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3-2 サイキック No.9

 相変わらずの気が違ったような歓声アリガトーアリガトー。「アリーナー!!」とか言った方がイイ?

 この“真価の闘技場”での“ゲーム”、戦いにも慣れてきた感がある。

 この日までにZランクからTランクまで勝ち抜く事が出来た。で、今日はSランク戦。いやぁ出来るモンだね意外と。

 「思い通りにする」力、“蜜”の力もかなり馴染んでいる、と思う。結構無意識でも戦えるようになってきた。


 「Sランクの戦士、入場!!変幻自在の動きが持ち味!ボーントゥウォーリアーな骸骨闘士、カーロス!!!」


 実況のマイクンのコールと共に入場してきたのは、骸骨だった。もうただただ骸骨。


 (骨だ)

 (骨ね)


 前にも使ったテレパシー的な能力でリリィと感想を言い合うのが毎回の慣習になっていた。

 

 (今まで雑なパクリデザインだったのに……それすら放棄するようになったか。ネタ切れじゃね)

 

 理科室とかに置いてあるソレそのまんまだもの。筋肉無いのに動いてるー、なんて今更驚くモンでも無いし。

 

 (酷いわ花ちゃん!カーロス君泣いているわよ!もうちょっと思いが顔に出ないようにしなさい、彼は繊細なのよ!)

 (いや泣いてるとかわかんねーよ。カタカタしてるだけじゃん)

 

 あの様子だと言葉喋れない系だし、顔も骨だけじゃあ表情わかんないし。大体どこに涙が流れてるんだ?

 

 (オパーイが無い人にはわかんないわよ!)

 (……それの有る無しで変わるもんなの?気に食わない、あいつコロス)

 (ヒドーイ)

 

 


 ……カーロスとの戦いは終盤に差し掛かっていた。

 自分の骨を全て分離し、それらが全て独立した動きをしながら四方八方から突撃してくる、という変幻自在ってレベルじゃねえだろと言いたくなる奴だった。

 その攻撃に序盤はかなり押されていたけど、段々目が慣れてきて骨の一つ一つを砕いて数を減らしていけるようになると形勢を逆転できた。

 さらに、頭蓋骨だけは突撃してこないのに気づき、恐らく弱点である、という見立てができ、攻撃を集中させると、他の骨の動きがかなり雑になり、頭蓋骨への攻撃を回避することに集中するようになった。

 自分の骨に全て独立した動きをさせる……それがカーロス独自の能力ではあると思うのだけど、やはり動力源は“蜜”の力であり、精密に、それぞれ違う独自の動きをさせようとすればするほど、多くのエネルギーを必要とするのだろう。

 今は弱点である頭蓋骨を速く動かすことにエネルギーを多く割いてしまっているため、他の骨の動きが雑になっている……ということだろう。

 

 これまでの戦いで、こういう予測が何となく出来るくらいには“蜜”の力に慣れていた。“蜜”というのは奴らの親玉、マアリの力を借りるためのシステムだ。この力を得た時からアタシに流れる真っ黄色な“蜜”がアタシとマアリを繋いでいる。マアリからどれだけ力を借りられるのか、というのが勝敗を分ける鍵だ。

 そのどれだけ借りれるのか、っていうのがまたふわっとしていて、心だの精神だの感情だの気合だのと言った「それっぽいもの」としか表現できない何かが影響する。テキトーかよ。と思うがマアリでさえ「それっぽいもの」と言う始末である。

 

 まぁともかく、戦いを進めていく毎に引き出せる力は増していっているのを感じる。戦いに対してより強く、実感を持って向き合うようになり、勝利するイメージを明確にするように心掛けた成果……だと思う。タブン。まぁ心の持ち様っていうか心境の変化って言うか、そういうのが作用しているんだろう。キット。

 

 なので、最初の方は使えなかった能力の使い方も、戦いに組み込めるようになってきた。

 

 「―――うおらっ!」

 

 大鎌を空中を高速で移動している頭蓋骨に向けて投げつける。しかしこれはあっさり回避される、が、本命は別にある。

 

 「―――増えろ!」

 

 投げた大鎌と同じ物がその周囲に突然現れる。大鎌は合計10個になった。

 数を楽に増やせるのがアタシの武器の能力の1つ目。だけど今のように触れていないところから増やしたり、同時に多数を増やすのは多くのエネルギーを使うようになっていて、初めの方はとても使えなかった。

 しかし、今ではトドメくらいには使えるぐらいには余裕が出来てきた。

 

 「キタキタァ!!花子チャンお得意の武器増殖ゥ!!となるとここから……!?」

 

