2-3 積木遊び
全く、散歩なんかするもんではない。なんせ外は危険である。今や全身タイツの変質者とエンカウントする。このクソ退屈な町もついに本性を現したのダッ。ついでにUFOにもエンカウントする。やれやれだ。
つまり引きこもりこそ最強。最後に立っていた者が勝者。
アタシは強者として、優雅な暮らしをすることに決める。外出したら負けかなと思っている。「深窓の令嬢」あたりをイメージしたい。いざ、俗世から己を解放する時。―――まぁ、正直自分でも良く分かってないけど。
令嬢はテレビなどという低俗な物は見ない。一応テレビ欄見たけどマアリ達の宣戦布告や「スターハント」を潰された被害についての特番ばっかだった。まぁそりゃそうだ。
その特番だって、マアリ達のまともな情報があるとは思えない。それに関してはアタシの方がずっと分かっているワケで。
つーかまだまだ彼等との「ゲーム」は続くのだろう、勝ち続ける限り。……だったらそれ以外では徹底的にあのインチキ集団の事は考えたくないです。つまり現実逃避がしたい。
令嬢はベットでゴロゴロしながら漫画でも読みますね。
そしたらいつの間にか夕食の時間になる。令嬢なので、何もしなくても優雅な食事にありつける。
令嬢、飯食らう。
令嬢、風呂入る。
令嬢、即寝る。
まぁ、言う程何をしたという日でも無い。ぶっちゃけいつも通り。つまり、元から令嬢だったということか。でへへ。
でも、昨日があんなんだったことを考えると、どうもそのいつも通りに暮らしている事が妙に思えてくる。
―――いや、いつも通り、か?人3人くたばるのを目の前で見て、UFOをその目でハッキリその目で見ておいて?もう何度目かもわからんけれど、やっぱり自分の感性がどこか狂っていると思わざるを得ない。
でも、まぁ、そうだな。
そんなモンなのかも。
どれだけ前衛的なファンタジー展開にぶち当たってしまったとしても、それでアタシの中の「何か」が変わるわけでも今のところ無し……いや、変わってしまったとしても、まだアタシにはそれがわかってない。
もっと言うなら、その「何か」ってなんなのってのもわからん。
まぁ取りあえずは。今日の出来事はアタシの「何か」を変えた訳じゃない。と思う。
もう「トンデモ」だったら無条件に驚くような段階じゃあないってコト。
……いや驚くけどさ。いつまでも引きずらない。
何が起こっても変ではない、こんな時代。そういう話だ。ああなんというヒューマンなアタシ。ヤケクソ気味な適応。
「何か」が変わったとしたら、今日じゃなくて、やっぱ昨日なんじゃないか。
初めて奴らと戦い、そして勝利した日。そしてリリィが言うには、もうアタシには真っ赤な血液は流れていない。
黄色い“蜜”だ。それが流れている、らしい。このインチキ展開の元凶の1つとも言えるソレが。むしろ元凶そのもの?いやモノは使いようとも言うしなぁ。
……リリィが明日にはまたここに来る事になっている。もっと詳しく説明を求めてやろう。
つまりは時間が十分に足りていないだけだ。ここ数日の出来事を、キチンと実感するだけの。
アタシはリリィが来てから確かに「何か」が変わったはずだし、これからも変わっていくはずなんだ。
……何故か、明日が待ち遠しい。何の楽しみも無いはずなのに。
寝よう。とにかくにも。こんな答えの無い自問自答を繰り返してもしょうがない。アタシとしてもこんな事考えてもつまんないし。なんとかなるべ、そんときになったら。部屋の電気を消す。真っ暗になる。ベッドに寝転がる。
あ、エアコンの電源切り忘れてた。暗闇の中でもスイッチの位置は大体わかるけれど、手を伸ばしてももちろん届かない。
メンドクサ。ベッドから起き上がるのが億劫だ。なんつーか、真っ暗にしたら意外にもすぐ眠くなって気だるい。あー何か無いかな。そう……
……棒みたいなヤツ……いやズボラ過ぎるぞアタシ。ちょっと起き上がるだけなのに。……でも眠いー怠いー……。
……棒、棒……そんな都合の良いモンあるわけねー。探すだけ無駄だろ……もうこのままほっといて寝ても別にさぁ……
……あ、そういやコレが……何で今まで忘れてたのかな……
……もう体の一部みたいなモンなのにさぁ……
……おぉ、いったぁ……切れたぁ……へへへぇ……
……はぁ……
目が、冷めた。
今日はジャスト8時起き。……すげぇ、仕事も無い癖に早起きじゃないか。うん、8時起きを早起き等と称するのはグウタラ人間ってこたぁわかってますよ?
