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3-4 《?天罰不発?》

 ……どうにも上手くいかないものだ。丁度良く、なんて望むほど楽観的ではないつもりだったけれど、まだ甘かったらしい。

 異能力バトルだ!青春だ!などと花ちゃんにはしゃぎ回ってもらう予定だった。

 んで、アタシも花ちゃんを全力で支えることで青春してやろう、というのが大雑把にアタシの計画を要約したものになる。


 しかし、まさかまさかの花ちゃんの戦闘能力がインフレ、結果“ゲーム”はヌルい接待ゲー化。

 すいません舐めていました。

 いや舐めているどころか、かなり評価していたつもりだったけど。全然甘かった。

 今や花ちゃんはただの無気力系アラサー女にまさかの逆戻り。「異能力バトルってこんなもんか、大したことねーなぁ」とでも言いたげ。

 一応“ゲーム”を提案者なアタシとしては「期待させてスンマセン!」と謝り倒したいところ。だけどそれやっちゃったらいよいよテンションガタ落ちして見ているとツライ人になっちゃいそう。

 今でさえ彼女の部屋に呼ばれては「退屈だー」「死にたいー」などと言うベタな愚痴を結構本気の顔で言われる。

 コレ油断していたらネガティブこじらせて取り返し付かない事やらかしちゃうパターンよね多分。

 

 何か良い感じの打開策は無いものか。一応地球外生命体の侵略って話なのに、「簡単過ぎ」なんて問題が起こるってナニ。アタシも愚痴りたい。

 ……まぁ、しかし。なんか「異能力バトルにも飽きた」みたいな事言われたりするが、きっと正しくは「クソヌルい戦いに飽きた」ってコトだろう。死ぬかも知れないって話なら幾らやっても「飽きた」とか言っていられないと思う。

 だけど、花ちゃんはDランクを突破した時点で恐らくAランクも突破できる能力を得ていた。まだ一度も“ゲーム”に出ていないB、Aランクの戦士を担当者の事はアタシも知っているけど、彼等がどれだけ決死の覚悟で戦いに挑んでも、ロクな勝負になるまい……


 地球人代表者と対峙する戦士達。それの選出はマアリに任せてある。地球人の真価がどれほどのモノか、彼女の基準で判断させ、納得してもらう為だ。

 「ちなみにAランク戦はまぁ2割ぐらいまで借りられるようになればどうにかなるよ。セイゼイ頑張りたまえー!」という彼女の言の通り、「個人でマアリの力全体から2割の力を引き出せるレベル」が彼女の決めた基準だった。

 恐らく、春野花子はとっくにその基準をクリアしている。となると、実はもうランク戦を行う必要すら無い。それはマアリも分かっているハズ。だからと言って「もう意味無いからおしまいねー」って言われるのも困る。いっそマアリにCランク以上の戦士を今から強化してくれとでも頼み込んでみようか。テキトーな理由でっち上げて。

 

 そんな事をとある学校の屋上に空から不法侵入し、ウンウン唸りながら考えていた。考え疲れてふと周りを見渡す。空はもう少しでオレンジに染まる頃か。夕焼けの時間が近い。そんな時に、マアリがわざわざここに訪ねてきた。ただの連絡なら他に方法があるのに、だ。


 「見てもらいたい物がある。ついてきて欲しい」


 そんなことを言葉も無く伝えられる。

 

 実は、マアリやマアリに創られた者、またはマアリと同じ惑星で産まれた者同士なら、言葉を使って会話することはほぼ無い。度々花ちゃんとしているテレパシーに似たアレよりさらに高位のコミュニケーション手段がある。

 ソレは誤解など起こりようも無い真のコミュニケーションと言えるモノを実現している。

 

 相手が伝えたい事が、100%純粋に伝わってくる感触。

 言葉でも無く映像でも無い、ただただ「伝えたい事そのもの」としか言い表せないソレ。

 最初に体験した時は本当に衝撃的だった。

 こうなると地球人がコミュニケーション能力が大事だなんだと言っているのが本当に馬鹿らしい。こういう風に100%そのまま伝える手段が無いのならその中でのコミュニケーションの上手さなど最高と最低で大して変わらない。そんなお粗末な基準の中の能力差を重要視するなんて滑稽過ぎる。

 

 前提から間違えている。

 言葉だけでは、仕草だけでは、地球人には、そもそもコミュニケーションを成立させる事ができない。成立しないという絶望と向き合い、馬鹿馬鹿しい小手先の技術にこだわらず、なりふり構わずお互いの情報を真摯に貪り合う覚悟が必要だと思う。