 ここから、アタシの必殺技だ。

 10個の鎌がそれぞれ違う独自の動きで回転しながらカーロスの頭蓋骨の方に迫っていく。最初はこの技も100個ぐらいでやっていたけど今では10個ぐらいでも事足りるのがわかっている。

 経験によって効率の良い力の運用が出来ているのだ。アタシスゴイッエライッ。

 

 獲物を囲い込むように動き、ついには完全に捉えた大鎌達は、そのまま頭蓋骨をズタズタに切り裂いていった。

 その瞬間、全ての骨が動きを止め、ドロドロに溶け出し、後には真っ黄色な“蜜”が残される。やはり頭蓋骨が弱点で合っていたらしい。グレイトッはなこちゃんかしこーい。

 

 「決まったァァァァァ!!!勝者は春野花子ォ!!!必殺の『無限廻葬』が今回も戦士を無慈悲に冥界へ突き落とした!!この絶技から逃れる術は皆無なのかァァァ!?」

 

 ……アタシのフィニッシュムーブは微妙な中2病ネームで勝手に名付けられていた。あの実況マイク野郎に。読みは「むげんかいそう」……33才のアタシにはキツイからヤメテーとは思うけれど他に思いつくものも無し。

 大体、大鎌を手に持ち黒いボロ布を纏い戦う姿は使い古された死神キャラのソレで、つまり由緒正しき中2病デザイン(多分)だ。もういっそ諦めてしまう方が楽だった。いやマジで。全然キニシテナイ。

 

 「ぷはぁー……今日も勝てた……!」

 

 とにかく生き残った。それが重要だ。負けたら即、死が待っている。余計なことに気を回す余裕はあまり無い。




 「今日も勝てた勝てた!Sランク突破ァ!」

 

 この頃になると大分このインチキ展開に適応し、ハードルを越える度に自然に達成感に満たされるようになってきた。最初の方は呆然としっぱなしで、何が何だかって感じだったなぁ。

 

 「イイ感じよ花ちゃん。どうやら大分慣れたようね。そして……戦いを楽しむようになったわね?」

 「う、うむぅ……」

 

 リリィに問われて思わず唸る。そうなのだ。恥ずかしながら。33才無職独身貧n……いや無乳女なこのアタシはなんと負けたら死ぬとか言うベタベタなデスゲームをあろうことか楽しみ始めたのである。なんか考えたら我に返りそう。

 なんせ戦うという行為は相当な刺激がある。ジェットコースターに乗った時のそれを遥かに超えるスリルが体を駆け巡るこの感覚。仕方無いので認めるが、この“ゲーム”が始まる以前のアタシの生活は平穏なだけが取り柄の白けたモノだったさ。それに対して今やどうだ。

 所々って言うか大体インチキでナンセンスではあるものの圧倒的な刺激があり、理屈抜きで無い胸が躍る。

 何か詐欺の手口っぽいと思わなくもないが、もう詐欺でも一向に構わんっ!

 幸せは変化の中にあるといったのは誰だったか。思い出せないが全く同意だ。狂気的な冒険、命を賭けて敵としのぎを削る戦い……中毒性があると言わざるを得なかった。

 なにより勝利だ。敵を倒し、この先を生きる権利をもぎ取るその瞬間。生きているだけで幸せなどとバカバカしいことを本気で信じてしまいそうになる。

 

 「それでこそ推薦した甲斐があるわ。このままAランクまで暴れまわってやりなさい」

 「Aランクねぇ。その上のSランク!なんて無いよね?今日Sだったし」

 「はっ!スペシャルだかスーパーだか知らないけれどそんなインチキ臭いランクなんて無いわ!大体なんでSだけ特別扱いなのよ。GだったらゴッドとかWだったらワンダフルとかDだったらデンジャラスとかあるじゃないの!」

 

 デンジャラスかぁ。なんかスゴそうだなぁ……語感的に。

 

 「ということで隠しボスとかいないので心配せずAランク勝利を目指すべし。いたら約束違いになるわけで。『地球人とか何か下らねーしもう絶滅でいいだろ』っていうのがマアリのノリだから……そんなテキトーなマアリは『都合悪いからルール追加ね!』なんてわざわざやらないと考えて良いわ」

 「それにこの“ゲーム”を勝ち残る程の者がいる事が証明できれば嬉しいってマアリ自身が言っていたぐらいよ。何かを『下らない』と判断することはその判断をした者自身にとっても悲しい事よ。それがひっくり返るのなら喜んで受け入れるでしょう。まぁつまりはマアリ自身も結構ヌルい考えで地球人絶滅を考え出したってことなのだけどね」

 

