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3-3 愛と幻想のレスポール

 ―――結果として生まれたのは戦闘狂以下の33才無職独身無乳んでもってドクズ女であった。

 Dランク戦を勝利し、ついに一番いいトコいったオオガミレンと同じ高みに到達した。

 だからどうした、という気分にすっぽり包まれている。

 心に穴が開くあの感触、鳩尾のあたり深い深い、暗い暗い穴が開いている。楽しみを見つけ、その存在をすっかり忘れていた感覚が戻った。

 少しずつソレは忍び寄っていた。

 アタシは強くなり過ぎた。髪の毛が無くなるほど修行してもいないのにだ。負けるイメージが全く湧かない。逆に勝利のイメージは当然過ぎて退屈だ。1+1=2、それが面白いと思えるヤツが何処にいる?

 “蜜”の力に馴染み過ぎたのもそれに拍車をかけていた。自分の相手の強さを計る目……鑑定眼を“蜜”で異常強化することで、相手がどれだけマアリから力を借りれるのかを正確に判断できるようになった。

 そこから考えると、過去戦ってきた相手の力も、思い返して検証してみると正確にわかってくる。

 すると、低ランクの頃そこそこ苦戦していたのも結局アタシが不慣れだった、というだけで、単純な力の差が始めの方から既にあって、「そりゃ負けるわけねーわな」みたいな結論に至る。

 すると必死で戦って乗り越えたという誇らしい記憶さえ下らないものに思えてくる。結局接待試合みたいなモンだったのか、と。

 ランクを上がる毎に以前より強い“戦士”が出てくる、のは良いのだけれど、その難易度の上昇具合よりアタシの成長速度が大幅に上回っているらしい。

 結果としてランクが上がる度難易度が上がるどころかどんどんヌルくなってくる。

 ああ、低ランクの時はまだ良かったなぁ。死ぬかも知れないっていうスリルで興奮できた。

 今や攻撃を食らってもダメージゼロが普通だ。例えボケっと突っ立っているだけでもアタシは殺されない。アタシが仕掛けなければ終わらない戦い。んなモン戦いですらないじゃん。駆除とか、掃除とか……そんな感じ。

 

 ベルトコンベアで運ばれてきたモノを叩き壊すだけの簡単なお仕事です。




 「爆ボ○2ぐらいは頑張っていただきたいトコロよね」

 「それ大分わかりづらいから」

 「いやー最初がもう落ちたら死ぬ下水溝に囲まれてボンバー○ンもまだまだライフ5個しか無くてなんか場所もビミョーに狭いってヤヴァいでしょ。シリーズ史上最強の初ボスってナニって話。まぁそれ以降はこっちのライフも増えてるし慣れもあるしむしろ楽なくらいなんだよね。でも要所要所苦戦はするじゃん?ああいうのが良いんだよ」

 「はぁ」

 「あーあ、ラスボスは変態的に強い、とか無いの?丁度『地球の平和をかけて命がけで戦え!』って感じなんだし、攻略本が攻略しないレベルでもアタシは良いんだよ?」

 「……そもそも花ちゃんそのゲームやったこと無いじゃん」

 

 あまりにも退屈過ぎてリリィを無理矢理呼び出し自分でも何言ってるんだかわからない愚痴に付き合ってもらう始末。

 

 「リリィ、実際どうなんよ?こっから難易度爆上げとか無いの?次あのオオガミレンとバトってたあのパクリ侍っしょ?今やそんな強いと思えないけど」

 「Dランク戦を開始一秒で一撃で終らせた花ちゃん相手じゃねぇ」

 「アレだけしかやってないのに多分アタシまた力出せる限界値上がったっぽい。前回の倍になった」

 「うーん……流石に予想外ね。一応“ゲーム”ではあるし理不尽な難易度上昇はしないってことになってるし。恐らく今の時点でAランク戦勝てるわね。きっと圧倒的な差に花ちゃんが気付いてしまった結果、勝利のイメージが退屈に思える程確固たるものになっちゃって……」

 「ああ、それが『思い通りにする』力と相性が良過ぎるってことだろ」

 「まぁ元々それなりに花ちゃんと“蜜”は相性が良かったし。それも合わせればますますバランスブレイカーな強さよね」

 

 「……だー!つ・ま・ん・ねー!」

 

 全く、クソッタレだ。精々命があることしか良い事が無い!生きているだけで人生丸儲け?バーカ、生きているだけで満足出来るワケねぇだろ!

 

 きっと“ゲーム”が始まる前はアタシには何も無くて、その後は“ゲーム”しか無かったんだ。ソレしか無いのに、ソレしか無いが故に、アタシはソレを楽しみ続ける事に失敗した。チクショウ。

 戦いがご趣味のバーサーカー的な方々の方が、今のアタシより健全な精神を宿しているだろう。


 スタートは退屈な日常で、ソレはこの気の狂ったようなイベントで跡形も無く破壊された、はずだった。

 ココまでやられたし、やった。だったら、もう前に進んだと。もう過去の問題に悩まされる事は無いと、期待するだろ?するしかないだろ?

 まさか前に進んだ先が最初のスタート地点だった、なんてこれ以上クソッタレなことがあってたまるか。

 「ふりだしに戻る」コマなんて無かったのに、だ。


 「退屈なのは貴方が退屈だからです」


 ……誰が言ったのだろうか。

 アタシが本当にやるべきだったのはあくまで退屈な日常の枠組みの中で退屈を打破することだったのだ。 

 こんなワケわからんイベントが挟まってくるからソレが分からなくなる。

 

 たかだか世界から異世界になって、能力だけでなく異能力が使えるようになったって、ソレが何だ。非日常になったところで、続いてしまえば日常だ。続いていくような平穏さを持つ日常は退屈で、だけど退屈なんて、退屈だからと言って誰かに助けてもらえるでも無し。


 「食うのに困っている人もいるんだ!」


 不幸の例には限りが無いからきっと「退屈過ぎてツライ」なんて甘えてるとか何とか言われるし自分でもそう思っちゃう。逃げ場は無い。

 

 心に穴が開く。

 

 そんな思いを持っていた事を忘れていた程だったが故に、またぶち当たってしまったという事実が重い。 

 デタラメさだけは十分過ぎるこのイベントでも駄目だったならもう何をやっても……そう考えてしまう。


 ……んで、アタシはいつまで、要するに「変化が無くて退屈してて、だから絶望しててぶっちゃけ死にたいです」などとベタな悩みを何やら重大な事の様に考え続けるのだろうか。

 アホらしくて情けなくて仕方が無い。

 こんな恥ずかしいこと誰に言える。

 ああ、甘えてるよアタシは。そう言うのなら甘えるのを辞める方法を教えてくれ。知っているんだろう?そこまで言うんなら。

 

 その答えを知りたくて、命まで賭けたアタシに教えてくれ。


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