 

 まぁ、それはともかく。

 取りあえず、マアリに伝えられた通り、ついていく事にする。

 アタシもマアリも空を飛んでいた。アタシは特に背中の2対4枚の翅があるので、飛ぶのには苦労しない。 

 マアリにはその圧倒的な力があるのでどうにでもなるだろう。空からの地上を見るのは、アタシが地球人を超越していることを特に強く実感する瞬間だ。

 かなり長い距離を移動している。この国の首都の方に向かっているとマアリから伝えられる。

 そう言えば、この前潰していた「スターハント」も首都にあった。もし健在ならこのあたりからアタシ達なら目視できるぐらいだろう。

 スターハント周辺はまだ復興作業中だ。なんせあれからまだ2ヶ月も経っていないのだから。

 

 道すがらに、マアリから“形式B”で“ゲーム”を行っているある人物を紹介したい、と伝えられた。

 実は、“ゲーム”は“真価の闘技場”だけで行われる物では無い。

 “真価の闘技場”がメインなのは間違い無いが、街中でそのまま戦闘する形式の“ゲーム”も行われていた。それが、“形式B”。呼称のされ方からかなり適当な扱いを受けているのは明白だ。

 そもそも“形式B”の提案者はアタシと同じような元地球人で、地球人を絶滅させる事に反対していた数人の内の1人。

 名前はリザ=ジェーン。趣旨は戦いの様子を“ゲーム”参加者以外にも見せること。実感を持ってこの危機に向き合わせる狙いがあり、あわよくばそこから代表者立候補者が出てこないか、というのもある。

 そんな上手くいくのか、と思っていたが、どうやら実際の戦いを目にした結果、地球人達に危機が迫っている実感を持つ手助けにはなっているらしい。

 なんせ余りにもデタラメな出来事だったので、最初の方は世界中の地球人の反応としては恐怖でパニックに陥る、というよりはむしろ呆然としていると言った方が正確で、そもそも問題として受け入れられなかった印象がある。

 それでも実際に「スターハント」を潰されたこの国はまだマシな方で、海外の反応なんてもっと淡泊なモノだった。

 “形式B”により世界中で代表者と戦士達の戦いが目撃されるようになると、良い意味でも悪い意味でもマアリ達が「本気」であることが伝わるようになってきて、この地球には今、色々と大きな変化が起きているのだが……ソレは今特に関係が無いので表現を省きます。と言うか実はよく知らない。花ちゃんの事ぐらいしかちゃんと見ていない。ぶっちゃけ地球がどうなろうとどうでもいいという方針に変わりはない。

 “形式B”での戦いは、イメージとしては怪獣vsウル○ラマンと言ったところだろうか。

 マアリに創られた戦士達にテキトーな場所を襲わせ、その場所に地球人代表を呼び出す。そしてそのまま戦いが始まる。これもZからAまでの戦士を順に戦っていくのは“真価の闘技場”で行うものと同じだ。

 「ここで止めなかったらここら辺の人皆死んじゃうよー」ってなプレッシャーが地球人代表にかかることになる。

 

 「何かを守る時に人は強くなれるのです!」そうリザは主張する。この形式なら、その地球人代表代表者のスペックを限界まで引き出せる……と考えているみたいだ。

 

 うん、リザはいい子だからねぇ。地球人の良心というか正義の心というか、そういうのを信じているらしい。それが問われる状況を演出で作り上げようとするのが、ちょっと歪んでいるように思えるけど。

 

 ……しかし、マアリの見せたい物って何だろう?花ちゃんの力が今や“ゲーム”でそれを測る意味が無いレベルなのは明らかなのだから、まずそれについての話があるのが自然な気はする。

 今更“形式B”がどうだとかどうでも良い筈なんだけど。

 まぁ良いか。行けばわかる。迷わないで行こうじゃないか。



 

 どうやら目的地に到着したらしい。この辺りに数多く建っている高層ビルの1つ、その屋上にアタシとマアリが降り立った。そこで出迎えてくれたのは、“形式B”を提案したリザその人だった。

 リザの恰好はまさに天使、という感じで、キラキラ輝く白い羽が背中にある。ただし、普通の地球人から見れば肌の色が明るい水色なのがミスマッチに思えるかも知れない。

 先ほどと同じように、アタシ達にのみ行えるコミュニケーション手段で情報を交換する。―――ここからはそれを、無理矢理通常の言葉に直していきながら表現することにしよう。