 迷惑な話だ。だけどソレが無かったら今でも白けた生活してんだろうなーって思うとまいっかーとか思うアタシがいる。アタシもマアリ並みにヌルいのかも知れない。もう脳味噌溶けてそうだなぁ。

 

 「戦いが楽しくなってきたってのは良い傾向よ。自分にとって楽しいことを、やりたいことをやる、これこそ人間が一番ポテンシャルを発揮する方法よ。そりゃワガママだろ、現実を見ろ、なんて水を差してくるなんちゃってリアリストなんて死んだ方が良いわね」

 

 極端な奴め。




 「あの容赦の無さは何なのよ花ちゃん……」

 「―――何が?」

 

 あれからさらに日は進み、Jランク戦まで終了した。何やかんやでまだまだ勝ち残っている。

 

 「いやーだって赤ちゃんよ赤ちゃん。あの見た目じゃ普通躊躇するわよ。いきなりバッサリ腕切り落とすとかヤヴァイ」

 「いやいやアイツは本で読んだことある。赤ちゃんソルジャーってヤツよ。実際そうだったじゃん?その見た目で躊躇っているところをズドン!ってやるアレよアレ。その手には乗らないかんね」

 「まぁ、その手に乗ったフリして逆に油断させて攻撃、腕を斬り落としたところまでは戦法として認めることにするわよ。その後よ後」


 その後って言ったら、腕を斬り落とした後、そのまま決着ついちゃいそうで、それだとあまりにも相手が不完全燃焼だろう、と心優しいアタシは気を利かせて施しを与えたのであった。その慈愛の精神、聖母の如し。


 「……切り落とした腕を自ら拾い上げて“蜜”の力でくっつけながら、こんなアッサリ終わるなんてつまらん、直してやるから精々もっと足掻けと悪魔のように囁いて魔人のように笑いかけてたわよね。エグい。絵面的にも」

 「あれ、聞こえてたか。テヘペロ」

 

 なんで囁いただけの言葉が聞こえているんだろうか?

 

 「地球人の代表者とマアリ側の戦士達がどんな言葉を交わしているかってのにも注目する観客って結構居るのよ?私もその1人。ちなみに実況のマイクンも。“蜜”の力で会話に集中すれば聞き取れるからね」

 「あーなーるほど。そういや今日のマイクンはいつも以上にキレが無かったねぇ」



 「あーうん。ハイ。花子チャンの勝ちですヨ」



 って感じだった。おシゴトちゃんとしろヨ。

 

 「戦い方も前に比べて何というか、じわじわ追い詰める感じというか、相手の動きを事後対応で片っ端から潰していって、相手の実力を絞り尽すように発揮させた後に倒してるっていうか。もう精神まで屈服させにかかっているもんで、相当ヒールキャラに寄せている印象なんだけど」

 「アタシが戦いを楽しんでるのを喜んだのはリリィじゃん?アタシはね、出来る限り楽しみたいからこそあんな舐めたマネをするんだよ。アンタが言うことじゃないと思うけど。文句ある?」

 「いや?文句は無いわ。むしろイイネ!花ちゃんらしい」

 「それがアタシのらしさなのか……」

 「元々舐めた理由で地球人絶滅を進めようとした連中なのよ。やられたらやり返す!10倍返しぐらいブチかましてもいいじゃない?」

 「なるほどねぇ」

 「クックック……」

 「フハハハハ……」

 「「アーハッハッハッ!!」」


 「「……ゲホッゲホッ」」

 

 完璧な3段笑いを決めるロクデナシ二人。笑い過ぎてむせた。

 春野花子を見ていると結構マジで地球人は滅びた方が良いのではないかと思う、とか言ったマアリ産の生命体がいるとかいないとか。アタシ自身も同意。ほんのちょびっとだけな!


 そう、ヒールを演じる余裕まで産まれるほどに、ランクが上がったことによる“ゲーム”の難易度の上昇具合を、アタシ自身の成長スピードは凌駕していた。

 正直言って、何の遊びも無く仕留めにかかればもう楽勝だと思う。


 だから、必死になって抵抗してもらわないと、困る。

 

 何せアタシは戦いを楽しむようになってしまったのだから。コレすらつまらなくなってしまったらこの先何を楽しみに生きれば良い。

 

 蜂人間になったリリィが来る前の生活。理屈で言えば幸せ、と自分に言い聞かせる生活になんて絶対に戻りたくない。

 そのためなら命だって賭けるし、命を賭けた戦いで敵に塩を無理矢理送りつける。バーサーカー扱いされても仕方がない選択をし続けているアタシ。完全に戦いの中毒性にハマり、とても危ういバランスの中を生きている。

 

 その自覚があってもやめられない、とまらない。


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