顔洗って着替えて朝飯を食う。それが終わって部屋に戻ると、待ち構えていたかのように能天気な声が聞こえた。
「うぃーす」
むっ!上かっ!?
見上げるとリリィが……えーと、天井にリリィの首から上だけが……生えていた?なのかなコレは。
「……ナニしてんの」
「天井をすり抜けて侵入しました」
するとヌルヌルっと天井からリリィの胸、腰、足と順に現れてきた。
「どうよサンタさんもル○ン三世も顔負けの侵入術」
「ヤメロキモイ」
「ヒドーイ」
天井をすり抜けてくる意味とかあったのか。普通に来いよ普通に。
「どうせ洗脳したとか何とかで玄関から入っても怪しまれない癖に」
「窓ガラスをぶち破りながらダイナミックエントリーしなかっただけマシと思いなさい」
「…………」
ある意味今日もダイナミックでしたけどね。
「むぅ、やっぱこの程度じゃあいいリアクションとれないなぁ。やっぱ窓ガラス……いやいっそ壁ごと破壊しながら……」
「う、うぁー!びっくりしたぁ、マジビックリしたぁ!マジヤヴァイ!上からとか!上からとか!すり抜けてくるとかマジ予想外ぃぃぃ!」
よし、これぐらいすれば満足すんだろ!どうだコラァ!
「……ああ、花ちゃんに気を使われているなぁ私。大丈夫、次は上手くやるわ」
「ヤメテェ」
お願いします。マジで。
「でも、そうねぇ。もうそんな一々驚いているような段階でも無いかな?なんせ、いまなら花ちゃんもコレできると思うし」
「やらん」
「MOTTAINAIなぁ花ちゃん。その全身を流れる真っ黄色な“蜜”は泣いているわよ。もっとフリーダムにいきましょうよ」
「いかん」
「そうそう、その力は元々あたしのもんだけど、別に代金とか請求しないよ?無駄遣いしてもさ。面白おかしくやってくれたまえー」
「だからアタシはそんなの……ってうぅん?」
何か違和感が……と、ふと上を見ると。
「チョリース」
「……アンタ暇なの?」
……マアリの生首が天井から……うん、つまりさっきのリリィと同じ。はぁ。
「暇ぁ?ノンノン」
リリィと同じように部屋に侵入してくるマアリ。
「有望株ってヤツを見に来たんだよ。あんたの事さ、花チャン」
馴れ馴れしいヤツめ。初めて会ってそう日にちも経っていないのに親しげに口聞いて部屋侵入。しかしどうせコイツに言っても仕方ないんだろうなぁ。
「嘘つけ。昨日もUFO乗り回して明らかにからかいだったヤンチャ男子3人組をわざわざアブダクションしようとしてた癖に。あんなもんに一々ちょっかいかけにくるぐらいには暇人でしょアンタ」
「おー花チャンあれ見てたのかーだったら声でもかけなよぉ水臭い」
「そんなに親しくないし……」
「ヒドーイ」
リリィだけでも手一杯だっていうのにコイツまで来やがった。さっさと帰らせるに限る。
「要件済ませたらカエレ」
「えー花ちゃんつれないわねぇ。お喋りしましょうお喋り」
「オンナノコ三人そろったらガールズトークだよ花チャン」
「何がガールズか。大体アンタらみたいな変態共と話してたら脳味噌溶けるわ!」
「えー」等とブーイングしてくる怪人二人。疲れる。
「ムショクー」
「ドクシンー」
「アラサー」
「カレシイナイレキイコールネンレイー」
「ヒンニュウー」
「……貧っていうか無じゃない?」
「それもそうだ。花ちゃんブラ持ってないんだよね。虚しくなるからって」
「うわー枯れてるなー」
「ムニュウー」
「ヨウジタイケイー」
「チチナシー」
言葉の暴力だ。チクショウ。
「後半乳の事ばっかじゃねぇか!だれが無か!流石に少しぐらいは……」
「無いわね」
「無いよ」
「うがー!」
……別に男共が思う程女はみんながみんな乳デカいだの小さいだので悩んだりしてない。無駄にデカいと邪魔臭いし。……ダヨネ?あれアタシだけ?
しかしここまで乳無しをいじられれば流石に不快。真に遺憾なり!