 「あれ、リザじゃない。久しぶりー」

 「ああ、リリィも来たんですね……お久しぶりです」

 「何か元気無いわね?」

 「“形式B”で今絶賛快進撃中なヤツがクソ野郎だった、だってさ。そうだよね、リザチャン」

 「そうなんです、マアリさん……もう彼はAランクの戦士を超えるレベルです。ですが……」

 「気に食わないんだ?」

 「まぁ、そうですね……」

 

 変な事もあったものである。リザは強く地球人を絶滅させることに反対していた。

 “ゲーム”を勝ち抜ける代表者が出たのは良い事の筈で、多少問題があっても地球人を救えるのならとりあえずはそれで良い、と言いそうなものだが。そんなにアレなのか。

 

 「あの人は、下着泥棒で覗き魔で痴漢男なんです」

 「てんこ盛りじゃない」

 「そして、この“ゲーム”に参加する直前に強姦の罪まで犯しました」

 「うわー……」

 「その罪が明るみになり、いよいよ地球人の警察に捕まる、という状況で、彼は地球人代表として立候補しました。まぁ、そうなると一応は貴重な立候補ですから……こちらとしては回収、保護せざるを得ません」

 「そうして、その男は警察の手の届かない場所に避難できてしまったワケね」

 「……“蜜”の力にも適応してしまい、もう地球人の警察は彼に手を出せません」

 

 あー……適応できずに天罰替わりってことで死ねば良かったのにね。

 

 「まぁ、適応できるかどうか、というのに道徳心は特に関係ないしね。クズ野郎ではあったけれど、ある種の心の強さはあったという所かな?」

 「“蜜”の力を得てからはさらにやりたい放題です。彼の被害に遭った女性がどれほどの数なのか……考えたくもありません」

 

 “蜜”は「思い通りにする」力とだけあって、まさに使いようによって善を為すも悪の限りを尽くすのもソイツ次第な一面が強い。

 

 「私……必死に説得しました。ですが全く考えを変えてくれません。地球人を救えるスペックがあったので今まで強硬手段には出ませんでしたが、もう限界です。彼に地球人達の救世主などという称号を与えるのは反吐が出ます」

 「リザにそこまで言わせるヤツなのねぇ」

 「まぁソイツは、言うなればもうマトモな人生を諦めているのだろうね」

 

 とマアリが自分の予測を主張する。

 

 「守るべきものが無くて、縛るものが無い状態と言うのは、行動や思想の制限が無くなっていて、ある種の強さを得るみたいだねぇ。予想外だったよ。ヤケクソの極みだねぇ。死ぬ事が怖く無いことが、体の負荷をある程度無視してアタシの力を多く引き出せるようにしたみたいだね。いやぁこの惑星に神様ってのがいるとすれば何をサボっているのやら。ああいうのは雑魚であってしかるべきだろう?ねぇリザ?」

 

 マアリがリザの方に顔を向ける。

 

 「キミは地球人を絶滅させるのに反対だったけど、今でもそう言える?」

 「…………」

 

 リザは少しの間、何も伝えてこなかったが、結局は、決意の感じられる表情をした顔を上げて、

 

 「いえ。もう……いいです。結局私は、ただの地球人だった頃の思想を惰性で持ち続けていただけだったみたいです。マアリさん、貴方の言う通り、地球人は『もういい』。絶対に、という訳では無いですが、特別守るべきものでも無いと思います」

 「あーらら。リザチャンにも愛想尽かれちゃったよ地球人」

 「すいません、マアリさん。考え無しに今まで主張をしていました」

 「いいよいいよそんなのー。意見が1つだけってのも危険なモノだよ。自分とその賛同者のものだけでない、色々な主張を知り、思考し続けるべきだよ、いつだってね」

 「リザもマアリ側になっちゃったよ。こりゃ肩身狭いなぁ。もう地球人絶滅反対側もう私含めて5人いるかどうかって話じゃないの?」

 「リリィはまだ反対側にいるつもりなんですね。リリィは“ゲーム”で地球人の真価を測る方法の発案者ではありましたが、はっきり言ってあまり熱心な印象は無かったのですが……」

 「……まぁそうだけど。ただ少し死なせるのには惜しいと思える人がいてね。それでちょっとだけ絶滅させる考えに不満があるだけよ?」

 「……春野花子ですね。リリィは、結局あの人1人しか代表代表者にスカウトしてませんでしたね」

 「そうよ。私は花ちゃんぐらいしか知らないけどさ。他にもああいう化物がいるってんなら、絶滅させるのはなんてゆーか勿体無いじゃない?」

 「随分フワッフワしてますね……」

 「お互い様でしょ。ていうか、私達の中で、例えば『正義感』『義務』『覚悟』的なアレを持ってこの問題を考えているヤツっているの?ってぐらいよね。あ、リザは結構本気かな?リザ以外となると、そうそういないよね」

