近はこういう夢だとわかる夢、明晰夢ってヤツかな……を見なくなったからできなかったが、久しぶりにやる時が来た。


 目をつぶってー……

 開いてー……

 つぶってー……

 開いてー……よし醒めて……ねえし。見える。まだ見えるよ蜂人間。


 「何してるの」

 「んぐう……前はこうしてたら夢から醒めてたんだけど……」

 「まあぶっちゃけ夢じゃないのよねコレ」

 「うっせ!じゃあ幻覚。あー最近疲れてるのかな……」

 「だとしたら相当ね。もうすぐ死ぬレベル。余命一ヶ月未満」

 「な、なんだってー早急に休まないと!つーことで帰れ!かーえーれー!」

 

 「……あー確かに今日は無理そうねぇ。あ、でも一個だけ。さっき花ちゃんに蜂けしかけたの私だから。まあささやかなイタズラ。いいリアクションだったよ。ナイス汚いオブジェ。なんかこれ以上後になると今更?とか言われそうなんで、一応」

 

 ……そんなもん……


「――もうすでに今更だよコンチクショウ!」


 正直忘れかけてました。それくらい今までの展開はヤケクソっぷりときたら。もうね。何も言えねえ。



 アタシの夢の住人だか幻覚の産物だか知らんが、とりあえずモノホンのハチニンゲンそっくりのコスプレをした変態には帰ってもらった。

 もちろんヤツがモノホンのハチニンゲンという線は無し、全力で無し!

 そうと決まれば駅前に行った母が戻ってくるまで寝ておこう……貴方疲れているのよハナコー。


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