「るせーぞ!なんだったらお前らもチチナシにしてやろうか!?もぎ取るぞコラァ!!」
「バイオレンスねぇ」
「え、そういう性癖なの花チャン?」
「ダマレッ」
リリィが「ヤレヤレ」とでも言いたげにため息をついた。
「あーあ、分けれるモンなら分けてあげたいよ花ちゃんに」
そういうリリィの胸の部分は……蜂人間だからってか?元々の蜂のお尻の部分、臀部って言うの?あの中心から針でるトコ。アレを模した感じ。
「そんな得体の知れないモノいらんわい。それ見た感じ服ってわけでもないっしょ?」
「その通り。これが蜂人間としての私の嘘偽りなき姿。つまり全裸。セクスィー」
まさに蜂+人間という姿なリリィ。あるいは蜂の擬人化。改めてみるとホント元は普通の人間だったとか信じられん。
「はっ、露出狂スタイルだったか。そんな変態には乳があっても誰も寄り付かねーよ!」
「嫉妬は見苦しいわねぇ花ちゃん。全裸になってもエロスの欠片も無い癖にー」
言いおる。チクショウ元普通人のリリィの癖に生意気だっ!
「ナニィ。―――妙に突っかかるじゃねーかリリィ。だったらマジでチチナシにしてやんよ!白マナしか出ねー体にしてやらぁ!」
「またビミョーなトコからネタ持ってきたわね」
「……んーどういう意味?まぁよくわかんないけど取りあえず、リリィと花ちゃんって仲良いなぁ。ウムウム思う存分喧嘩スベシ!」
マアリが煽ってくる。
「やれー!もげー!」
「フフン、来なさい花ちゃん!」
……一応弁解しておくと、アタシ多分相当疲れてた。
「ランデスッ」
気合と共にリリィに跳びかかる。もう乳ネタは終わりだ怪人!ハレンチネタ良くない!サベツ良くない!貧乳も無乳も等しくステータス!ただし、巨乳は青少年の教育に悪影響なんで規制ダッ!
……うん、だから、疲れてたんだってばアタシ。マジマジ。
ソレに手が届く。引導を渡さんと力を込めたその瞬間。
一瞬、光を見た。ギラリと光るソレが。
そして、世界は闇に包まれた。というか、何故か両目に「刺されたような」激痛を感じて目を開けていられなくなった。もうまさに悶絶モノ。
「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!?目が!目がぁぁぁ!?」
「決まった!必殺『エロティックキラービー』!」
「ネーミングセンス終わってる!」
「ふふん、言ってなさい。このオパーイに誘われた哀れなヤツを地獄に落とす私の必殺のハニートラップよ!蜂だけに!」
「クソッタレが!ナニしやがった!?」
「地球人で言う乳首に当たる部分……早い話が中心から針が出るのよ私。それビュンっと伸ばして花ちゃんの目玉に直撃させた。ほら、昔の女型ロボットが使うオッパイミサイル的なアレよ。カッチョイイ~」
「カッチョイイ~……じゃねえよ!馬鹿かキサマッ」
ていうか目玉に針だって?アホすぎるが冗談になってない!失明するってレベルでは……
「……ってあれ?」
真っ暗だった視界が真っ黄色になってきたと思うと……すぐに普通に目が見えるようになった。いやまだちょっと黄色っぽいけど。
「うん?アタシ、目刺されたんだよね?もう見える……?」
「花ちゃん、顔ベタベタだねぇ。ほら」
そう言うとおもむろにリリィが、手でアタシの顔を軽く拭い、その手をアタシに見せてきた。
その手は、真っ黄色な液体で濡れていた。これは……
「そう、これが花ちゃんに流れる“蜜”。確かに確認したわ。目も尋常でないスピードで回復してる」
「良かったねー花チャン。正常に“蜜”は花チャンの力になってるよ。色々他の人達と違ったからちょい心配だったんだよ?」
「……まさか、これ確認するためにこんな茶番を?」
「だって説明パートってタルいのよ花ちゃん。こういう愉快なガールズトークもといコントも必要でしょう」
……ドっと疲れた。ガールズトークもといコント疲れで。
……ところで、ガールズコントってナニ?
リリィは満足気だった。
「うんうん、ガールズトークらしくなってきたわね」
「ドコがだ」
「こっから『揉まれたら大きくなるらしいよー』『ヤダー』みたいな感じに繋げればいいんだよね?」
マアリもこんな感じだし……
「発想がオヤジなんだよ怪人共」
もう乳ネタはいらない。