 

 大体前提からしてマアリの「もういいじゃん絶滅で」とか言うテキトー極まりない考えで始まっている。アタシはそれに乗っかる形で“ゲーム”を提案し、まぁ結局は真剣に遊んでやろう、などと企んでいるだけのことだった。道楽だけど真剣、真剣だけど道楽……ぐらいの気持ち。

 提案者からしてこんなのだから、結構「代表者」「戦士」「形式B」だの使われる用語も適当だったり中にはそれぞれに対して違う呼称をしているヤツすらいる。

 色んな所が正式にカッチリ決められていない。ダメ企画な事は間違いないけどまぁアタシにはこれで十分だし。

 

 「私だけ、ですか。……そうとも限らないかも知れませんよ?」

 

 とリザは伝えてくるけれど。

 

 「いやぁ、ナイナイ」

 

 と返しておく。

 

 「そういや、リザが大嫌いな話題のクソ野郎は花ちゃんに少し似ているかも。マアリの考えをなぞるようだけど、絶対に生きなければならない理由を手に入れられるのも大したものだけど、全てを、命すら捨てる覚悟を持ててしまう状況に陥った者もまたある意味で大したものよね。どっちが強い、なんて決まっているのは精々創作物の中だけでしょ、それこそ。うまーい事御することはできないの?あ、できないからマアリが呼ばれてるのか」

 「リリィの言いたい事はわかるよ。どうにか御したいと言うのも、まぁわからなくもない。リザの言うそのクソ野郎は花チャンのように強力な精神力があるらしいし、ね。ちなみに、ソイツの名前は?」

 「……綱木野賢人(つなぎのけんと)です。今から丁度Cランク戦がこの辺りで行われます。まずはそれを見てください」

 「今からCランク戦かぁ!花ちゃんと同じトコまで到達しているのね」

 「ですがもう彼はAランク戦を突破できるレベルに達しています。マアリさんの力の2割。それは確実に超えています。私の見たところでは、恐らく春野花子と互角か、それ以上か……」

 「でもクソ野郎、と。さて、どんなヤツなのかな?」




 Cランクの戦士、侍の恰好をしたムサロウが現れ、見せしめと言わんばかりに手に持った刀で適当な建物を斬りつける光景がここから見下ろせた。

 5階建てのビルが4階建てになった。

 1つの建物が西館と東館に分かれた。

 ……モチロン比喩表現です。これは要するに「止めなきゃヤバイっすよ」というプレッシャーを与えるだけのもので、徹底的に破壊するものでは無い。

 

 まぁそれでも少なくともこの辺りの人間にとっては大きな被害で、それなりに思うところや不安があったりするとは思う。

 例えば、花ちゃんはこの前「マアリを神とする宗教団体があるっぽい」等と言っていたけれど、そういう特殊で異常な変化が世の中に起きている、らしい。あんま詳しくないです興味ないんで。

 ムサロウはこの前オオガミレンを斬り殺して以来の出番だ。しかし、あの時のような余裕の表情は無く、キリキリと張り詰めた雰囲気を感じられる。

 今から戦う綱木野賢人の情報を得ているのであろう。

 隣のリザの表情がどんどん険しくなっていく。どうやら今綱木野とアタシと花ちゃんもやったテレパシーもどきで連絡を取り合っているのだと思うが、それがどうすればそんな表情をしながらのものになるのだろうか?

 

 「たまたま近くに来ていやがっt……いたようで、すぐに到着しやがr……します」ということを伝えられる。

 勿論実際は言葉で無く、リザが伝えたい事がそのまま伝えられるアタシ達独自のコミュニケーション手段だ。

 どうやら、到着するという情報だけで無く自分が綱木野をどれだけ嫌っているのかも激しく伝えたいらしい。ちょっと八つ当たりチックであるが、それを自覚してもいるので、何だか八つ当たり半分気遣われているの半分の不思議な感じだった。

 

 リザは地球人の時にある国の孤児院で院長をしていて、知る者からは「聖女」とすら呼ばれていた程の人物なのだけれど。それがここまで荒れているとは。何だか楽しみだわ、綱木野賢人。

 伝えたら殴られそうだけど。

 


 ムサロウが軽く暴れたお陰で、辺りはパニックに陥っていた。そこにいる地球人の誰もがそこから離れようとするなか、一人の男がフラフラと何の緊張感も無く騒動の中心に向かい歩いてきた。

 

 綱木野賢人は若く、中性的で、「美しい」とすら表現できそうな容姿の男だった。顔が少しだけやつれていて、口元に薄ら笑いを浮かべているので、ただの善人には見えないが、それでも、それだけでは「クソ野郎」というほどの印象では無い。

 

 だが、彼の周りには大勢の目隠しとリード付きの首輪をされただけの裸の女が犬の様に四つん這いで歩かされていた。リードの先は綱木野がしっかりと握っている。両手合わせて10本程。

 

 「あー……これはヤヴァイ。マジで」

 

 もう何と言えば良いのやら。上手い表現が思い当たらない。

 

 「あのクソ野郎!毎度毎度何だって言うの!また増えているじゃない!?」

 「…………」

 

 リザが見たことも無いぐらいにイライラしていた。そろそろキャラチェンジもあり得る。

 裸の女達は明らかに消耗しきっていた。どう好意的に見ても合意の上では無さそうだ。合意でも問題あるけれど。まだまだ外は寒い季節で、すなわち彼女達には死の危険すらある。

 

 「噂通りの外道だな」

 

 ムサロウが言葉に出して不快を露わにした。眉間には深い溝が刻まれ、そのやたらに造りの良い顔が歪んでいた。

 

 「貴方がCランクの人ですね?……ああ、勘違いしないでください。別にこういう事をしないと性欲が満たせないだとか、そういうことではありません。女性にはもうこりごりなくらいですよ。……そう、ですからこれは、うぅん……天罰?」

 「……そうか。だとすれば、貴様も同じように犬の真似をした方がいいのではないか?どう見ても、天罰を受けるべきなのは、貴様だ」

 「酷いですねぇ。これでも理由があるんですよ?ありがちな話ですが、僕には女性絡みで可哀想な過去があるんですよ。だから慰めてくださいよ……」

 

 そう言って慰めなど必要なさそうな、心安らかな表情を浮かべる綱木野だった。

 

 「……もう良い。さっさと斬って捨ててやる」


 ムサロウが音も無く綱木野に接近し、刀を振る。

しかし、その切っ先が綱木野に届く前にムサロウは弾き飛ばされる。

 

 「―――ああ、嬉しいなぁ。今まで頑張った甲斐がありました。この雌犬が身を挺して助けてくれましたよ。感動的ですね。ペットと人間の絆ですね」

 

 ……などとほざいているが、実際は両手に持っていたリードを右手にまとめ、空いた左手で彼の周りにいた裸の女の1人をひっつかんでムサロウに向かって投げつけたのだった。

 “蜜”の力による普通の人間には到底不可能な勢いで投げられた女はムサロウに激突させられた瞬間絶命したようだった。腕の一本が捻じれていて、足の一本は千切れていた。

 

 「ぐぅっ……が、カハッ……」

 

 そしてこれだけでムサロウは追い詰められていた。投げつけられた女と激突し、空高く舞い上がった後地面に無防備に落下した。フラフラと立ち上がる彼の口から赤い血液の代わりの真っ黄色な“蜜”がダラダラ流れ落ちていた。

 

 「彼女の犠牲を僕は忘れません。ああ、もし彼女が自分の限界を超えてでも僕を守り、貴方を倒そうとしてくれなければ、僕は今、生きていない。そうでも無ければ、とてもお強い貴方に僕が勝てる訳ありませんからね」

 

 ―――コイツの言葉は聞いていても無駄な類らしい。言葉とは裏腹に、綱木野はムサロウを圧倒するレベルの力を発揮している。そして見たところ、あの裸の女達が彼の能力に関係している様子は見られない。戦いの為の犠牲では絶対にあり得ない。それは彼にとってはただのお遊びなのだ。

 

 「彼女の犠牲を無駄にはしません。最後の最後まで、力をお借りしますね」

 

 先ほどの死に絶えた女をずるずると引きずりながらムサロウに走り寄り距離を詰め、女を武器替わりにムサロウに殴りかかった。

 それを食らいきりもみしながら吹き飛ばされて、高層ビルの1つに叩きつけられる。ムサロウはぐったりとして動かない。

 さらに、その時の衝撃でその高層ビルは崩壊してしまい、ムサロウはそれに巻き込まれてしまう。

 普段ならともかく、消耗しきった体で耐えることは不可能であろう。

 

 ……確かに綱木野の力は圧倒的だった。Cランクのムサロウがまるでかませ犬だ。あれでも彼は、春野花子以前では地球人代表者の中で最強と言われたオオガミレンを圧倒していたのだが…… 



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